MD2-153「友達百人-4」
すいません。予定時間に寝落ちしてました。
シータ王女が見たという未来。それはオブリーン王都のそばに現れるという謎のダンジョン。そしてそこから出てくるというモンスターたちの襲撃だった。ただ、存在自体は過去にもあったそうであくまでも備えなんだとか。今回は相手の数が多そうということでシータ王女は単身、飛竜の住まう渓谷に力を借りに向かった。そこに僕達が合流したわけだ。
色々あって飛竜の協力は取り付け、僕はダグラスさん、そしてリベルト爺ちゃんと一緒に地上を戻り、シータ王女とマリーは先に飛竜で戻ってもらったわけだけど……。
「一人では後で揉めるぞ! 必ず2人以上で行動しろ!」
「討伐報酬は後で分配だ。嫌だ? だったら一人で突っ込んで死んで来い!」
王城に向かう最中、臨時で出来ているらしい集会場で冒険者たちが声を張り上げている。戦いには向かないように見える格好の男女が何人も叫んでいるとこを見るとたぶんあれはギルドの人かな? 大規模な襲撃となるとバラバラに動くと危ないし、色々ともめごとが起きるからだろうね。
『今回の相手がどうかは知らないが、貴重な素材を自分だけの物にしよう、なんて考える奴もいるんだろう。まあ、そういう奴は大概失敗して大地に転がるわけだが』
ご先祖様の見てきたようなつぶやき……たぶん、本当に前に経験したんだろうね。それにしても、何十年も前に出た切りというダンジョン相手の割に、動きが随分早くない?
気になって思わず隣を進むリベルト爺ちゃんを見ると、その目をまん丸にしながら速足で歩いていた。あ、これお爺ちゃんも驚いてる。
「これはこれは……日頃から通達がしっかりしてるのか、欲が絡むと人間必死になるのか……両方かのう?」
「そんなに儲かるんですかね?」
今回出てくる相手がどんなものなのか僕は知らない。ご先祖様もしっかりは知らないみたいだし……まあ、マリー達と合流してからでいいかな?
問題は王城の城壁で止められないかということだったけど、幸いなことに門のところに人だかり。その中には見覚えのある人が何人もいた。
っていうか骨なんだけどさ。地下で過ごしているはずの王都の守り人、アランさんにコルタさんだ。そして、本命であるフェリオ王子。なんだか輝く感じの金属鎧を身に着けているや……王子が前線に出ようとしてる? いいのかな?
「まだ国王夫妻はお若い。最悪、次をということじゃろう。ああ、あの場所で言うと斬られるからの?」
「さすがに言えませんよ……」
隣を行くお爺ちゃんのある意味物騒な発言に驚きつつ、集団に向かって歩いていくと相手もこちらを見つけたようで王子らしい顔で微笑んできた。手招きされたので恐る恐るという感じだけどそばに向かう。
「やあ、先日振りだね。妹は喜んでいたよ。君のおかげでいっぱい空飛ぶお友達が出来たってね」
「いえ、僕はやれることをやっただけですから……2人は?」
言いながら、僕の視界に入ってきたのは城壁の内部の広間に見事に整列している飛竜たち。その前に目立つように座っているのがシータ王女とマリーの乗った飛竜だ。マリーが乗っているのは僕が相手をした個体だね。
「見ての通りってところさ。ああ、皆に紹介しよう。彼がファルク。エルフの友にして祝福を授かり、ドワーフの友の手が入った武器を振るい、英知の樹の試練を乗り越え、そして今回は翼を我らに授けた。良い友人さ」
周囲の視線が僕に集まるのがわかる。王子自らに言われては誰もそれがそんなはずはないなんて言えやしない。そして、嘘ではないのだから僕としては自分の顔が引きつりそうになるのを我慢するしかない。どう見ても偉い人や、ダグラスさんみたいな隊長格ばかりなんだもん……びっくりだよ。
「今から冒険者の中に入るのは時間が無いだろう? よかったらなじみのあるダグラスと一緒に戦ってくれると嬉しい」
「勿論。お言葉のままに」
出来るだけ失礼の無いようにと思いながら頭を下げ、ちらりとマリーの方を見るとあちらも小さく手を振って返してきた。状況からして、マリーとシータ王女はあのまま飛竜に乗るのかな? こちらに来てすぐに手配したのか、馬に乗る時のようなひもや道具が付けられているのが見えた。
『屋外ならホルコーも出番があるな。彼女は空、こっちは地上と自由に動けるんじゃないか?』
(そうだね。問題は相手の中身だけど……)
そうこうしているうちに、ダグラスさんが兵士を引き連れてやってくるのが見えた。その傍らにはミルさんもいる。そういえば、ずっと静かだけどリベルト爺ちゃんはどうするんだろうか?
