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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-165「目標へ向けて-3」


「金だけ持ってくねえ……まさか、お前純銀貨で払ったのか?」


「かさばらないからいいかなって思ったんだが仇になったよ。最近見かけないから油断してた」


 無事にガルダさんの工房まで依頼人を案内出来た僕達。再会を喜ぶ2人は依頼人が襲われたこと、荷物はお金以外無事だったことを話していた。ガルダさんはお金だけ持って行ったことに心当たりがあるみたいだった。


『純銀貨か……思い切ったもんだ』


 ご先祖様もそうつぶやくほどの物、純銀貨。これは僕も知っている。単純に銀貨が混ぜ物がないってことじゃなく、お金として使うものではない奴だ。換金できるような価値のある存在なんだよね。なんでも精霊戦争に関係してる、精霊が一番溢れていた頃に作られた銀貨らしい。今でも遺跡に眠っていたり、なぜか一部の魔物が集めてたりするらしいんだよね。一番有名なのは巣を作ってる竜種かな?


「確かにこれだけのエスティナ鉱石を買い付けるのには普通の銀貨じゃ相当な量だが……なるほどな。純銀貨は大きな魔法とかの補助に使うことも出来ると聞いたことがある。まずいかもしれんな……」


「あの、どうして純銀貨があることがわかったんでしょうか?」


 考え込むガルダさんと依頼人。そこに飛び込んだマリーの疑問には僕が答えることにした。だって、今もわかることだからね。だから僕は席を立ち、考え込んでいる依頼人の横に立つと何かあるようには見えない服の肩部分を指さした。


「仕組みがわかると簡単だよ。マリー、精霊感知を発動してみて。ここに集まってるのが見えるから」


「え? あ……本当です!」


 そう、純銀貨はある意味で美術品、骨とう品というのが正しいけれどその理由は純銀貨が内包している精霊の数にあるんだ。見た目はただの大きな銀貨なんだけど、ぎゅぎゅって精霊が詰まってる。昔々、精霊の減った世界に向けて純銀貨から精霊たちが飛び出して世界は精霊の光に包まれた……なんておとぎ話もあるぐらいんなんだよね。


(あれ、妙に具体的だよな、今考えると……もしかして? まあ、今はいっか)


 まだ依頼人が持っている純銀貨を指摘した僕だったけど、なぜかガルダさんだけじゃなく依頼人本人まで驚いていた。あれかな、いざという時のために隠し持っていた奴だから指摘されるとまずいのかな? だったら謝らないと……そう思った時だ。


「おい、クリスト」


「あ、ああ。ここには何もしてないんだが……んん? 本当に縫い付けてある……肩当てでわからなかった。母さんか……前に帰った時にほつれてるよなんて言って何かやってると思ったら……」


 その後、なんだか泣き始めてしまった依頼人、クリストさんをなだめる僕達。そういえば、このエスティナ鉱石で何を作るつもりなんだろうね? クリストさんはあまり出歩くようには見えないし、癒しの魔法を使えるようにも感じない。


「クリスト、そいつはそのまま縫い付けておきな。もっと使うべき場面があるだろうさ」


「しかし、これでもないと支払いが……」


 戸惑うクリストさんに僕も思わず頷く。どういったものを作るように依頼してるかはわからないけれど、職人であるらしいガルダさんを日数的に待たせた挙句、材料は確保したけど依頼金がありません、じゃ話にならないはずだ。

 ところが、ガルダさんは笑いながら自身の胸をどんと叩いてクリストさん、そしてなぜか僕達を見た。


「馬鹿言え。職人が一度作るって言ったものをひっこめられるかよ。それに次に稼いだ時に払ってくれればいい。そのほうが必死に働いてくれるだろう?」


「……わかった」


 目の前ではとてもいいお話が繰り広げられてるわけだけど、僕には疑問があった。たぶんマリーも同じ。クリストさんは何をしてる人なのかな?ってことなんだよね。必死な状況だったとはいえ、家より高い位置まで一気に木登りが出来るってことはそこそこ体を動かしてると思うんだけど……。


「この鉱石、全部使うんですか? もし余るなら私……少し買い取りたいんですけど」


「ん? まあそれはガルダ次第だね。念のために余分には買い付けたんだが……」


 視線が向かうのは工房の片隅に積みあがったエスティナ鉱石。クリストさんの荷物にある背負い袋の3倍はありそうなその量は確かに何を作るのか気になるところだね。そう、クリストさんの背負い袋は僕のアイテムボックスみたいな能力を持っていたんだ。


「輸送には便利だがよ。最悪捨てて逃げることを考えたら危ないんじゃねえのか?」


「今に始まったことじゃないさ。これのおかげで運び屋なんてことが出来るんだ」


 普段はそのまま逃げ切れるんだ、とクリストさんは言いきった。ということは今回はよほどの状況だったのかな?

