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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-161「調和を乱すもの-3」

またちょこっと長くなりました。


 結局、イグノアが何故こんな人里近くの山にいたのかはわからなかった。過去にも例が無いわけじゃないらしいけど、非常に珍しい事の様だった。というか、そう何度も来られたらそこに住んでられないもんね。


「今回は坊主の頑張りでなんとかなったが、普通なら村の放棄も考えるところだ。全く、無茶しやがって」


「すいません」


 村付きの冒険者だという相手の言葉に、僕は言葉なく返事を返す。実際、半日は痛みに呻くことになったし、今も右手はしっかりと力が入らない。明星も片手で振るうことになるだろうけど利き腕じゃないからなあ……無理と思った方がいいだろうね。


「治療の方は安心しろ。村の被害が無かったってことで報酬以外に村長がよこしてくれたよ。ここで無理するとこの先の人生で苦労する。痛みが引くまで……まあ、2日は静かにしてるんだな」


「ありがとうございます」


「じゃあ私はご飯の準備をしてきますね」


 2日……か。命がけの戦いの結果と考えれば短いと言ってもいいと思う。目的そのものはある旅だけど、この2日でどうにかなるようなものでもないのも確かだった。何より、じゃあ無理はしないから出発しよっか、なんて言った日にはマリーに雷な魔法で気絶させられそうだね。


『俺の生きていた時代のままなら、このあたりの地域には確かに地竜やイグノアなんかは結構生息していたが……突然だったな。ファルク、もしも、もしもだが……黒い石を見つけたら迂闊に触るんじゃないぞ』


(黒い石? 何かの属性な魔石なの?)


 食事の準備に外に出ていったマリーの背中を見ながら心の中で問いかける。黒い石……闇の魔法? うーん、なんだか違うような。それに、イグノアと戦ってるときにはそういう感じはしなかったよね。

 どちらかというと、前に戦った人狼の戦士のいた場所に近いような空気をなぜか感じた気がする。


『昔昔の話だ。精霊戦争は聞いたことがあるだろう? あれのきっかけの1つは、黒い石だった。魔力と精霊を食べ、消し去る恐ろしい石だ。ただ、確かに今回はそういうのは無かったな……』


 その後も考え込むご先祖様。僕が知ってるのは伝わっているおとぎ話だとかそのぐらいだからね。ご先祖様が知らないことがわかるってことはないわけで……頼り切りも良くないとは思うんだけどね。そのあたりももう少し西にいるという両親の友人という人から教われるかもしれない。


 その後は結果的に静かな時間が過ぎ、僕とマリーはこの村にそのまま2日滞在することになる。

 獣の異常な出現は急に収まりを見せて来たので、やはりイグノアが影響を与えていたんだろうという結論になった。トドメを刺したし、途中戦っていたのを他の人も見ていたからかイグノアの素材売却金なんかは半分は僕の物になった。なんだか申し訳なくなって、一部は村に寄付したんだけどお人よしって言われてしまった。いいよね、うん。


「どうですか、ファルクさん」


「うん。大丈夫みたい。指もしっかり動くよ」


 心配そうなマリーに答えながらも、二日と言っても訓練もサボった形になったのでちょっとそのあたりが心配だった。そのうち嫌でも戦いになるだろうからそこで取り戻せるとは思うけどね。

 今日も元気いっぱいのホルコーに跨り、僕達は旅を再開した。




「なんだか永遠に続くみたいですね」


「旅がってこと? そう……だね。こうして2人でたき火を挟むのは何回目かな」


 今日もまた、街道沿いにあるこれまで他の人が何回も野営をしたであろうたき火跡を借りる形で僕達も夜を過ごしていた。昼間は随分と温かく、暑いぐらいだけど夜ともなればそうもいかない。風邪をひくことはないかもしれないけど、次の日に支障が出そうなぐらいには冷えるのだ。


「ファルクさん。聞いてもいいですか?」


「ん、何?」


 気配の動きに顔を上げると、反対側にいたマリーが僕の横に座るところだった。離れてる理由もないけど、わざわざそばに座る理由もない、そんな状況。僕は鼻に届く彼女の匂いに内心ドキドキしていた。それを誤魔化すようにたき火に薪を追加しながら言葉の続きを待った。


「もし、霊山で戦女神様か女神様かわかりませんけどそういう相手に出会えて、ご両親と会える……だけどそのためには命がけで何かと戦わないとだめだって言われたらどうします?」


「戦うよ」


 きっとずっと考えていたんだろうね。おずおずといった様子のマリーの言葉に、僕は即答した。即答しすぎて、マリーがしばらく反応しなかったぐらいだ。だけどこれは僕が旅のほとんど最初の方から決めていることだった。もちろん、どのぐらい厄介そうか、どんなものか、なんてのがわかってない時の決意でもあったのは確かだけどね。


「でもね」


 何か言いたそうなマリーの先手を打って、僕は隣に座っている彼女の手に自分の手を乗せる。そして驚く彼女に向き直って、しっかりとその瞳を見つめた。不安と、いろんな感情が混ざった瞳は潤んでいる。僕のためにこんな風に悩んだり考えてくれたりするなんて、それだけでも僕は幸せ者だなって思う。


