MD2-167「世界を支配していたモノ-2」
両親の伝言に従い、西の地に両親の知り合いを訪ねた僕とマリー。そこで出会ったのはハーフエルフの鍛冶職人だというガルダさん、そしてその弟子のたぶんエルフなティスちゃん。しばらく過ごしたのち、ひょんなことから騒動に巻き込まれ、ようやく落ち着けたかなというところで僕達は祝福が得られるダンジョンの情報をガルダさんからもらった。
一番近い場所にあるダンジョン、上手くいけば短期間で祝福が得られるといっていたこの場所は……ゴーレムばかりが出るダンジョンだった。実入りの無いダンジョンを進む内、僕達は銀色の大きなゴーレムに挑むコボルトの集団に遭遇したのだった。
「広いからいいよね。ファイアボール!」
先手必勝。僕は左手から火球を生み出してこちらにくるコボルトのやや後方に撃ちだした。正面だとこちらにも爆風が来るかもしれないけれど、この位置なら手前のコボルトが盾になってくれるからね。それに、後ろで何かあった、っていうのは不安にかられるものだと僕は思う。
「エアスラスト! こっちにもエアスラスト!」
相手のコボルトは一斉にこちらに向かってきていた。つまりは一塊なわけで……そこに迫るマリーの風の刃。散開してる相手には使いにくいんだけどこのぐらいなら、ね。悲鳴と共に毛が飛び散るのを確認しながら数歩踏み込んで明星を振るう。作り直してもらった直後と比べると、この手の中の重みも変わってきたような気がする。少しは成長したのかな?
僕達のお腹ぐらいまでしかないコボルトを相手に剣を振るうとなると、どうしてもすくい上げるような動きか、斜めに振り下ろすことになるんだけど僕はまだ子供だからか、大人な冒険者よりはましだと思う。そのまま何匹かを切り倒しつつ部屋の中へと入る。
「ゴーレムは近くの相手を倒すようになってるのかな……」
『あのコボルトたちが一斉にこっちに来たら巻き込まれるかもしれんな』
出来ればそれは遠慮したいなあと思いつつ、部屋の中でもゴーレムとは反対側へと走ってコボルトを分断することを試みる。両者入り乱れてっていうのは対応が大変だからね。分断されたコボルトがゴーレムに負ければそれはそれでよし、ってことだ。
「ファルクさん、コボルト……ゴーレムに決定打を与えられないみたいです」
「え? 本当だ。全然綺麗だねっとお!」
追加でやってくるコボルトの手から何かが飛んでくる。投げナイフ代わりのよくわからない金属片だ。こんなのでも当たったら痛い、間違いなくね。姿勢がそれで崩れたところを狙ったのかそれともたまたまか。迫るコボルトに向けて明星を振るうには少し姿勢が悪い。僕はほとんど実戦じゃ使ったことがないけれど、ご先祖様の力を借りてナイフを生み出すと投げつけた。さっきのお返しだけどこちらはちゃんとしたナイフだ。
「王様に会う時に武器を取り上げられてもファルクさんなら余裕ですね」
「うーん、でもこれ品質が安定しないんだよね」
ご先祖様曰く、僕には鍛冶のためのスキルがないからというのが一番大きいらしい。ちなみに、魔道具の中にはスキルをかりそめに与えてくれるものがある。杖に力があって、火球を生み出したり癒しの魔法を使えるようになるものなんかもその一部らしい。昔々は一家に1本、ってぐらいにそういう杖があったらしいけどいつしか些細な争いに使わないようにって免許制のようなものになったと聞いている。
『道具は道具なのにな……お、あちら側に動きがあったぞ』
気が付けば、僕達の周囲には10匹近いコボルトの物言わぬ死体が。ゴーレムと戦っていた残りのコボルトもあちこちで倒れているから攻略は上手くいってないみたいだった。こうして見てもコボルトの攻撃は効いてはいるのかもしれないけれど目立った痛みがゴーレムには見当たらないし、それも下半身に集中してる。ゴーレムの大きさは僕の2倍ぐらいあるかな?
