MD2-157「旅の続き」
ただイチャイチャしてるだけのような気がする。
「たくさん頂いてしまいましたね」
「うん。というかあの状況じゃ断れないよね……はは」
よく晴れた空の元、僕達はホルコーに乗って西への旅を再開していた。アイテムボックスにほとんどは詰め込んだと言っても、それ以外にもホルコーに乗せた荷物はそこそこある。一応重さとかは余裕みたいだけど……ほんとに成長したね、ホルコー。
荷物も僕達も乗せてもまだ余裕のあるホルコーをなんだか誇らしく思いながら、僕は日差しに顔を向けつつ旅に出る前のことを思い出していた。寂しかったのか、涙ぐんだシータ王女の顔を思い出してちょっとぐっと来たのは内緒だ。
『王族ともなると友達というのはなかなか貴重だからな』
(やっぱりそうなんだ……今度来たらまた遊ぼう。うん)
既に王都の城壁は遠くになっていた。国王一家との食事会という人によっては大金を積みたいであろう出来事をこなした僕達はその後、困惑の中に放り込まれていた。急にどこかに案内されたと思ったら、どれでも好きな物を選ぶといいと来たもんだ。とりあえず詰め込んだという印象のある部屋だった。
曰く、王都の被害を減らし、娘を助けてくれたお礼としては安い物だ、だってさ。確かに失礼かなとは思ったけどご先祖様を通して鑑定した結果は、良い物ではあるけれど宝物庫に入る類の物じゃあなかった。それでも街で買おうと思えばそれなりに苦労するだろうことは間違いない。
「こ、このぐらいで……」
「あまり欲が無いのだな。自制が出来るのは長生きの秘訣だと昔から言われている。気に入ったよ」
僕としてはそろそろ予想される相場金額に耐えきれなくなったからの辞退だったんだけど、王様的には別の意味に感じたようだった。隠しておくのもなんだかなと思ったので、容量には限界があるけれどとアイテムボックスの存在も伝えてあるからか、途中で遠慮した段階でも結構な量の物品が貰えることになった。
「よろしいのですか? これらは国の財産の一部なのでは……」
恐る恐るという様子でそういうマリー。僕も気になってたんだよね。いくらお礼込みって言ってもこんなホイホイと僕達に譲っていいんだろうか? でも国王だしなあ……そのぐらいの権限は確かにあるのかな?
『室内の置き方に法則性があまりないな。もしかして押収品や余剰品みたいなものじゃないのか?』
「もしかして……ここにはあるけれど無い物、そういうもの……?」
思わずのつぶやき。物語でしか聞かないようなそんな特殊な出来事にまさか僕が出会うとは……って、よく考えたら色々出会ってたね、特殊な出来事。
ご先祖様の声に改めて室内を見渡した僕は最初から感じていた違和感の正体にようやく出会った。道理で、世間に出回っていそうだけどそこそこ高価な物か、持ち歩くには何か言われそうな価値の物かどっちかになるわけだ。
「国王と言っても自分で好きに出来るお金はあまり無くてね。どこかに消えたはずの物が……ということさ。さあ、遠慮なくもっと持っていくといい。何分、1つでもここにあるものは少ない方がいいんだ」
「えっと……その」
結局のところ、僕は打算がたくさん含まれていると言っても相手の好意を跳ね除けることが出来ず、様子を見に来たフェリオ王子が表情を何気に変えるぐらい……貰ってしまったのだった。
適当に売りさばくだけでしばらく何もしないでいいんじゃないだろうか?
