MD2-155「友達百人-6」
オブリーンの王都そばに出て来た巨大なダンジョン。船のような物と島のような物をダンジョンと呼んでいいのであれば、だけどね。ダンジョンとしては珍しく、中からモンスターが出てきて周囲を襲う種類だという。これまでに発見されたダンジョンのほとんどは外に出て来ても入り口程度で周囲に襲い掛かるということはない。それがこの世界でのダンジョンへの常識的な認識だ……今日までの僕も、ね。
「もう何匹倒したかなあ……」
『知りたいか? 結構気が滅入ると思うぞ』
どうやらご先祖様は僕が倒した相手の数を記録しているらしく、視界によくわからない文字が躍っていく。たぶん数とかを示してるんだろうけどよくわからないね。ちょっと疲れて来て集中できてないのかもしれない。なにせ、この戦いを始めてもう三日も経っているんだ。
徐々に、徐々にだけど船と島は押し込めているらしい。一時期は沈黙しかけた船も反撃とばかりに中から多くのモンスターを吐き出し始めた。対する僕達は交代や仮眠をはさみ、順々にそれらの相手をしている。幸いにも、空を飛ぶモンスターは夜には出てこないようでシータ王女とマリーの出番は夜明けから日没までといったところ。しっかり休んでいるといいんだけど……ね。
「さすがのファルク坊もお疲れかの?」
「うん。リベルト爺ちゃんがなんでそんなに元気なのか不思議なんだけど……」
そう。同じぐらい戦場を走っているはずのリベルト爺ちゃんはあまり変わってないように見える。さすがに消耗はしてるようだけど……まあ、そういう僕も他の人と比べると長く戦えてるのかな? スキルにあるタフネスとかが効いてるんだ。あ、ということは……?
「気が付いたようじゃの。ワシも持っとるんじゃよ。色々とな。世界をめぐるといい。おのずと力はついてこよう。さ、もうすぐ終わりが見えてくるぞい。言い伝え通りなら……ほれ」
途端に、リベルト爺ちゃんの声を合図にしたかのように周囲の気配が変わった。慌ててそちらを向けば、島の中央付近に大穴が空いたかと思うと何かが出てくる。異形……え、あの姿は?
駆け出すリベルト爺ちゃんに置いて行かれないように、僕もホルコーを走らせる。向かう先は島から出て来た異形、4枚の羽根と何本もの腕を持った武装した……たぶん女性の姿。随分と歪だけど、戦乙女という言葉が頭に浮かぶ石像だった。
『試練、か。彼女はどう思ってるやら……会うまではわからないな』
どうやら昔に何かあったらしいことはわかるけど、今は敢えて踏み込まない。怒られたりはしないと思うけど、必要と思えばちゃんと話してくれるはず、そう信じているからこれでいいんだ。
それよりも、実際に目の前に溢れ始めたモンスターたちの相手の方が今は大事だ。
「しばらく焼肉はいいかな……レッドシャワー!」
「ほうれ、燃えるがいい!」
前方に味方がいないことを確認してから、僕達の手から炎の力が伸びる。僕の方は燃えることはないけど、その分結果はわかりやすい。穴が開いたように生い茂る草木がえぐれ、力の通った跡となっていく。僕はごめんねと心の中で謝りながらも開いた隙間にホルコーをねじ込み、明星を振るった。
「今度騎馬槍買おうかな……」
ホルコーの上からだとさすがに明星を使って相手を倒すのにも限界があるんだよね。今のところは魔力を込めて刃を伸ばす感じでやってるからなんとかなってるけど……使いにくさは感じるんだ。
それでも兵士や冒険者たちと一緒に多くのモンスターを倒し、だんだんと異形な戦乙女に近づいていく。
空ではシータ王女とマリーが乗る飛竜を先頭に、空を飾りたてるようにして戦いが続いていた。蝙蝠のようなモンスターを飛竜の尻尾が叩き落し、時に飛び交うブレスが何かを撃ち落としていく。それでも無敵という訳では無いようで、時折悲鳴のような物が聞こえては後ろに下がる飛竜がいる。
「出来ればアレを止めたいのう……今は厳しいが」
「ちょっと高いですよね、高さが。魔法で飛んでいくと狙われそうだし……速さは馬ぐらいは速くないと……」
石像のような戦乙女は船のようなダンジョンとほぼ同じぐらいの大きさだった。つまりは王都でも大きな建物に負けないぐらい。城壁の倍ぐらいはあるかな?
