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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-015「草原の戦い-1」

(あんまり寝られなかった……)


『いざとなったら俺は休眠状態になるから安心しろよ』


何をさ!?と心の中でご先祖様、いや、この場合は

ファクトじいちゃんにつっこみを入れながら

部屋の隅にある水桶で顔を洗う。


マリーはまだベッドにいるようだった。


それもそのはず。


外はまっくらではないけど、早起きだねと驚かれる時間帯なのだ。


村では畑も少しやっていたので、このぐらいの時間が癖になっている。


起こさないように注意しながら部屋を出、

階下の受付兼食堂のような場所に降りる。


「お、早いな。若いの」


「駆け出しですからね。早めに行って仕事を見るのもいいかなと」


場合によっては僕よりも早く出る冒険者もいるのだろうか、

既に宿の主人の後ろでは湯気の立つ鍋などがいくつもあった。


「それはそうかもしれんな。ただまあ、朝一は仕事も多いが、

 気の荒い金に困ったやつも多い。その少し後の方がいいだろうな」


忠告を受け、僕は眠気を覚ますように体を動かしてマリーを待つことにした。


これが男同士だったら起こしに行くところだけど、女の子だからね。


マリーは気にしないかもしれないけど、僕が気にする。





「もう、起こしてくれても良かったんですよ」


「気持ちよさそうに寝てたからね」


案の定というべきか、なぜ起こしてくれなかったのかと

マリーには怒られたけど、適当にごまかして2人してギルドに向かう。


前よりも少し大きい建物の扉をくぐると、

確かな熱気を感じた気がした。


人数はそう多いわけじゃないので、宿の主人が言っていた

先に依頼を見に来る人たちの名残だろうか。


「拠点を移しての活動ですね。少々お待ちください……はい、大丈夫です」


受付のお姉さんにマリーと共にギルド証を渡す。


仕組みはよくわからないけど、これで主な活動場所が移されるのだ。


高ランクになると緊急の依頼などの時に声をかける候補になるそうだ。


僕のランクは当然まだF。マリーも同様だ。


「薬草類の採取にポーションの納品。インゴットの納品とかもありますね。

 ポーションはともかく冒険者が鍛冶なんかやるんでしょうか?」


「どうだろう……。やれることでいいんじゃないかな」


依頼書たちを見るマリーのつぶやきにご先祖様が急に反応した気もしたけど、

言葉も出てこないので僕もそのまま依頼書を見る。


「採取と、遭遇するかもしれない討伐分を受けようか。

 ダンジョンの話も集めないといけないし」


「はい。さっそく行きましょう!」


元気のいいマリーに頷いて、

僕は依頼書からヒルオ草とパピル草の採取依頼、

そしてトレントの討伐依頼を選んだ。


トレントは目撃依頼があり、討伐必須、ではない依頼だった。


「はい。2つの採取依頼ですね。トレントの目撃は2週間ほどで3回あります。

 数は多くないようですがご注意ください」


数や納品先の確認をして2人はギルドを出る。


預けていた馬を受け取り、2人ともその背中に乗ることにする。


預けたところで言われたのだけど、僕達2人ぐらいなら

この馬は大丈夫だろうとのこと。


試すためにも2人で乗ってみることにしたのだ。


やはり僕もまだ子供だということなのだろうか?


