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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-016「草原の戦い-2」

「小枝が5……腕枝が……あ、こっちもそうだ。これで3本か」


「思ったよりも残りましたね。あちこち焦げてると思ったんですけど」


2人が何をしているかと言えば、倒したトレントの処分だ。


トレントは全身が素材なんだよね。


僕も何度か扱ったことがあるけど、まず枝はそれだけで

魔法使い用の杖や、特殊な武器の材料になる。


それに幹は大きさを変えることで防具に組み込んだり、

建物の中に仕込んだりと使いようがあるらしい。


さらに葉っぱや根っこの部分は薬になるとか。


僕はどれも作れないけどね。


「うーん、話に聞いてるより白いね……これは……」


「トレントに成りたてか、このあたりに獲物がいなかったか……悩みますね」


マリーの言葉に僕は頷く。


トレントは簡単に言えば動く木、だ。


最初はただの木なんだけど、その近くで生き物が死ぬと

その体や血を養分とした木がトレントに時折なるのだ。


その時の相手が単純に強いほどトレントも強くなる。


さらにトレントは獲物を仕留めれば仕留めるほど、

幹や中身が赤黒くなる。


そう、取り込んだ獲物の影響だ。


血が赤くないモンスターばかりの土地のトレントは青かったりするらしいけど、

色が濃いトレントほど強敵だというのは共通事項らしい。


(どちらにしても気持ちの良くない話だけど、ね)


気を取り直して今回倒したトレントを観察すると、

全くと言っていいほど色が変わっていない。


成りたてだとすると近くでモンスターなりが殺された?