そんな相手が動いて武器を振るっているのだからたまらないよね。あっ、後ろから攻撃を仕掛けてる人がいる。
「ほほう。上手く当てたのう。羽根が1枚落ちたぞい」
「ほんとだ! すごい!」
6枚ある戦乙女の羽根が1枚根元から千切れるように落ち、まるで地面から突き出た白い壁のようになった。瞬間、相手の気配が変わる。ものすごくわかりやすい。そう、本気になったんだ。
やや灰色でのっぺりした感じだった表面に魔力らしきものが流れ、見る間に色を取り戻していく。
『ここからが本番ってやつか……まずいな』
(羽根も動いてるし、これは……マリー!)
僕が心配した通り、戦乙女は地上から空に視線を向け、片手もそれに従うように空を向くと……空が弾けた。
戦乙女の羽根から、無数の何かが打ち出されたのだ。
「あれは!」
「まずいのう……伝説のウィングショットってやつじゃの。戦乙女は空を舞い、その羽根から放たれる無数の小さな羽根は彼女以外が空を舞うことを許さなかったという。まさか本当に……」
咄嗟に回避に成功したのか、今の一撃で全滅ということは無かったみたいだった。だけど明らかに怪我をした飛竜が多い。2人が無理をしないといいのだけど、そう思ったのだけど状況はそれを許さなかった。
他の飛竜を逃がすためにか、2人の乗った飛竜が敢えて戦乙女の前に躍り出たんだ。
「! ホルコー! 駆け上って!」
このままじゃ2人が危ない。そう思った僕はホルコーにそんな無茶をお願いしていた。無茶だとは自分でもわかっていた……けど、彼女は応えてくれた。覚えたばかりなのか僕とホルコーを包む一体感。それは不思議と温かく、むしろ世界はこんなに刺激に満ちていたんだと感じる物だった。
走るホルコーの足先に硬さを感じ、鼻先には匂いを、耳には音を……そして、目には今にも空を撃ち落とそうとする戦乙女の姿が見える。風を置いて行くような加速で走るホルコーの背中の上で、僕は魔力を練りあげる。
僕が切れる札はこの状況だと1つしかない。すべてをぶつける、それだけだ!
「巡れ……廻れ……回れ……マテリアル……ドライブ!!」
ひた走るホルコー、その背中に乗る僕。そしてそこに集まる力に戦乙女が気が付いたときには、僕は相手と同じ高さにまで駆け上っていた。地面に落ちた、戦乙女の大きな羽根を駆けあがったんだ。
そして、着地の事なんか考えていないとばかりにホルコーが大きく跳ねた。
「はぁぁぁぁああああ!!」
今回は名もなき魔力の刃。ただし、その長さや太さ、色々は全部無視。ただひたすらに、刃を生み出した。それは僕の手から伸び、大きな大きな力となって戦乙女を肩口から一気に斜めに切り裂いたのだった。
何もなければ地面に叩きつけられて終わりだったのだけど、戦女神を切り裂きながら降りていくことで地面に降り立った時には何も問題ない状態だった。集中しすぎたのか、地面にホルコーが着地すると同時に僕の手から魔力が消える。これで終わってなければ僕の負けだけど……ああ、足りなかったのかな?
『あきらめるな、ファルク!』
焦ったようなご先祖様の声を聞きながら、ヒビだらけになりながらも僕に向けて拳を振り下ろそうとする戦女神の腕が……赤い光に包まれて砕けた。なじみのある魔法の気配だ。
続けてブレスらしきものが叩き込まれ、ヒビは大きく広がり、ついには崩落した。
「ファルクさんはやらせません!」
「そうだよ、おにーちゃんは負けちゃダメなんだからね!」
僕を助けてくれたのは、目の前の戦女神よりも女神してるんじゃないかな?なんて思うほどにかっこよく、そして可愛く駆けつけてくれた2人だった。
ほどなくして先ほどの攻撃がトドメだったのか、戦女神に見える石像のようなものが崩れ去っていく。
そうして、戦いは終わったみたいだった。
後に残るのは無数のモンスターの死骸と荒れた森、そして疲労を押し返すように声を上げる兵士や冒険者達。僕はその声に続くことが出来なかった。なぜなら……。
(戦乙女の賞賛? これは、このダンジョンは……誰が作ったの?)
祝福の欄に増えた謎だらけの文字。僕は茫然と空中に手を伸ばし、その文字を撫でるのだった。
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