MD2-152「友達百人-3」
王都に迫る無数の飛竜!と文字にすると騒動なような……うん。
きっとどこかで生きている父さん、母さん。お元気でしょうか? 僕は今、女の子の声援を受けながら戦っています。え、良いことじゃないかって? そりゃあ、良いことと言えば良いことなんだけどさ……。相手が飛竜ってのは……どうかと思わない?
「こなくそっ!」
「ガウっ!」
反り返るようにした目の前を飛竜の太い尻尾が通り過ぎる。当たれば骨は確実に折れるだろうね……骨だけで済めばいいけどさ。飛竜には手加減って言葉があるのかな?
まあ、わざわざ吠えてからやってくれてるから手加減はしてると思うんだけど……それにしてもなかなか大変だ。
「ファルクさん、頑張ってください!」
『乙女の応援を受けちゃ、負けるわけにはいかないよな』
(まあ……ねっ!)
視界の中では僕以外の戦いも繰り広げられている。ダグラスさんは肉弾戦という言葉が似あう形で飛竜の一頭となんだか取っ組み合いをしている。人間みたいに殴り掛かってくるのは驚きだけど、頭がいいらしいからそういうこともあるんだろうね。それとは別にリベルト爺ちゃんはある意味平和だ。直接の対決じゃなく、どこかに向けてブレスと魔法の撃ちあいだ。
そんな中、僕だけが武器有で真正面から戦っている。しかも一番体格のいい、シータ王女の呼びかけに最後まで反対している集団のボス格だ。なんでかというと……まあ、相手のご指名なんだけどね。
「宿れっ! ブリーズ!」
肉厚な両手剣となっている明星に魔法を通し、氷の魔法剣として切りかかる僕。並のモンスターなら斬られたそばから凍り付きそうな威力のはずなのに、飛竜は器用に魔力を自分の体にはわせ、その影響を防いでいる。
正直、やりにくくてしょうがないけどいい勉強にはなる。
「カッ!!」
姿勢の崩れた僕に向けて、火傷で住むか微妙な気がするブレスが放たれる。手加減されてるだろうからと言ってそのまま受ける趣味も無い僕は明星に単純に魔力を通してブレスを……切り払った。ブレスも魔法と同じで、周囲や自分の中にいる精霊に呼びかけて生み出されるものだ。だから同じく魔力で干渉できる。すごい人になればブレスを受け止めるとかするんじゃないだろうか? 僕はやりたくないけど。
『もっとやろうって言ってる気がするな』
(奇遇だね、僕もだよ)
既に飛竜の中では手段が目的にすり替わっているような気がしないでもないのだけど、ここで戦いを止めるという訳にも行かない。どのぐらいで納得するかはわからないけれど、シータ王女のため、オブリーン王都のためにもここは彼らの協力も手に入れる必要があるんだ。だから……負けられない。
「細かい話は抜きにして、僕の本気……ぶつけるっ!」
魔力を全部使っちゃうアレはその後が大変だし、本当にダンジョンが危ない物なら戦えない僕が戻ってもね……切り札抜きで本気の僕でなんとかしないといけない。
しっかりと魔力を練り上げ、飛竜がそうしているように体の隅々まで意識して……突撃する。
鍛えられた剣にも似た爪と明星がぶつかり、火花を散らす。ちゃんとした剣と斬り合える爪というのが僕の想像を超えているけれど、相手も魔力を通して強化とかしてるのかもしれない。時折吠え、こちらを威嚇する飛竜だけど僕にはそれは効かなかった。
理由は簡単な話で、迫力といった点から言えば黒龍の方が当然上だったからだ。脅威に感じないという訳じゃないけど、ある意味冷静に僕はその感情を受け止めることが出来ていた。だからこそ、実力を発揮できているんだと思う。
野山を駆け、迫る尻尾を避け、爪は剣で受け止める。時に飛竜は空中で回転しながら勢いをつけるなんていう妙なこともしてきたけれど、殺気という物が無い。シータ王女を仲介にしての説得は成功してるようだった。後は僕たちが彼らに勝つだけ……なんだけど、ちょっと長引きそう。
最終的に恐らくは僕の勝ち、と言える状況になるまで丸々1刻かかった。僕も飛竜も疲れてしまい、地面に座り込んでいる。と、耳に届く走ってくる音。そちらを向けば心配そうな顔のマリーだ。
