MD2-151「友達百人-2」
「わーい、おにーちゃんとおねーちゃんだー!」
僕とマリーを挟んで、シータ王女と思われる女性……が喜んだ声をあげる。その無邪気さというか、子供っぽい発言は確かにシータ王女のものなんだけど……。ダグラスさんは茫然としてるし、リベルト爺ちゃんはなんだかうれしそうだ。
「えっと、シーちゃんでいいんだよね?」
「? そーだよー?」
僕の問いかけに何を言ってるのかわからないという顔で首をかしげる姿は見た目の大人っぽい姿とは別の意味で僕の色々を攻撃して来た。マリー一筋、それは間違いないのだけど目の前で繰り広げられる光景はなんというか、別の物だった。
「もう、ファルクさん。確かにシーちゃんは可愛いですけどまだちっちゃいんですよ!」
「っとと。そうだったそうだった。えっとね、王都で手紙を見たんだ。でもどこかに行かないようにしておいてというようには書いてあったけど、来ちゃ駄目とは書いてなかったよね」
そういう間にも後ろでため息とも威嚇の吐息ともわからない息を漏らす飛竜にどきどきしながらシータ王らしい女性に問いかける。すると、指を口もとにやってうんうんうなり始めたシータ王女。しばらくして、ぽんっと手を叩いて笑顔が花開いた。
「そうだねっ! そっかー、心配して来てくれたの?」
「勿論、友達だからね」
どうやったら大きくなれるのかは気になるけれど、ひとまず今はこの話を収めたほうがいいと思った僕は話を合わせ、事態の収拾を図った。そう、友達と言ったけどもしかしてここにいる飛竜は……。
「やった、ともだちだー! えっとね、この子は飛竜のヒーちゃん。この渓谷のボスなんだって。魔法を使ってかくれんぼできるんだよ? すごいよねー」
『それでさっきまで気配も何もなかったわけだ……俺の地図をかいくぐったほどだ、良い腕だ』
(感心してる場合じゃないでしょう!?)
内心の焦りを隠しつつ、シータ王女と飛竜、ヒーちゃんを見る。シーちゃんとヒーちゃんか、紛らわしいけど合わせたのかな? 僕が顔を見ると、ヒーちゃんはじっとこちらを見た後、顔を近づけて来たかと思うとパカっと口を開いた。
「っ!?」
声にならない悲鳴が僕の口から漏れる。人なら丸呑みに出来そうな大きな口。立ち並ぶ牙は鋭く、どんな相手でもかみ砕きそうだ。一瞬見えた喉の奥にはブレスを吐くためかちらりと赤い火が……だけどそれ以上は観察できなかった。ベロンと、ヒーちゃんが大きな舌で僕の顔を舐めたからだ。
「うわっぷ」
「あははっ! ヒーちゃんはおにーちゃんを気に入ったみたい。嫌いな相手だとがおーってやるんだよ」
べとべとになった僕を見て笑う姿は大人だけど確かに知り合ったシータ王女そのものだった。と、その頭に宝石の付いたティアラが光る。見た瞬間、僕じゃなくご先祖様に衝撃が走ったのがわかる。その反応で僕にもわかった。細かい部分は置いておいて、何かの魔道具で大きくなってるんだと。冷静に考えたら僕のウェイクアップも外見は変わらないけど別の何かに変わる変身と一緒だ。これもその類なんじゃないだろうか?
『鋭いな。発動名は同じウェイクアップ。だが、効果は見た目の変身も追加されている。まだ引き継がれていたとは……』
その後、復活を果たしたダグラスさんとずっとニコニコとしているリベルト爺ちゃんを交えてこの場所に来た理由の説明と、シータ王女のほうの具合を聞く形の情報交換となった。
「順調だけど問題もあり、なんだね」
「うん。ヒーちゃんのお友達はいいよって言ってくれたんだけど、別の子達は嫌だって。人間が嫌いなんだって」
恐らく、その嫌だって言っている飛竜たちはあの谷の向こう側に集まってこちらを見ている一団だろうね。言葉がわかるぐらいの頭の良さはあるのか、こっちを意味ありげに見ている。ちょっと怖い。
「あー……それは仕方ないのう。冒険者にとって飛竜殺しは名誉の証でもある。大方、こっそり討伐しに来た奴がいるのか、別の場所で狩られかけたのがここに逃げて来たか、どっちかじゃな」
「領地内での飛竜討伐は許可制だというのに、嘆かわしいことだ」
僕は2人の話を聞いて実は冷や汗をかいていた。なんでかっていえば、僕……地竜と戦ってるし、素材をあれこれ売ったりばらまいてるよね……これはまずいかな?
ちらりとマリーを見ると、きょとんとした顔。あれ、マリーがこの様子ってことは大丈夫なのかな?
「あのー、僕……エルフの里で地竜に出会って色々素材として持ちだしてるんですけど」
「ん? ああ、それは大丈夫だ。制限がかかってるのは飛竜だけだ。なにせ、住む場所が大体わかるからな」
「うむ。他の竜種と比べてわかりやすい生き方をしておるからの」
どっと力の抜けた体がふらついたところを支えてくれたのはシータ王女だった。にこっと笑って僕の体を何やらぺたぺたと触っている。何か面白い物があったんだろうか?
「シーちゃん?」
「えへへ、大きくなってるとおにーちゃんがおにーちゃんじゃないみたい。横におにーちゃんとおねーちゃんの顔があるんだもん」
「ずっとそのままなんですか?」
笑顔のシータ王女はマリーの質問に首を振り、自分の頭にあるティアラと、胸元に光るペンダントに手をやって何やら力を籠めた。魔力の流れが起きると、シータ王女は光に包まれ……それが収まった時、前に出会った小さい方のシータ王女が現れた。
「さっきまではヒーちゃんとあっちでお話してたから大きくなってたの。ひどいんだよ、向こうの子達は変身しないとすぐにパクってしてくるの」
「それは……食べやすそうだったからかな……」
プンプンと元の姿で怒るシータ王女は妹とは違う意味で可愛らしく、つい撫でてしまう。最初はびっくりしていたシータ王女だけど、そのうち何やら照れた顔になって僕の撫でるがままだ。
「ファルク坊は慣れてるのう」
「故郷に弟と妹がいますからね。2人とも可愛いですよ」
リベルト爺ちゃんにそう言いながらも、僕はシータ王女の頭の向こう側にいる飛竜、ヒーちゃんが気になっていた。言葉はしゃべらなそうだけど、なんとなくホルコーと同じように言ってることがわかるような感じがするんだよね。
『どちらも魔力を使えるからじゃないか?』
(そう……かな? よくわかんないや)
「じゃあシーちゃん。ヒーちゃんたちだけでも戻るの?」
「ううん。出来ればあっちの子達にも協力してほしいの。いっぱい、いーっぱい出てくる夢を見たの」
その後のシータ王女の話を要約すると、今度出てくるダンジョンとそこからのモンスターは過去に無いぐらいの量らしい。だから助けは多い方がいいとそういうことだった。そうなると出来るだけのことはしないといけないね。
「マリー、飛竜と仲良くなる方法なんて……知らないよね」
「さすがにそれは……あ、でも昔話にありますよ。竜騎士とひねくれ飛竜のお話が」
そうしてマリーから話を聞いた僕は、その話をなぞることにした。やることは単純、少数同士での決闘のような勝負だ。そして、負けた方が言うことを聞く、というごく単純なもの。普通は倒すのが目的なのでこの形の勝負を挑む人は少ないから行ける……と思う。
シータ王女との再会を喜ぶのもつかの間、僕はまた騒動の中に自分の身を躍らせていた。
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