「ちゃんと無事に生き残るよ。マリーと未来を生きたいし、君に両親と会ってもらいたいしね」


「ファルクさん……」


 ちょっとカッコつけ過ぎかな?とも思ったけどご先祖様は楽しそうな気配が伝わってくるし、マリーは感動で一杯なのか先ほどよりうるうるしてる瞳のまま抱き付いてきたからたぶん正解だ。僕の気持ちを正直に伝えただけなんだけどね。


 たき火の光りが僕達を照らし、揺れる炎がそのまま僕達の心の揺れを表してるような雰囲気の中、僕達は……。


 瞬間、轟音が耳に届く。


「ふぇっ!?」


「なんだ!?」


 慌てて周囲を見渡すと、僕達が向かう方向の街道に夜だというのに光が見えた。僕達みたいなたき火にしては大きい。なんにせよ、何もありませんでしたってことはないだろうね。仕方ない、ここで放っておけるようなら僕達は旅をしてないや。


「ホルコー!」


 僕が叫ぶ間に、マリーは手早くたき火の始末をして荷物を手にしている。いざという時のために荷物のほとんどは僕のアイテムボックスの中だからたぶん他の人より僕達は随分と身軽だと思う。だからすぐに準備は整い、夜の街道をホルコーは駆け抜けることになる。


「まったく、これで大したことが無かったらホルコーに蹴ってもらおうかな!」


「また機会はありますよ。それに……大したことあるみたいですよ」


 マリーの言う通り、向かう先にはたき火が散らばったことで広がった炎による灯り、それ以外にも魔法であろう灯りがあった。そこに照らされていたのは、倒れた馬車を背に立っている人影と、それを囲んでいる人影。まあ、どっちが悪いかはたぶんいうまでもないとは思うんだよね。


「一応近くまで魔法は無しで」


「そうですね。間違えてもいけません」


 一応もうちょっとわかるまで手は出さないでおこうと思っていたんだけど、その心配は無用だった。囲んでいた側が近づいてくる僕達を見るなり、何人かが声をあげて襲い掛かって来たんだ。どう見ても最近体を洗っていないし手入れも適当です、な斧なんかを振りかざしてね。


「「雷の射線!!」」


 向かってくる相手に撃つならこれが一番。僕もマリーもそう思っている魔法が夜の闇に一瞬光を産んで相手を沈黙させる。そのまま転がった相手は今は無視して駆け寄ると、馬車を背にしているのは武装した冒険者らしい人が数名と武装していない人も数名。護衛と商人ってところかな? なんだかなじみのある気配がするような?


「てめえら!」


「安眠妨害のお礼をしに来たよ! っと、ブロッカー!」


 そんな挑発の言葉を口にしながら、僕は剣先を……誰もいない方へ向けた。正確には、見えていないだけでいるんだよね、少し離れたところにさ。武装してる護衛がいるのを襲う野盗ってことは考えなしか、十分勝算があるからだ。そう思って地図の範囲を広げたら大当たり! 見事に少し離れたところに野盗の仲間っぽい反応があったんだよね。暗闇から迫る何か、それは僕の生み出した土壁に突き刺さって音を立てる。間違いなく、矢だ。側に味方もいるからか、魔法は無しにしたみたいだね。


「当たるか心配ですけど……ファイアボール!」


 土壁を飛び越えるように撃たれたマリーの火球が向こうで爆発するのがわかる、当たったかどうかはわからないけれど、少なくとも相手はひるむわけで……そうなれば本命である馬車の方はどうなるかな?

 結果としては、僕たちとに挟まれる形になって何人かは倒れ、何人かは逃げ出した。地図上の反応も遠ざかっていくからひとまずは大丈夫かな?


「ふう……けがはないですか?」


「あ、ああ。君たちに得もないのに、ありがとう」


 僕は馬車の持ち主であろう相手を見て驚いた。帽子が取れて見えた耳は僕とは違う。見覚えのある形ではあるけれど……つまりはエルフだったわけで。道理でなんだか知り合いな感じがしたわけだよね。


「あのままだと僕達も襲われたかもしれませんしね。どうします? 僕達はこの先の街に行く予定だったんですけど」


 この人数ならいっそのこと夜通し進んで街で休むという手もありではあると思う。それを伝えると、相手もしばらく考えた後、頷きを返してきた。彼らは僕達が向かう先の街からこちら側に来ていたらしかった。


「一度戻ったほうがよさそうだからね。ご一緒出来るかな?」


「ええ、もちろん」


 すっかり目が覚めてしまった現状ではどうせ寝られる頃には夜明けになっていそうだったのも手伝って、僕達は夜の街道を進むことになった。モンスターがこのあたりではあまり出ないのも夜に進む理由だった。本当は危ないんだけどね……休むに休めない状況だから仕方ないね。


 そうして街の灯りが見えてくるころまで進んだときには空が少し白くなってきていたけど、あれ以来モンスターにも人にも襲われなかったので幸運だったってことかな? 判断は分かれるところだ。


 そんなこんなで、予定とは大きく違う形ではあるけれど僕達は両親の友人がいるらしい街に到着するのだった。



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