MD2-162「かつてを知る者」
西方諸国。最初の精霊戦争後に産まれたという国の集まりだ。そこでは大小様々な国が、国を超えてモンスターと戦ったり、交易の便宜を図ったりといったことをしてるらしい。僕にはよくわからないけれど、そうなると力のある国が威張ったり、色々と問題がでそうなんだけどな……?
「それでも形はあるってことは上手くいってるってことか……」
『まあ、そうだな。すべて大丈夫ってわけではないだろうが……まずは宿か?』
冒険者はこの国、この地方でも生活に食い込んだ立場の様だった。僕とマリーが差し出した冒険者証から何かを読み取ったかと思うと、通行の許可が無事に降りたのだ。個人個人の魔力の違いを刻んでるとか聞いたような気がするけど、よくわからないね。
「さあ、ファルクさん。ご両親のお友達のところへ!」
「あはは。本当にいるかわからないし、まずは宿を取ろうよ。ホルコーも休ませてあげたいし」
なぜか元気にそういうマリーをなだめて、僕は宿を探してホルコーを引っ張りながら町を歩く。どことなく、オブリーンの町とは雰囲気というか、建物の感じとかも微妙に違うよね。色々混ざった感じがあるのは、もっと西の国の文化もここまで来てるからかな?
「見てください。モンスターの干物ですよ!?」
「え? うわ……何だろうアレ。8本の足?」
雑貨屋のような店先にぶら下がった平たい物が目に飛び込んでくる、ちょっと茶色いそれは干物なんだろうけど、見たことないね。魔除け? うーん、食べるのかな?
そんな風に思っていた僕達の声が聞こえたんだろう。店主がこちらを向いて怒るかと思ったらいい笑顔を向けて来た。
「はっはっは! 初めてみるのかい? コイツはタコっていうのさ。伝説の英雄たちの時代から食べられてる海にいる珍味さ。食べると元気が出るんだぜ。どうだい、1枚」
「これ魔物じゃないんですか? へぇ……海か」
実は僕、海を知らないんだよね。言葉だけは知ってるんだけどさ……。川より湖より大きいんでしょ? しかもそこには大きな魔物がいる。怖いな……たぶん行かないだろうけど、多分ね。でも魔物に見えるけど魔物じゃないってのは面白いね、思ったより安いし買っておこう。
「……なんだかにおいますね。悪い匂いじゃないですけど」
「そうだね。独特の……入れておこっか。交易が盛んなのかな? なんだか色々あるね……」
宿を探して市場を歩くけれど、見える売り物に統一感がないというか、少し歩くと別の国の空気を感じるというか、そんな感じ。オブリーンに近い場所でもこうなんだから、もっと西にいったら規模は大きく変わるんだろうね。
何度か呼び込みの人に誘われつつも、僕達は宿のある区画にたどり着く。馬を預けられそうな場所を探してさ迷うことしばし、僕は変な家を見つけた。そう、家だ。宿じゃなく……家。だけど外には木箱がいくつも詰まれ、蓋の無い樽も何個も置かれている。そこには駄目になったんだろう剣や槍、半ばで折れた棒等が差し込まれていた。よく見ると何か看板があるね。
「武具処分します?」
「お店なんでしょうか……」
近づいてよく見てみると、確かにお店っぽい。波打つガラスから見える中は薄暗いからよくわからないけれど、窓のそばに光るのは両刃の剣。窓越しだけど、僕の目には刃を落としてある、売り物じゃない物だとわかった。極端な形だし、こういうのも作れますよって参考にするやつかな?