 容量は僕のほどじゃないとはいえ、この量の鉱石を普通に運べるんだから運ぶ物を考えれば相当便利だと思う。やっぱり僕のアイテムボックスは容量だけは人に言っちゃいけないね。最近試してないけどどんどん容量は増えてるだろうから……ね。


「まあ、それもそうだな。よし、ファルク坊、手伝え。嬢ちゃんもだ」


「え? 僕達鍛冶なんかやったことないですよ?」


「私もです……でも何かできることがあるんですね?」


 弟子のはずのティスちゃんを差し置いて僕達が手伝えるようなことがあるんだろうか? そういえばティスちゃんは……と思ったら炉の炎を調整していたり、あれこれ運び込んでるからいつものことなのかもしれない。彼女を見ると、こちらの視線に気が付いたのか、任せてとばかりに手を振ってくる。


「ははは! そりゃ相槌はティスに任せるさ。クリストが欲しいのはな、魔力が必要なんだ。その時には作る段階で魔力を込める必要がある。その量が多ければ多いほどいいんでね。2人ともそこそこ使えるだろう?」


 ガルダさんの説明に僕もマリーも頷きを返した。そういうことなら問題ないよね、いい経験だし。さっそく始めるということで僕達はガルダさんとティスちゃんの作業をすぐ横で見守ることにした。まずは熱し、鉱石を溶かしていく。薄い緑色の鉱石が熱せられ、赤い光を帯びることでなんだか不思議な光り方をしている。


「これが青くなったら注いでくれ。注ぎ方は……まあ、やればわかるだろう」


「おいおい、ガルダ。そんな適当な……おお?」


 クリストさんはあきれ気味だけど、とりあえず魔力を込めるというのは魔法を使えるようになった人にとってはかなり簡単なのだ。元々、魔法は自分の好きな場所に魔力を集めるようにして言葉で精霊に呼びかけて力とする……らしいからね。


 ガルダさんが何かの粉末をぱらぱらと溶けたエスティナ鉱石に振りかけると、急にその色を変えていくエスティナ鉱石。魔力を注げと言われた青い色だ。まるで夜明けのような濃い青……。


 水が高いところから低いところへと流れていくかのように、僕とマリー、そしてそれよりは少ないけどガルダさんやティスちゃんからも魔力が動いていくのがわかった。2人とも十分な量が出せてるような気がするけど……なんだかどんどん注げるね。


『さっき入れたのは何かの触媒だろうな。触ってないから鑑定はできないが』


(秘密の手法ってやつだね。僕も落ち着いたら店の売り物を作れるといいなあ)


 そんな風に考えていたのが良くなかったのかもしれない。僕は手加減を忘れていつものように魔力を練り上げてしまった。上限がわからないからゆっくりと注いでいたのに、だ。そうなるとどうなるか? 答えは簡単、一気に魔力がエスティナ鉱石に流れ込んだんだ。


「! 止めろ!」


「ご、ごめんなさい」


 慌てたガルダさんの声に僕も謝りながら魔力の集中を止める。改めてエスティナ鉱石を見ると、まるで宝石のように青く澄んだ何かがあった。鉱石を溶かした器の中で気のせいだろうか、既に固まってるように見える。


「謝ることはねえ。喜べクリスト。最高のお守りが出来るぞ。家が買えらぁ。ティスは相槌の出番が無くなっちまったけどよ」


「もう、ファルクさん。気を付けてくださいよ……って、家!?」


「すごいの! こんなの、ティスとししょーだと年に1つ出来るかどうかぐらいなの!」


 冷静に考えると年に1つ出来るかもしれないという2人の方もかなりすごいような気がしないでもない。だけどその場は妙に盛り上がって、結局後は加工するだけというところまで作業を進めた後にひとまず休憩となった。


 ティスちゃんはまたご飯を作っているし、ガルダさんもどこか嬉しそうだ。僕としては自分の関係ないところで物がよくなるっていうのは職人的にどうなのかな?って思うかと思ったんだけどそうでもないみたいだ。

 なんでも、普段は魔力が籠った時点で打ち込むことで今ぐらいとまではいかなくても固めるんだって。そうすることで力を発揮するそうだけど、今回は僕とマリーの注いだ魔力のおかげで叩くまでもなく結晶になったんだとか。


「クリストはなじみの相手だからな。そいつの目的が達成できるならなんだっていいさ。使えるもんは使う。良い材料なら良い物はできやすいがそれだけにこだわる必要もねえさ」


「よかったですね、ファルクさん」


「う、うん」


 どうやらそういうことらしい。クリストさんはまだ加工していないエスティナ結晶、鉱石をあれこれすると出来上がるまるで水晶のように透明なそれを興味深く見つめている。後はこれを専用の枠にはめてちょっとやると出来上がりらしい。


「娘に良い土産が出来たよ。二人とも、ありがとう」


 お礼を言われ、なんだか僕は店で物を売った時にすごく感謝された時のことを思い出した。僕としては当たり前のことでも、相手にとってはそうではなかった、そういった時だったね。そうだよね、冒険だけが人を救う訳じゃない。


「クリストさん、ガルダさん、しばらくしたら教えて欲しいことがあるんです」


「ん、どうした」


「ふむ?」


 向き直った僕に、子供に接するような物じゃなく、しっかりと視線を向けてくれる2人。だから僕も覚悟を決めてしっかりと見つめかえして口を開くんだ。僕の、目標のために。


「祝福が得られるダンジョンとかの情報をありったけ売ってください。それらを攻略して、霊山に挑みたいんです」


「私も、それに同行する予定です」


 覚悟を決めたつもりの僕達の言葉に……2人の答えは承諾だった。







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