MD2-150「友達百人-1」
「あっさりと許可が降りたねえ」
「それだけ心配してるんじゃないですか? あ、でも……もしかしたらわかってるのかもしれませんね。シータ王女が一人で飛び出したというのにあまり心配はしていませんでしたし」
そう、久しぶりに王子に会ったのだけど、向こうからも久しぶりと言われるだけでその顔には心配はあまり出ていなかったように見えた。薄情なのか?というとそうではないと思う。もちろん、内心はわからないけれど表向きはシータ王女のわがまま、あるいはシータ王女なら問題ないと判断したことになるんだろうね。
それに……彼女は切り札となるような物を持ちだしているそうなのだ。オブリーン王家の女系家族に伝わるという秘密の魔道具。未婚の女の子がなぜか持つように決まってるらしいんだけど……詳細は教えてくれなかった。
「ファルク坊は王女の位置を何度か確かめておくれい。こっちに向かってくるようなら王女の用事は終わったということじゃからの」
「了解です。今のところは遠くにそのままあるだけみたいですね……」
「では慌てず急いで、向かうとしよう」
そうして出発する僕達も王女のことは言えない。他に護衛も無く、4人での旅だからね……ミルさんなんか、隊長がなんで!?って最後まで驚いてたしね。留守中を任せられると思ったから任せるのだ、なんて言われたら断れないだろうなあ……。
ダグラスさんの宣言通り、僕達は馬にそれぞれ薬草類を混ぜた餌を食べさせたり、リベルト爺ちゃんに教えられたように人や馬にもある魔力の流れを整えたりとして過ごした。そのため、予定より早くオブリーン国内を駆け抜けたのだった。
(ホルコーはいつもより元気だけど……なんだか不思議だなあ。他の生き物の魔力の流れを触るって)
『下手にやると体調が崩れるからな。互いの信頼関係が無いとそもそも流れにはまともに触れないさ』
「ホルコー、また疲れたら言ってね」
そんなご先祖様の言葉に、僕は嬉しくなってホルコーを撫でてしまう。走ってるときに急に撫でるとよくないとは聞いたことはあるけど、ホルコーにとってはそうでもないみたいだ。器用にちらりとこちらを見るような仕草をした後、一声嘶いた。
「それにしても、シータ王女はどんな馬に乗っていったんでしょうね。出ていった日付と今の位置が合わないような気がするんです」
「確かに……まるで空でも飛んでるかのような速さだよね」
今日は僕の背中にくっついているマリー。ずっと手でぎゅっとしてるのは疲れるからって太い帯のような物で二人はくくられているんだ。ほんのり背中に感じる柔らかさは……おっと。それはともかくとして、マリーの言うようにシータ王女の位置、ウィンドミル渓谷の位置はここからまだ何日もかかる場所だ。
一人で飛び出した……という割にあまり心配されていないし、馬を走らせた様子も不思議と無い。
心配されてないのは、跡継ぎである王子は無事だから優先度合いが違うという悲しい事情も無いわけじゃないだろうけど、徒歩じゃないとしても……ねえ。
「王家には昔から受け継がれた秘密の魔道具があると言っていたじゃろう? 街の皆も噂程度には知っている物じゃがの。なんでも空を駆ける力もあるとか……恐らくは正しいんじゃろうな。だからこそもう王女は近くにいないんじゃ」
(空を……すごいのもあるんだねえ)
王女が持ちだしたという切り札の話をご先祖様に振ってもなぜか返事はあいまいだった。僕の予想だけど……間違いなくご先祖様が絡んでると思うんだよね。少なくとも知ってると僕は踏んでいる。ただまあ、言いたくないのなら無理に聞くことも無いけどね。
それから数日。道中の魔物は僕達の出番はあまりなかった。ダグラスさんは強いし、リベルト爺ちゃんも魔法の行使が早い早い。同じことをやるのにも1つ、早いんだよね。
理由を聞いたら、慣れじゃよと笑われた。単純な経験の積み重ねばかりは今すぐ同行できる問題じゃなかった。
「あの山、ですね」
「みたいだね。確かに何か大きなのが飛んでそうだなあ」
