MD2-156「思わぬ出会い」
オブリーン王都そばに出現した謎のダンジョン。何日もの戦いの末、僕は大きな異形ともいえる姿の戦女神、その姿を模したと思われる巨大な像と戦うことになった。命の危機には陥ったけれど、僕は生きている。考えること、知りたいことは色々あるけれど……今回、戦いに勝ったのは間違いないみたいだった。
周囲は勝利に沸き、あれよあれよという間に戦後処理が進み……僕とマリーは地面に立ち、互いの無事を確かめ合って抱き付きながら確認しているのだった。すぐ横でにこにことシータ王女が笑っているのにね。
そして……。
「やられた……そりゃそうだよね」
「何がだい? ほら、もうすぐ2人が来るよ」
僕は小さくつぶやいたつもりだったけれど、さすがに耳が良い。目の前の相手……フェリオ王子は僕のため息も混じったつぶやきを聞き逃さなかったようだ。彼の横にいるシータ王女は気がつかなかったみたいだけどね。
僕とマリーが今いるのは……一緒にご飯が食べたいというシータ王女のお願いに頷いて連れてこられた先。まあ、要は王城だったんだけどさ。
「こんな格好でいいんですか? 汚れてるからって鎧は脱いでしまったし、普段着ですけど」
「私はドレスとかのほうが……」
さすがのマリーも動揺し、席を立つ機会をうかがってるみたいだ。だけどそれは微妙なところ。広さのわりに僕とマリー、そしてフェリオ王子にシータ王女しかいないんだもの。さっきからシータ王女は今回、僕たちが彼女の元にたどり着いた理由であるリボンをいじってばかりだ。随分と嬉しいみたい。その点はまあ、贈った側としては嬉しいんだけど……うん。
「そうかい? 2人ともこの場ではそういうのを気にしない方だけどね」
(僕達の方が気にするんですよ!!)
その僕の言葉は口から出ることはなかった。視界に、念のために展開してある地図になじみのない人間大の反応があったから。状況的にこれは……仕方ない、失礼のない程度に頑張るしかないか。そう開き直った僕はマリーを見て、一緒に頷く。そして大きな扉が重厚な音を立てて開き……そこそこの年齢に見える男女が入って来た。護衛の人の姿はない。僕達がそんなことをしないと思われているのか、それともどこかに隠れているのか……地図に反応はないんだよねえ。
「待たせたね」
「あら、シーが我慢して待ってるだなんて、偉いわね」
深みのある声、そして伸ばしているであろう白鬚、やや体格がいいのは痩せるほど出歩く機会が無いからかな。ゆったりとした、派手というには微妙だけど地味とは思わない質の良い衣服。その手にした錫杖のような物が本人の立場を表しているように見える。対して横に立つ女性も同じように派手すぎることはないけれど、こちらも落ち着いた雰囲気がそこらのお母さんたちとはなんだか違う。
「ぶー、おにーちゃんとおねーちゃんとのご飯だもん。我慢できるよ」
「ふふ。騒がしくてすまないね」
「いえ……あ、そうだ。お目にかかれて光栄です」
じゃれ合う姿は世間の兄妹とあまり変わらないなと思いながら、僕は慌てて席を立ち、マリーに習ったようにして片膝をつく。直接の部下じゃないならこれでいいと教わったのだけど……大丈夫だったみたいだ。
マリーも同じように一礼して、相手の言葉を待っている。
「顔をあげなさい。今日は国王と国民ではなく、子供の友達を出迎える親のつもりだ」
「ど、努力します」
そうは言われても簡単に気持ちが切り替えられたら苦労はしないんだよね。物語とかの英雄はよくあんなに堂々と言えるなあって思う。
促され、元の席に座るとなぜか正面が国王様だった。確か50になるかならないかといった状態のはず。その割にまだ若々しく、白髪もほとんどないのは王族に何か秘密の儀式でも伝わってるのだろうか? なんて思わせるには十分だった。