でも近くにはそれらしい様子はない。


だとすると移動して来たか、長い間ここにとどまっていることになる。


『この場所にずっといたとすると、その割には弱っている様子はなかった……。

 何かあるな……下手に動かないほうがいいかもしれんぞ』


真剣なご先祖様の声色。


僕も頷き、帰り道の方向にある緑を見る。


そう、ここはパピル草の群生していた森を抜けた先の草原。


逆に言えば戻るには森に行かねばならないのだ。


「帰り道には森があるからね。下手に今日のうちに帰ろうとしないほうがいいかもしれない」


「確かに……ここなら草原で広いですからね。もうすぐ夕暮れです」


そう、マリーの言うように時間も時間だ。


2人で協力して河原の石を集め、簡単にかまどを作る。


アイテムボックスから毛布を何枚か出せば

野営の準備は瞬く間に進んだ。



「後は過ごすだけ……なんだけどね……」


夕食を終え、後で見張りをするというマリーは先に毛布にくるまって既に寝息を立てている。


僕はと言えばたき火に気を付けつつ寝ずの番だ。


虚空の地図にはおかしな様子はない。


ご先祖様曰く、何か魔力の強い相手が近づけばわかるようにしている、とのこと。


ありがたくその地図を見ながらの見張りを続けるのだけど、

どうにも落ち着かない。


「誰かに見られてる? ううん、違うな……なんだろう」


元々見張りをしているのだから眠るつもりなんてないのは確かだ。


それはそれとして……何かが僕の感覚に引っかかっている。


『俺も何かを感知してるわけじゃないが……何か気になるな……』


「うん……そうなんだよね。なんだろう……」


モンスターが近づいてくる様子も無ければ、

どこかで何かが起きているようでも無い。


静かで、平和な夜。


だというのにこの緊張感はなんだろうか。


マリーがまったく気にしていないことを考えると、

僕だけが感じていることになる。


『いや……待てよ? 今はファルクに合わせて地図も近距離にしている……。

 少し広げるぞ』


「うん。……くっ」


虚空の地図は意外と魔力を消費する様で、

普段展開している範囲が如何に狭かったかを感じさせる勢いで

地形の表示が広範囲になっていくのが目に入る。


じりじりと、僕の魔力が減っていく。


『さらに……いた! 上か!』


さらに山の上から見下ろした光景のように地図が高低がわかるような姿に変わっていく。


そんな中、地図の通りならかなりの上空に何かが光った。


と同時に、その光は急に加速し、地図から飛び出していく。


『何か落としたぞ!? それにあの速さ……普通じゃないな』


「噂のドラゴンかな?」


地図の光の大きさからいって、この光の主は僕なんて比較にもならないほど

強い魔力を持った生き物、だ。


それが空を飛んでいるとなれば僕にはドラゴンぐらいしか思いつかない。


『それはわからんが……来るぞ!』


ご先祖様の叫び共に、かなり離れた場所でものすごい音が響き渡る。


鳥が飛び起きたのか、ギャアギャアと声が響きながら無数に飛び立つのがわかる。


「!? な、何が起きました!?」


「わからないけど、見に行くにしても明るくなってからにしよう」


さすがに目を覚ましたマリーの問いかけに、

僕はそういってまだ横になるように促した。


マリーはやや不服そうだったけど、それでも毛布に横になる。


さすがに寝られないのか、たき火を見つめた状態だ。


「目が覚めてしまいました……」


「だね。僕もしばらく交代しないでもよさそうなぐらいさ」


僕も肩をすくめて答え、たき火に薪を追加し、火をやや大きくする。


家で料理をしていた時のように、

こぼれた薪を中に押し込みながら

川で汲んだ水を鍋で沸かすべく火にかける。


交代するにしても、なんにしても何か飲めた方がいいと思ったからだ。


それを見つめるマリーの瞳は火にか、あるいは

突然の爆音への驚きにか、潤んでいた。


「ファルクさんって、器用ですよね」


「そうかな? まあ、親がいない間は色々やれるようになったのは確かだけどね」


お湯が沸いたときに備え、荷物から適当にお茶っ葉と

コップを2人分、出しておく。


「普通はもっと大雑把みたいですよ。それに比べれば十分器用です。

 魔法も適性が多いみたいですし」


「マリーだって火に風に雷でしょ? 3つ実戦に使えるってすごいって聞いてるけど」


そう、僕が苦手属性無しというのがレアなのは確かなのだけど、

マリーのように複数の属性を実戦で使えるというのも

なかなか貴重なはずであった。


ギルドでわかる得意な属性も戦闘に適した属性かどうかわからない中、

どれも戦いに役立つのだから……。


「まあ、そうなんですよね。だからこそ親戚に預けられたんですけど……。

 じゃあファルクさん、戻ったら水や土なんかの練習をしましょう。

 そうしたら、2人で何が相手でもひとまず戦えます」


「それはいいね。朝が来たら音の原因を少し探索して、

 早めに戻ろうか」


そうして話していくうち、マリーも眠気が戻ってきたのか静かになる。


僕はそんなマリーに笑顔で視線を向けながら夜を過ごす。


『もし寝てても時間になったら起こしてやるからな、安心しろ』


(うん。ありがたくお願いします)






「これは……オーガ……でしょうか?」


「なのかな? 僕は見たことないからわかんないな……」


翌日というか翌朝。


火の始末をして2人が向かった先は夜に何かが落ちてきて音を立てた方面。


ホルコーに乗って進めばすぐだった。


草原のど真ん中に、すり鉢状の大穴が開いている。


「でもこの角に肌。体からはたぶん、そうですよね」


『間違いないな……こんな場所にいるやつじゃないぞ』


マリーの推測を、ご先祖様が補強し、それは1つの結論となっていく。


「昨日、何かが上の方を飛んでた……として、それが落としていったのかな?」


「そう考えるのが自然ですね。でもなんででしょう……」


目の前のモンスターの遺体、僕の2倍はあるであろう背丈に

筋肉質な巨体。


手には何も持っていないけど、オークと比べると

明らかな違いがその体だ。


どちらかといえばぶよぶよとした印象の強いオークと比べ、

目の前のコレは鍛え上げられた戦士のソレだ。


「ここで考えていてもしょうがないし、角だけとってギルドに報告しよう」


結局、僕はそれ以上危ない橋を渡ることなく、確実な道を選ぶ。


マリーも反対することなく、念のためにと周囲を警戒してくれている。




結果だけを見れば、本来ならば手に入らない素材をいくつも手に入れ、

怪我も無く依頼も完璧に遂行。


文句の付けどころの無い旅になったわけなのだけど……。


当然のことながらギルドは騒ぎになった。


すぐさま確認のための人員が手配され、僕達のいうこと、

草原でなぜかオーガが死んでいるということは確認される。


ドラゴンであるかは別として、夜営中に大きな音がしたことなどは

伝えることが出来たのでギルドの面々もすぐに悟ったことだろうと思う。


何かが、オーガを上空から墜落死させたのだと。


あるいは既に死んでいるオーガが落とされただけかもしれないけど……。


僕とマリーは幸か不幸か事件に巻き込まれただけと判断され、

特別に何かをさせられるということはなかった。


ただ、しばらくは話を聞くかもしれないから

この街を拠点にしてほしいとは言われたけどね。


こちらとしても強くなるために過ごす予定だったから問題は無かった。


事件から数日。


僕達2人は今もまだ、シルファンの街にいた。

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