前から見えていたけど、大きな山だなあぐらいにしか思っていなかった場所。その合間にある切り立った部分。そこには川があるみたいだからあの場所が目指す渓谷に違いない。今のところ、王女の反応……リボンの反応はあまり動いていない。方向はあってるからたぶん間違いないね。
そして、僕達は渓谷の手前にある王国の砦……といってもちょっと大きな建物、ぐらいなんだけどそこにたどり着いた。
「話に聞こえるダグラス隊長が直々にとは、穏やかではありませんな」
「そうでもない。少し、な。侵入者はいなかったか?」
着くや否や、お出迎えに来ていた兵士達とダグラスさんは情報交換中だ。と言っても王女が1人で来てるはず、なんてことを言えるはずもないので季節外れの査察、という名目だった。さすがの王子も転属となると問題が大きいと判断したみたいだった。
「特には。ただここ最近は飛竜たちが騒がしいので何かあったかと警戒をしているところです」
(当たり……かな)
繁殖中の飛竜がもしいたら必ず逃げてくださいと言われながら、僕達は渓谷に足を踏み入れた。餌とみられるらしいのでホルコーたちは砦でお留守番だ。馬から降りると、渓谷の広さがすごく感じられる。山の底に来てるみたいだね。そして感じる大きな生き物の気配。
「ここに王女が……」
「息子よ、油断するでないぞ。飛竜は奇襲を得意とする。それこそ雲の上からな。長く生きた飛竜は己の体を魔法で隠すことすらするという……」
リベルト爺ちゃんの脅しともとれる発言に体を震わしてしまう僕。飛竜が前に倒したような大きさとは限らない。王女が王国の助けになるとわざわざ来るぐらいだ。もっと大きいんじゃないかな。そう、あのぐらい……は?
「マリー!」
「きゃっ!」
音も無く、山肌から急にソレは飛んできた。さっきまで普通の山だったのに、だ。僕は咄嗟にマリーを押し倒し、飛竜の爪から彼女を守ろうとする。背中に衝撃。痛みが無いのでそれぐらい一瞬でやられたのかなと僕は思ったけど代わりに浮遊感が僕を包んだ。掴まれて空の上みたいだ。
「あれー? おにーちゃんどうしてここにいるの?」
「え?」
飛竜が喋った。しかも妙に甲高い声で……じゃない、上に誰かいるんだ。だけど僕のことをこう呼ぶかもしれない相手は故郷の弟たちと……シータ王女だけのはず。声の感じがちょっと違うような?
「ねー、どうしてー?」
「とりあえず降ろしてくれないかな」
飛竜の爪につかまってる状態では顔も見えないし、身動きも取れない。そのことを訴えると頭上で納得の声がし、そのまま僕は地面に向けて急降下した。ぶつかるかと目を閉じると、ふわりとした感じがあってそのまま地面に降ろされた。
「ファルクさん!」
「あ、おねーちゃんもいる。あれー? お城で待っててってお手紙書いたのになあ」
駆け寄ってくるマリーに助け起こされ、僕がようやく声の主を見ると……固まった。だって、そこにいたのは僕が予想してたようなシータ王女じゃなく、立派な大人の女性だったからだ。王子と同じかそれ以上に見える姿は予想外すぎる。
腰から上の上半身が手甲まで、体の線を隠さないぴったりとした青みを帯びた白銀色の金属鎧。
下半身は純白を基調にリボンやフリルがあちこちに施されたドレス姿だし、足には白いタイツのような物で足先はそのまま踊るのかな?といった様子の靴。頭には大き目のティアラで、兜と呼んでも差支えがなさそうな大きさの防具がかぶさっていた。
顔つきもだいぶ違うけど、瞳の輝きだけは僕にも見覚えのある物だった。というか全体的には確かに大きくなった彼女、と言われたらそうかもと思うような姿なのだけど……。
「シータ王女……?」
呆然としてつぶやくと、彼女はそっぽをむいてツーンとした態度をとって来た。あれ、別人なんだろうか?と思ったところで気が付いた。そういえばそうだったね……。
「えっと、シーちゃん、久しぶり」
「うんっ!」
満面の笑み、それは確かにシータ王女の物だった。
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