すると、コボルトの中でも少し大きめの奴が多分群れのボスだと思うけど……そいつがいきなり別の道に向かって逃げ出すのが見えた。そうなれば後は……うーん、さすがに可愛そうだね。
「マリー」
「はい。私たちが貰っちゃいましょう」
コボルトを助ける、とは彼女も言わない。魔物は残念ながら僕達とは別の立場で生きているんだ。両者が同じ場所にいたらぶつかり、勝者と敗者があるのが常識。だけどそれは一方的に虐殺をすることを意味してるわけじゃないと思う。
「そこをどけぇええ!」
わざと大きな声で叫びながら、僕は一気にゴーレムとコボルトの間に走り込んだ。コボルトが動揺し、ゴーレムもたぶんどっちを攻撃するか迷っているその間に、核を探すけど今回の相手は外には出ていなかった。僕が一番近い相手になったからか、ゴーレムの右腕が空気を切り裂く音を立てつつ迫る。左側に回り込むようにして回避し、そのまま左肩付近に切り付けるのだけど……硬い手ごたえ、それもそのはずで……剣はわずかに沈んだだけだった。
(硬っ! このままだと明星が先に痛むかも!?)
最近、魔法が中心で明星を活躍させられてないなあと思っての行動だったけどやっぱりゴーレム相手には分が悪いみたい。セリス君みたいに斬鉄のスキルがあれば……無い物ねだりはやめておこうか。
コボルトたちが我先にと逃げ出すのを確認し、ゴーレムと改めて向かい合う。大きくて……なんだかこれまでの相手とは違う。
(力が強いとかじゃないな……この感じは……)
「何か来ます!」
「うっそでしょ!?」
悲鳴のような声に咄嗟に後方に距離を取る僕。先ほどまで僕がいた場所に炎が踊った。それは……ゴーレムの放った物だった。その驚きの状況に2人して下がったのは当然だと思う。だけど一度こちらを敵と認識したら止まらないのか、ゴーレムが両腕を僕とマリー、それぞれに向けるとまたあの感覚だ。
「っとぉ! コボルトには本気を出すまでもなかったってこと?」
『らしいな。見る限り、ゴーレム自身が魔法を撃ってるんじゃない、別物だ』
ご先祖様の指摘に、今度は避けつつもその魔力とかの流れや集まる場所をよく見てみた。腕がこちらを向いて、何かの力……たぶん魔力がゴーレムから腕に……そこか!
「手首付近が魔道具だ! 牽制よろしく!」
「任せてください!」
タネがわかれば話は早い。足元に移動用の風魔法を生み出して速さを上げた僕はマリーの杖から飛ぶ小さめの火球に合わせて駆けだした。もちろんこちらにもゴーレムの攻撃は飛んでくるけど斜め前に飛び込むことで回避しつつ距離を詰める。片方の腕がそれでも僕の方を向くけれど、マリーの魔法により狙いはそれてあさっての方向へ。その隙に僕は至近距離に近づいて明星を肩口に向けて突き出す。ここは岩山、だったら属性はこれだ!
「吹き飛べ! ロックバンカー!」
実際に使う僕も僕だけど、こんな至近距離用の魔法だけ全部の属性を教えてくれなくてもいいと思うんだよね、うん。ご先祖様はロマンだ! いつか役立つ!って言うんだけどさ。
『実際に今使えたろ?』
(そりゃそうだけど……もっとこう、安全な……)
明星ほどの太さの岩で出来た杭、実際には魔法だからもうちょっと別物なんだけど……がゴーレムの肩を砕いて片腕を地面に落とす。もう片方も同じようにしてしまえば後はただの丈夫な人形の出来上がりっと。
「……気のせいかな。チャリチャリ言わない?」
「ですよね……あっ! 見てください!」
両腕を失って動かなくなり、そのまま沈黙したゴーレム。可笑しいなと思って様子をうかがっていた時だ。僕の耳には何か金属が落下する音がいくつも届いていた。マリーに言われて見てみると……ゴーレムの後ろ側から小さな何かの塊がどんどん剥がれ落ちるように落下していた。そのままゴーレムはどんどん崩れ去る。金属の音を残して。
「……マリー、これ……領地で預かっておいてくれる?」
「どうでしょう? アイテムボックスに入れてしまった方が安全じゃないですか?」
2人が呟きつつも呆然と見つめる中、ゴーレムだった物は無数の銀貨になっているのだった。
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