「お邪魔してみましょうか。なんだか気になります」
「うーん、ホルコーをどこかに預けないとね。……ん?」
不思議な雰囲気にどうも惹かれるけれど、まずは宿を決めてからと思っていると家の横から人の気配。庭になっている部分を覗き込むと、井戸があり、そこには一人の男性がいた。水を汲みに来たのか桶を手にしている。
『ファルク』
(うん、感じるよ。ご先祖様からもらった力と近い物を)
僕はその男性を見るなり、感じたんだ。今の僕でもご先祖様の力を借りて、短剣ぐらいなら何もない場所から生み出せる。それとおんなじ、魔力の流れのクセみたいなのを感じたんだ。もしかして、この人は……。
「なんだ、坊主。女連れで用か?」
「ええっと、初めまして。僕はファルク、彼女はマリー。両親のツテを頼って探し人の途中なんです。ガルダって名前に心当たりはありませんか?」
ガランと、桶を落とす音がした。驚きに目を見開く姿はただの人に見える。青の混じった黒のような撫で髪は肩口近くまで長く、後ろで縛っている。髭のあまりない姿はぱっと見の年齢を若くするのに一役買っていると思う。袖の無い服を着ており、そうして見える肩から腕にかけては筋肉もりもりで力強そうだ。
「ファルク……そうか、あいつらの息子か。あがんな。馬はそこに結んでおけ」
「え? ということは……」
俺がガルダだ、そういってガルダさんに言われるままに僕達はお店のような場所の裏口から中にお邪魔するのだった。一人暮らしかと思いきや、中には他にも人がいた。僕ぐらいの歳頃の女の子だった。
「ししょー! お客さんなの?」
「そうだ。あー、飯はまだか? だったら食ってけ。どうせここに泊まるんだからな」
止まらないイノシシのように元気に走って出ていく女の子を呆然と見ていると、笑い声がする。誰であろう、ガルダさんのものだった。どうやらいつものことらしい。外からだとわかりにくかったけど、こちら側は結構広くて、2人で住むにしては随分広いなというのが僕の印象だった。
「お二人だけなんですか?」
「ん? ああ。元々は旅の仲間が泊まるように金を出し合って建てた場所だからな。部屋だけはある。さてと……食事の準備も修行だからあちらは任せておくとして。碌に顔も出さねえと思ったが、やっぱり帰ってないのかあいつらは」
座るように促され、しっかりとした造りの木製の椅子に腰かけるとなんだか妙に落ち着いた気分になった。それはガルダさんの持つ雰囲気が頼れるお兄さん、みたいなものだったからかもしれないね。そんなガルダさんから飛び出す言葉が僕の心を試しにかかった。
どうなんだろうか。僕は両親が生きていると本当に信じているのだろうか? 当然、考えていないわけじゃない。こうして外に出て来たからこそわかる。世の中は本当に危険がすぐそこにあるって。そんな生活の中で、冒険者として生きて来た両親が遺言のような物を残して挑む、その厄介さがどんなものか想像は簡単だ。
だけど……。
「はい。戻ってこないから、追いかけて叱りに来ました」
「私はその付き添いです。外の馬、ホルコーちゃんも」
言い切った僕達の姿が予想外だったんだろうか? ガルダさんはポカーンとした後、またさっきのように笑い始める。そのうちお腹まで抱え始めた。そんなに面白い話だったかなあ?
あまりの笑い声に、台所に引っ込んだはずの女の子まで顔を出す始末だ。
「ははっ、悪ぃ悪ぃ。ティス、準備が出来たらまとめて持ってきていいぞ」
「はいなの! ししょーがなんだか楽しそうだからティスも楽しいの!」
手慣れているのか、あっという間に人数分の食事を作り終えたらしいティスちゃんは危なげない仕草でお皿をいくつも持ってくる。それは僕達の間にあった大きなテーブルに乗せられ、その湯気が視界で揺れる。
「ま、高級店とはいかねえが味は保証する。そこだけは拾いもんだったなあ」
「拾い物とかししょー、ひどいのです! ティスはれっきとした弟子なんですの!」
なんだか面白い口調のティスちゃんはややゆったりとした作業着風の服。汚れは無いから普段着用かな? この状況と、師匠と弟子ということはガルダさんは……。
「聞きたいことは色々あるだろうが、まずは飯だ」
「はい! いただきますね」
骨付き肉を手に笑うガルダさんに頷き、僕達も食事を始めるのだった。
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