MD2-158「悪意の芽」
父さんたちの友人が住むという西の地を目指し、オブリーン王都から西へ西へと旅する僕とマリー、そしてホルコー。他所から見ると子供2人だけの旅に見えるのか立ち寄った村では結構な頻度で心配された。冒険者らしい人や、自警団のように普段魔物と戦っている人たちは僕達の力や魔力に気が付いたりして一声かけて去っていくのだけど、おじいちゃんやおばあちゃん、あるいはお母さんたちはそれでも心配してくれたりしてちょっとうれしかった。
「この干した奴美味しいね」
「ええ、びっくりです。生のは食べたことありましたけど……」
再びの街道で、僕達はとある村で貰った干した果物をかじりながら進む。ホルコーもさっきからじっくり味わうように口をもしゃもしゃと動かしている。まだまだたくさんあるから、次にどこかに泊まる時にはいくつか食べさせてあげようかな。
『少し、モンスターが暴れているようだな……直接どうということは無いと思うが、時折こういうことがある』
(相手はいなくならないもんね。大変だけどしょうがないよ)
旅の途中、何回も襲撃に会い、あるいはどこかを襲う前にと立ちはだかり、戦いとなった。ランド迷宮でゴブリン数体相手にひどく緊張していた日が随分と前に感じるけどそんなことは無いんだよね。僕は自分の手を見て、急激についてきてるように思える自分の力に少し恐怖とは違う感情を抱いていた。
「大丈夫ですよ、ファルクさん」
「マリー……」
そんな僕の手を包み込むようにしてくるマリー。僕の葛藤や悩みはお見通しってところかな? いや、そうか……彼女も同じなんだ。むしろ、家のことが騒動として襲い掛かって来た彼女の方がその自覚は強いかもしれない。前にも言われたけれど、僕達はもう少し力に見合った経験を積むべきだ。
1日でも早く、というほどの旅ではないから……細かな依頼もしっかり受けていこうかな。
「ブルル」
「わっ、うんうん。ホルコーも一緒さ。番の相手も見つけてあげないとね……」
「確かにそうですね。噂に聞くヒッポグリフの森でも探しましょうか? 認めてもらうのは大変ですし、別種族なので微妙ですけど……ヒッポグリフと白馬の恋物語、みたいなのは世の中にあるんですよ」
グリフォンと並び、空を駆ける生き物として有名なヒッポグリフ。昔々の英雄たちはそうやって飛竜や空を飛ぶ生き物に乗って世界の危機に駆けつけたとかいうよね。だけど、ホルコーと別れるつもりはないから難しい話だ。
街道をなおも進みながら、僕はそのことに気が付いた。馬車の1つも通らないというのは……おかしい。確かに主要な街道はいくつかあり、ここはその1本に過ぎないはず……だけど1日以上誰とも出会わないというのはこのあたりの人口からいってもなかなかありえないことだと思う。
『前の村を出る前にもっと聞いておくべきだったな。何かあるんだろう』
(そうだね……道が塞がれてるとかかな?)
「マリー、何かあるかもしれない。警戒よろしくね」
「はい、任されました!」
前方は僕の前に座っている彼女に任せ、僕は進むのをホルコー任せにして左右、そして後ろを一応警戒する。今のところ視界には変な物は写っていないけど……ん? なんだろうあれ。
街道から少し離れたところに、人が集まっているのが見えた。こんな場所で野営?
「マリー、左を見て」
「え? あ……なんでしょうね」
僕がそう言うとマリーもその集団に気が付いたらしく、同じように何であんな場所にと疑問が口から漏れ出て来た。思わず僕も空中の地図を魔力の消耗を承知で範囲を広げて、街道の先に何かあるのかと確かめることにした。体から魔力が抜け出る感覚の中、まだ見えない先に感じられたのは……無数の光点!
『王都のダンジョンほどではないが、そこそこの数だな……何かが居座ってるようだ』
(あの人たちはその討伐のためかな?)
