MD2-154「友達百人-5」
「炎よ踊れ! ファイアボール! ついでにウィンタック!」
「そうれ、焼肉じゃぞい!」
僕はリベルト爺ちゃんと2人、自由に戦場を駆けていた。最初はダグラスさんのいう通りに戦っていたのだけど、みんなから戦いやすい形で動いてくれていいと言われたのだ。要は僕やお爺ちゃんは兵士としての訓練、同じ動きをするということをやっていないから集団で一斉にというのには向かないだろうということがわかったみたいだ。
実際、魔法の詠唱を待っていたりとかちょっとぎこちなかったもんね。
『その分助けてくれる人がそばにいない。気を付けろよ』
(うん。そうだよね……頑張るよ!)
リベルト爺ちゃんと二人して放った火の魔法が音と炎を産み、周囲から一時的にモンスターを遠ざける。即死するわけじゃないけれど、燃えたいモンスターってのはやっぱりいないみたいだ。後始末が少し大変な気もするけれど、手加減して被害が増えましたってなっても意味がない……はず!
「ホルコー! 右だ!」
いちいち声に出さなくても綱を引っ張ればホルコーは応えてくれる。だけど今の僕は片手には明星を持っている。当然、両手の時と比べるとやや動きに問題がある……はずだった。だけどつい口に出した時、ホルコーがそれを理解したように動いたのを感じ、合間合間に声を出すようにしたんだよね。
「少し大きい……オーク?」
「そうじゃのう……青い個体は昔見たきりじゃ……」
林の奥、謎の島の横あたりから出て来た相手を見てホルコーの足を止める。周囲ではダグラスさんたちとモンスターの戦いが続いている。倒されるとダンジョンの中のように消えていく相手と、死体が残る相手と別れてるけど死体が残るのは少数派だった。ということはほとんどがダンジョンから出てきた相手で、このあたりがダンジョン扱いになってるってことかな?
青いオークは僕が見たことのある相手の倍までは行かなくてもかなり大きい。下手に近づくと危ないし、上手く魔法で仕留められるだろうか?
数瞬考え、僕は決断した。右手に持った明星に込めるのは雷の射線。少し離れた場所で空を舞うマリー得意の一撃だ。
「射抜け!」
何かがはじけたような音と共に、僕の突き出した明星の切っ先から力が放たれた。さすがに一撃必殺とはいかなかったようだけど、相手の先手をくじくことには成功したようだった。浮足立った相手を一気に仕留めるべく手綱に力をと思ったところでホルコーは駆けだした。僕の心を読んだような動きだった。
『案外以心伝心、伝わってるのかもな』
そんなご先祖様の声を聞きながら、近づいてきたオークへ向けて明星を構え……何もないところで振るった。当然準備運動という訳じゃない。ダグラスさんとリベルト爺ちゃんにコツだけ教えてもらった魔力を刃にして飛ばす技だ。特にスキル名はないけれど、便利だと言われていた物。
「ふっ!」
「ほっほ。上手く決まったぞい」
僕の視線の先で、手に持ったこん棒もどきを取り落とすオークがいた。武器を持った相手はその武器を失うと一時的に混乱することが多いという。これは僕も含め気を付けないといけないことだけど今は僕にとって有利な状況だ。
「そこだ!」
ホルコーの突撃に合わせて、明星を前に突き出す。魔法が使えないと見えないけれど、僕の目には魔力の切っ先が伸びてオークに迫ったのが感じられた。それは無防備な青いオークの胸元に突き刺さる。響き渡る悲鳴。それはモンスターにとっては動揺を誘う物で、僕達にとっては攻撃の合図でもある。
同じように駆けてくる騎兵の兵士と一緒に周囲のモンスターを当たるを幸いになぎ倒し、一息入れるべく陣地に戻る。ダンジョンから出てくる数は決まっているのか、同じことを繰り返しているように感じた……そしてそれは正しかったみたいだ。
決まった人数が前線に向かい、決まった時間で戻ってくる。そんな戦いが続いた。これはダグラスさんたち隊長格がしっかりと戦力の分配を指示してるというのが大きいんだと思う。自由な冒険者だけだったらこうはいかないね。
分けてもらった水を飲み、ホルコーたちにも休憩を取ってもらう。
「ファルク坊。今日は調子が随分といいのではないか?」
「そうですね。ホルコーがすごい頑張ってるんですよ」
ずっと僕を背中に乗せ、戦場を走るホルコー。リベルト爺ちゃんの馬ともすっかり仲良くなったみたいだ。元々元気がいいけど、今日はいつもよりやる気に満ちている気がする。視線を向けると、まだ戦えるよと言わんばかりに輝いている瞳。気のせいか、体からじんわりと魔力がにじんでる気もする。汗が乾いてるだけかな?