「ファルクさん!」
「たぶん、勝ったよ。先に止まったのは向こうだしね」
人じゃない相手だと手加減といってもやっぱり難しい。良い訓練にはなったけど……うっかりが怖いね。
うっかり尻尾に当たれば僕も大怪我だったし、明星が急所に刺されば飛竜だって死んでしまう。
体は治せるけど、命は治せないからね……っとそうだ。
「ほら、ポーション。ポーションってわかる?」
シータ王女は他の飛竜ともお話しているようなので伝わるかはわからなかったけれど傷だらけの飛竜に向けてポーション瓶を見せ、傷口に振りかけていく。刺激が強かったのか、最初は暴れそうになったけどすぐに収まる。我慢したら傷が治ると学習したんだと思う……頭いいなあ。
「こうしてみると……やっぱり飛竜は大きいなあ」
『竜騎士、なんてのがいたこともある。数が少ないからすたれてしまったようだけどな……』
確かに後ろに人を乗せても十分飛べるだろう体格、そして力を感じる。空を飛び、どこからでも奇襲できるような存在がいたらそれは便利だろうね。同時に……たぶん戦場ではよく狙われたんじゃないかな。
わかりやすい強い相手は襲いやすくもある……って何かで読んだような気がする。
「あ、おにーちゃん! あのね、みんな協力してくれるって」
「おお、よかったねー! 頑張った甲斐があったよ」
ニコニコと報告してくるシータ王女に僕も笑顔で答え、疲労のたっぷりたまった体を何とか起こす。いつダンジョンが出てくるかわからないけれど、のんびりしているのも難しいはずだ。
見ればダグラスさんたちも荷物をまとめ、移動できる準備は整えているようだった。
「そうだ。えっとね、ヒーちゃんたちが乗せてくれるって。どうする?」
「僕はホルコーと戻るよ。マリー、乗ってみたらどうだい?」
「え? そうですね……はい、試しに」
本当は飛竜に乗ってみたい……けどホルコーが多分、拗ねるんだよね。こういうところが人間臭いというか、親しみがあるというか……。だけどマリーまでそれに付き合ってもらわなくても、興味があれば飛んでみるといいんじゃないかなと思ったんだ。
そうして一足先にシータ王女とマリーは飛竜を引き連れて空に舞い上がった。正直、結構な数の飛竜が空を飛んでると何かの襲撃か!?って驚かれそうな気がするけどどうなんだろう?
「おにーちゃん! お城で待ってるよー!」
「行ってきます!」
あっという間に小さくなっていくマリー達。僕はダグラスさんらと一緒にそれを見送り、自分達も出発することにした。ホルコーはマリーはいないの?なんて感じで僕の後ろを向くけどすぐにマリーがいないことを感じたのかいつも通りの姿になる。そんな彼女の首元を軽くたたいて、背中に飛び乗った。
「ではでは、男3人の少々むさくるしい旅を再開するかのう」
「王女に余り遅れるわけにも……急ごう」
砦から駆け出した僕達は途中、休憩は挟むものの、やや急ぎだ。空を飛んでるシータ王女たちと比べたらどうしても地上を行くとなるとね。それでもダグラスさんのやる気が馬にも伝わったのか、行きよりも早い時間で僕達は王都の城壁を見ることになるのだった。
「今のところ大丈夫そうですね」
「そうじゃのう……姫が見たんじゃからそう遠くないはず……むっ、始まるぞ」
お城の方に飛竜たちの気配を感じながら、お城に向かおうとしていた僕達。お城への道の途中で、リベルト爺ちゃんが何かを感じ取り、僕もわずかに遅れてその気配を捉えた。
街の外に、大きな大きな何かの気配……恐らくはダンジョンのもの、を感じ取ったのだ。
「私は部隊に復帰してやるべきことをやろう。父上、ファルク君、ご武運を」
走っていくダグラスさんを見送りつつ、僕とリベルト爺ちゃんは……ひとまずマリーやシータ王女と合流すべく王城を目指すのだった。
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