「私はシーちゃんと出会えてお友達に生れてうれしいです。今は一人っ子なんですよね……」
「オルファン家で起きた事件は報告を見ている。これから先の領地運営を頑張るように。おっと、子の友達にいう言葉ではなかったね」
場の空気を逆に読んで堂々と言い切ったマリーにそういって笑う姿は確かにどこにでもいそうな父親という顔をしていた……と思う。僕が父さんたちの笑顔を見たのは随分と前だ。だけど、全く覚えてないわけじゃない……だから……うん、大丈夫。
『気を付けないと隣と斜め前にはすぐばれるぞ』
(ほんとに? 気を付けよう……)
残念ながらご先祖様のそんな忠告と、僕の警戒は無意味だったようですぐに目の前のシータ王女が何故か机をくぐってこちら側にやって来た。
そのまま開いている僕の左側にちょこんと座ってしまったのだ。
「おや、今日は兄よりお友達のそばがいいのかい?」
「うん! おにーちゃん元気がないから誉めてあげるの。よいしょ、よいしょ……そういえば、すごかったね、どかーんって。ヒーちゃんが言ってくれたの。えいゆーの血筋を守れって。おにーちゃんえいゆーさんなの?」
小さな手で僕のお腹をなぜか撫でて、シータ王女はそんなことを言って来た。ちょっと恥ずかしいけれど確かに誰かに体を触ってもらうというのはなぜか安心できてほんわかした。ましてや一生懸命な感じの姿を見たら止めようとも思わない。
そして僕はシータ王女のつぶやきに驚いていた。英雄の血筋……そうなのかな? 父さんたちはスキルを覚えやすい血筋だとか言ってたけど……。英雄、物語になるような一人で山のようなモンスターを退け、多くのスキルを操り、時に魔法をも乱れ撃つ……ん?
『そうだな。規模や錬度はともかく、ファルクも似たようなことをしているな』
妙に冷静なご先祖様のつぶやきが徐々に頭の中に染みわたってくる。ご先祖様は以前言っていた。自分自身はとても英雄と呼ぶことはできない半端ものだったと。長い時間をかけてようやくその片隅に手をかけたけど、それは全部これからの世界のためだったと。
「んー、僕が英雄かぁ。だったら嬉しいかな。シーちゃんは僕が英雄だったら何をして欲しい?」
話を止めるのもまずいと思い、そんなことを軽いつもりで聞いてみた。ところが、シータ王女は最初はキョトンとしていたけどすぐに何やら悩み始めた。そんなに日ごろから解決したいあれこれがあるんだろうか?
心配して彼女を見ていた僕の耳に誰かの笑い声がする。フェリオ王子だ。
「大丈夫さ。妹が心配してるのは、どうやったら君に迷惑をかけないお願い事が出来るか、さ。優しいんだよその子は」
「あー、兄様言っちゃだめー!」
机を挟んだ向こう側の兄へ向け、ぷんぷんと頬を膨らませて怒るシータ王女。そんな光景が微笑ましく、笑いが産まれていったころ、準備が出来た合図が鳴り、食事が始まった。
直前に騒げたおかげか、なんとか食事の味はわかった……と思う。
なぜか僕とマリーの話を国王夫妻は聞きたがって、僕たちはその度にどこまで言ったものか、特にやや食事中には問題のある部分なんかは誤魔化せた……かなあ?
「なるほど。子供2人が気にするわけだ。なかなか普通ではない事件の遭遇具合のようだね」
「一応、何も無い方がいいなとは思うんですけど……どうせ関わるならこっちから飛び込んでやれって感じですかね」
その後も談笑は続き、僕とマリーは国王とその子供と同席するというよくわからない状況を過ごした。
いや、別にそれが嫌ってことじゃないんだけどさ……。
『まさにそういう星の元ってな』
(そんなぁ……)
こっそりと、僕は心の中で落ち込みながらため息をつくのだった。
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