「ん? なんじゃ、今さら年寄りは休んでろというのかの?」
「ううん。一緒だと良いなって思って」
学ぶべきことが多い熟練者が一緒にいるというのはこんなにも心強いんだ、そう感じた。街の外に感じていた気配が濃くなった時、空に影が差す。正確には、青空に黒い何かが飛び始めたんだ。
「お友達たち、いっくよー!」
その光景は見事の一言だった。シータ王女の声を合図に、一斉に飛竜たちが飛び立っていく。その勢いは軽い物なら転がってしまいそうな風を産み、その力強さを存分に僕達に見せつけるのだった。
すぐに始まる空を飛ぶモンスターと飛竜との戦い。確かにこれは人では厳しい。弓矢と魔法ぐらいしか対策がないからね……。
「では我らも向かおう。目標はダンジョンの裏だ」
「裏……ですか?」
よく考えたら僕は今回のダンジョンの姿を見ていないわけで、表だ裏だとかがあることすら初耳だった。行けばわかるっていうけど……うーん?
結論から言うと確かに来て、見たらわかった。色々とおかしいけれど、どう見ても……船だった。ただし大きさはとんでもない。前に立つと向こう側が見えないぐらいだ。そんな船の上から何匹ものモンスターが飛び立ち、出口部分からはぞろぞろと異形が次々と……見た感じはそっちは大きくないね。
『気を付けろ。皆……亜種だ。見た目より強いぞ』
(え? あ……確かに故郷でも見た奴に少し似てるや)
「騎兵を先頭に一気に回り込む!」
ダグラスさんの合図に従い、僕はホルコーを走らせる。まずはつっこんで場所を確保し、後続の歩兵の兵士たちでその場所を広げるという形らしい。僕はリベルト爺ちゃんがそうするように、走りながら周囲のモンスターの集団へ向けて思うままに魔法を叩き込んだ。既に街のそばまで来ていたモンスターたちは冒険者や街の兵士達が戦っているから、奥の方に突撃した僕達の周囲には敵しかいない。
「移動しながらほぼ無詠唱?」
「王子が気にするわけだ……」
そんな周囲のつぶやきを耳にしながらも僕は必死だった。なんでかっていうと、大きな船の後ろには……さらに別の物があったんだ。どちらかというとこっちが本命なのかな? 島を1つ持ってきました、みたいな変な塊がある。これがダンジョン? もしくは入り口かな?
『恐怖、地上戦艦……だいぶ歪になってるが間違いない』
心当たりがあるらしいご先祖様のつぶやきと同時に、僕の頭の中にざっくりと情報が入ってくる。魔法を覚えた時と似たような感じだね。それによると手前の船は倒しても後で復活するらしい。なんてインチキ……逆に言うと稼げるのかな? それはともかくとして、敵の本体も出てくるらしい後ろ側の島を僕達は相手にすることになったようだった。
「無理はするな! 時間で交代するぞ!」
「「了解!!」」
僕がリベルト爺ちゃんと一緒に魔法で周囲をけん制する間に、兵士のみんなが運んできた何やらで周囲に陣地らしきものが出来上がっていく。半ば持久戦ってことかな。と、空から迫る気配に顔を上げればそこにいるのは物語だと遺跡とかにいるような翼を持った異形……ガーゴイルだっけ?がいた。
『そこそこ早い。範囲で攻めろ!』
「エアロボム!」
本当はエアスラストで一気に仕留めようかと思っていたけど、助言に従って威力は別としてそこそこ広さのある風魔法を上空へ2発続けて撃ちだす。それが上手く時間差になったみたいで、見事にガーゴイルに当たった風の塊は相手を地上に落とすことに成功した。こうなれば後は倒すだけだ。
「ファルク坊よ、あんまり飛ばすでないぞ。1日では終わらんからの」
横合いから聞こえたリベルト爺ちゃんの声に頷いて、僕はどこまで続くかわからない戦いを再開するのだった。
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