敵意が無いことがわかるよう、ゆっくりと、敢えて目立つように少し街道を下がって後ろの方から集団に近づいていく。こうして意識してみるとみんな冒険者か兵士なのか武装しているのがわかる。こちらに向けて警戒しているのがここからでもわかるけど、僕達が2人で馬に乗っているだけという状況に気が付いたのかその警戒も和らいだように感じた。
「なんだ、子供2人か。この街道のことは聞かなかったのか?」
「前の村では特に止められなかったんですよね」
僕が立ち寄った村の特徴を告げると、こっちの街道にめったに来ない村だから気が付かなかったんだろうと言われた。集まっていた人は30人から50人ぐらいはいる。随分と大人数だ。このままどこかに攻め入ると言わんばかりに物資も溜められている。
「この先にゴブリンとオークが謎の集団を作っていてな。砦もどきのような物を作って居座ってるわけだ。俺たちは依頼を受けてきたわけだが……お前ら、評価は幾つだ?」
「一応……C評価です。まだまだなりたてですけど」
そう、つい先日の王都そばに出て来たダンジョン、その対処はギルドでの評価に足されることになったんだ。参加して生き残った人が全員対象だから僕達だけってわけじゃないんだよね。ただ、僕達は別行動の時が評価されたみたいで、ついにC評価に上がったのだった。
「ほう……確かに装備はなかなか良いな。まあ、ギルドも馬鹿じゃあるまい。人手は多い方がいいんだ。よかったら参加するか?」
「いいんですか? 報酬が減ってしまうのでは……」
マリーの問いかけに男性は首を振る。普段この街道を主に稼ぎの場所にしているという彼曰く、とっとと開通しないとそのほうが損なのはみんなわかってるから気にしないで良いとのこと。であれば反対する人もいないみたいだしご一緒することにしよう。ここから別の街道に移動するのも時間だけが過ぎてしまうからね。
もうすぐ出発だったらしく、運がよかったのか悪かったのか。僕達は砦もどきに向かうという集団の中に混ざり、一緒に進むことになった。街道を染め上げるように進んでいく人々。魔法が使えるということでその後方に陣取ることになった僕達は視線の先に現れたソレを見る。
「確かに建物というか、なんというか……」
「粗末というのも難しいけど、めんどそうだね」
見えてきたのは小山の間を縫うようになっていた街道を塞ぐ建物。と言っても木材やらなんやらでめちゃくちゃになってるからアレの中に住んでるとは思えないんだけど……住んでるのかな。
近づいてくるこちらに気が付いたようで騒がしくなってるように感じる。
『立てこもられると面倒だからな。ある程度は敢えて見つかってこっちに誘い出すつもりなんだろう』
ご先祖様の指摘通り、そのまま建物を盾にしたらいいのにいくつもの姿がそこから出てくるのがわかる。あるいは前に冒険者に襲われて魔法というものを味わった奴がいるのかもしれない。中にいたら焼かれるかも、みたいにね。
事前に聞いていた通り、ゴブリンとオークだ。普段は協力なんてすることのない2つの種族が一緒にこちらに向かってくる。珍しいな……どうしてだろう。
「後で考えればいっか。よし、行こう!」
「はいっ!」
周囲の冒険者たちが声をあげて襲い掛かるのに合わせ、僕達も思い思いに魔法を唱え、そして解き放つ。集団戦は巻き添えが怖いからね、火の魔法は無しにして端っこからどんどん削っていこうと思う。
こちらの勢いに驚いているのか浮足立っているゴブリン、オークは碌な反撃が出来ないのか避ける様子もない。作戦勝ちってことになるのかな?
「坊主! 嬢ちゃん! アレに火球を撃ち込めるか!」
「わかりました!」
まだ相手の数がわからないけれど、結構な数が外に出てきたのを確認したからか、そんな指示が飛び僕はマリー、他の魔法使いと一緒に遠慮していた火の魔法を使って砦もどきに火球を撃ち込んだ。
僕の目には端材や適当に切り出した丸太なんかを組み合わせたように見える砦もどき。それはつまり、燃えやすい姿ということに他ならない。
「うっわ。一気に燃えちゃった」
「油でもため込んでたんでしょうか……」
全体が炎に包まれていく砦もどき。それが合図になったようにモンスターたちは逃げ出したのだった。素早く追撃が行われ、そのほとんどが討伐されたようだった。後には……砦もどきだったものの片づけだけが残る。ちょっと面倒というには面倒すぎないかな、コレ。
そんな感想を抱きながら乾いた笑みを浮かべるしかない僕達だった。
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