「うう、思い出して来たら後から泥棒って怒られないか心配になって来たよ」
「まあ、それはないと思いますよ。目立つ武具とかは辞退しましたからね。その代り、便利そうな魔道具はいくつか押し付けられた気がしますけど……いいじゃないですか。物は使われてこそ、ですよ」
僕の腕の中で振り返らずにマリーはそういって笑った。揺れる彼女の体が僕の腕の中で踊り、時折触れてくることにこっそりドキドキしていた。ただ触れ合う以上のことを一応してるのに不思議な物だね。
両親を見つけて、旅が落ち着いたとき僕は……彼女と……。
「ファルクさん、聞いてます?」
「え? あ、ごめん。ちょっとぼんやりしてた」
気が付けば顔をこちらに向けたマリーの瞳が僕の鼻先まで来ていた。こんな目の前に来てないと気が付かないとか、どんだけぼんやりしてたんだって話だよね。驚きをなんとか隠しながら正直に謝るとまた彼女は前を向く。
「シーちゃんがまた飛び出してこないか心配ですねって言ったんですよ」
「あー……確かに」
僕達が西へと旅立つと知った時、シータ王女はかなりの勢いで引き留めて来た、最終的には自分もついていく!なんて言いだしたぐらいだからね。それはさすがに止めて説得し、なんとか我慢してもらえたはずだけど……彼女には切り札が2つもある。1つは大人に変身する魔道具。あれなら抜け出してくることも出来ると思う。そして一番の問題は飛竜だ。
「何百年かぶりのオブリーンの女性竜騎士、しかもシーちゃんは子供ですからね。戦乙女の再来か!なんて話題になりそうです」
「それはともかくとして、飛んできたりしないといいな……」
ちょっとそこまで遊びに行く、ぐらいならどうにかしてついてくるというのもありかもしれないけれど……あてがあるようなないような、そんな旅路。そこに王族であるシータ王女を連れ歩くわけにはいかない。
小走りぐらいの速さで進み続けるホルコー。僕達はその背中で細かな揺れに身を任せつつ、雑談をしながら周囲を一応警戒していた。ここは主要街道の1つで、定期的に街の兵士とかが巡回している。普通のモンスターならともかく、大物がもし出るようなら知らせがあるぐらいには人目のある場所……そのはず。
「そのはずなんだよねえ……マリー」
「いつでもどうぞ」
僕はその返事を聞いて既にやる気満々になっていたホルコーに走るように合図を送る。リベルト爺ちゃんもいっていたけど、僕が飛竜よりホルコーを選んだという事がよほどうれしいらしく、ずっとホルコーはこんな調子で機嫌もいいし、元気にあふれてるんだよね。いつも助かってるしもっと別の意味でお礼をしたいところだ。街についたらしっかり洗ったりしてあげようかな? でも、その前にだ。
「やらせないよっ!」
「いたずらな手!」
馬上から飛ぶ僕の魔法は風の刃。そばには森があるからね、燃えてしまっても問題だ。突風のように飛ぶ刃が、こちらに向かってきていたゴブリンらしき相手を切り裂く。なおもそれをかいくぐって迫る相手にはマリーの放ったエルフの魔法。草たちが急に伸びたかと思うとゴブリンたちの足を掴み、倒した。そしてそのまましばらくは拘束されるはずだった。
『街道に出てくるには数も多いし、随分と好戦的だな。何かあるかもしれない、気を付けて進もう』
そんなことをいうご先祖様だけど、気が付いてるだろうか? 大体そういう時には既に遅くて、何かやらなきゃいけないことになってるんだよね……。
逆に僕のそんな自虐的な心のつぶやきが効いたのか、その日は襲撃以上のことは起きなかった。次の街まで3日はかかるからね……油断はできない。
旅人が何度もそこで夜を過ごしたであろう大岩とたき火の跡を見つけた僕達は自分達もそこで夜を過ごすことに決めた。念のために空中の地図は広めにしてある程度の大きさ以上の何かが入ってきたらわかるようにした。便利だよねこれ。魔法の一種でいいのかな?
「今日も星がきれいですね」
「うん。宝石を空に縫い付けたみたいだ」
二人して大岩を背にして、たき火にあたりながら空を見上げる。村にいたころの空とあまり変わらない。星だって前と一緒。違うとしたら、マリーという存在がそばにいることだ。それだけで世界は今までとは違う色をつけているなと僕は感じていた。
2人の旅が終わる日が来ることが、楽しみなような寂しいような、そんな心で過ごす夜だった。
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