「そりゃそうじゃよ。ホルコーだったかの? その馬、喜んどるんじゃよ」
「え?」
優しい笑みを浮かべて自分の乗っている馬を撫でるリベルト爺ちゃん。ホルコーが喜んでるってどういうことだろうか? そう思いながらホルコーを改めて見ると気のせいか、背中に力を感じた。いつでも準備はいいよ、そういったものだ。
「姫さんが飛竜を連れて帰ってきたのは自身の友達と国のためじゃ。その上、飛竜は英雄譚に歌われるほどに強い生き物。それに乗れるとあればある意味光栄なことと言っていい。じゃが、ファルク坊は結果としてかもしれんがそれよりも自分の馬のほうがいいと言ったわけじゃ。そりゃあ、馬も惚れ直すというものよ」
そういって笑いながらリベルト爺ちゃんは再び戦場に向けて駆けだした。話がまとまったら追いついてこい、そう言わんばかりだった。僕はその背中を見送りながら、左手で手綱ごとホルコーの首を撫でる。
村を出てから、途中色々あって留守番してもらった時もあるけどなんだかんとずっと一緒に旅をしてきた相棒。マリーとは別の意味で、かけがえのない相手だ……そっか。
「ホルコー、ありがとう。これからもよろしくね」
僕の声に答えるような嘶き。それは妙に高く響いた気がした。駆け出すホルコーの体には力が満ちている。ギルドで見てもらったわけじゃないけれど、僕には……ホルコーがスキルを手に入れたんだろうなという直感めいたいものがあった。感じるのだ、彼女の走る足先の感触を……次にどう走るか、その気持ちが。
僕達が時間を稼いでいる間に、船のような部分のダンジョンから出てくる相手は大体片付いたらしい。僕から見ると後方、王都の方向から援軍らしき人影がぽつり、ぽつりとやってくる。そして空にも影。
飛竜たちが少しずつこちら側に来るのを見ながら、僕はホルコーと一緒に駆けた。
「出し惜しみは無しだ!」
ただし、持久戦だから切り札は無しでね。そう心でつぶやきながらすれ違いざまにトレント(だと思う)相手の太い枝を切り裂き、後ろに向けて火の矢を撃ち込む。後は他の人がとどめを刺してくれると思う。僕は戦場を走りながら、押されてるっぽい人たちの救援に向かうことにした。それが結果として全体の状況を維持することにつながると思ったからだった。
『飛ぶのが出て来たぞ。撃ち落とせるか?』
「早い……! あたれっ!」
じっくり見る余裕が無く、多分ガーゴイルだろうなという見た目しかわからなかった相手に向けて風の魔法を撃ち込むも回避される。隙をつかれて急降下してくるその相手は……横合いからの何者かの突撃を受けてひしゃげることになった。
「ファルクさん!」
「マリー!」
すぐ上で渦を巻くようにしてマリーの乗った飛竜が飛び回り、突撃して来た勢いを殺している。その間にもマリーは飛竜につかまりながら魔力を練っているのを感じた。そして飛竜の動きが緩んだとき、半身を起こして両手に杖を1本ずつ構える。
「森の平穏を乱す者に鉄槌を! いたずらな手!」
魔法名だけなら大したことの無いように聞こえる魔法。だけどそれはエルフに代々伝わっている森の魔法。僕とマリーはエルフから祝福として不思議な物を貰っている。それは体に溶け、僕達はエルフの親族であるかのような体になっているのだ。そんな彼女が放つ森の魔法は……ただの人間のそれとは別物だ。
「枝が……すごい」
「王子がわざわざ飛竜を任せるわけだ……」
あらゆる場所から伸びたツル、そして木々の枝のような物が見える範囲のモンスターを縛り、貫く。それは空を飛ぶ物も例外ではなかった。飛竜に追われ、高度を下げたところで地上から伸びた緑の何かに絡められ、落下していくガーゴイルたち。
「これはこれは……ファルク坊、尻に敷かれるなよ?」
「それもありなんじゃないかなあって最近思ってますよ……」
こういう時の勢いにはどうしても勝てないな、そう思いながら僕は再び戦いに戻るのだった。
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