馬は思ったよりも元気な足取りで歩を進めるのだった。


「ファルクさん、こっちにあるって誰かに聞いたんですか?」


「いや? ヒルオ草そのものはあちこちに探せばあるけど、

 パピル草は少しコツがあるんだよね」


マリーの声を背中に感じながら、僕は虚空の地図と

目に入る実際の景色を見比べながら馬を操る。


それにしても便利な物である。


大体の地形や距離などが把握できる虚空の地図。


ファクトじいちゃんに言わせると、

誰でも使えたはずの何でもない能力だ、というけど

旅をする上で一度行ったところは

こうしてたどることが出来るという時点ですごい。


しかも、森や川などがあればその都度、地図が更新されるのだ。


これであれば、目的であるパピル草の群生しやすい場所、

小川そばの森、なんていう場所も見つけやすい。


草というより野菜に近いヒルオ草は

専門に栽培している人もいるぐらいあちこちに自生しており、

その葉っぱはポーションの材料になる。


ご先祖様は見るなり『ほうれん草じゃないか!』なんて言ってたけどね。


これは水気があればあちこちに生えているので

川沿いに行けば大体大丈夫だ。


ちなみに普通に食材として食べることも出来る。


パピル草はやや特殊で、

これも数自体は多いのだけど水気と、

何故か森の中を好むのだ。


たぶん、森そのものというより暗さがいいんだろうなと思う。


秘密の洞窟の中でもコイツの場所だけ魔法の灯りが少なかったのだ。


そうこうしているうちに川に出ると、

その上流へ向かって馬を進める。


「そういえば、お馬さんに名前はあるんですか?」


「んー、場合によってはすぐに売ることも考えてたからなあ……。つけてないよ。

 もし呼ぶならホルコーかな。村の名前だし」


途中で見つけたヒルオ草の採取の最中、そんなことを聞いてきたマリーに

僕も根っこと土ごと掘り起こしたヒルオ草を仕舞い込みながら答える。


「そうなんですね。お馬さん、今日から貴方はホルコーですよ」


言葉が通じたわけではないだろうけど、馬、ホルコーは

承知したと言わんばかりに吠える。


後で知ったのだけど、魔法使いがこうして名前を付ける時には

契約にならないように気を付けないといけないそうだ。


何故なら、魔法使いが契約として名前を付けると

売買が少し面倒なんだとか。


僕達がホルコーを売ることは無かったために

問題は起きなかったのだけどね。







太陽が僕達の真上に来た頃、

予定の倍ほどの量のヒルオ草を採取し、

パピル草の群生地を見つけていた。


「今回は球根はいらないみたいだし、すぐに生えてくるように残しておこうかな」


「なるほど……。使えるからと全部取らずに残すのですね」


そう言いながら僕が最初の数株を除いて、パピル草を

茎の部分から採取してるのを見、マリーが続く。


この草の球根は毒になるんだよね。


球根の汁気、紫色のすごい色のソレがそうなのだけど、

即効性もあるので矢じりに塗って使うと狩には便利なのだ。


その逆に茎と花を使うと毒消し薬になるのだから不思議だ。


ちなみに毒は火を通すと問題ないらしい。


暗い方面に使うにはその色が厄介なのか、ほとんど聞かない。


結果としては冒険者と猟師ぐらいにしか需要は無いのだ。


今回の依頼にはないので球根までの採取はしない。


数株は自分のためにもらうけど、ね。


「少し遅いけどお昼にしようか」


「はいっ」


森を出、小川のそばの岩の上で僕達は遅めのお昼ご飯を取る。


宿で用意してくれたパンに乾燥させた肉を挟んだ簡単な物だ。


それでも疲労した体には十分で、太陽を浴びながら2人は食事を進める。


「静かですね」


「そうだね。川の音と鳥と……」


僕の胸の音が、とはとても言えなかった。


ふと、汗をかいて火照った様子のマリーの肌が目に入ったのだ。


僕とマリーは子供だ。


でも、もう大人への階段を上がり始めた微妙なお年頃なのだ。


マリーの何気ない仕草にドキっとしたってしょうがないだろう。


彼女はその、可愛いんだから。


それこそ悪い奴らに、僕はいったことが無いけど

後ろ暗い場所にある娼館なんかに放り込まれそうな見た目だ。


『もう少し免疫をだな。そうだ、夜の街にでも行くか?』


(そんなお金もったいないよ! 僕お酒飲めないし)


ご先祖様のつっこみに慌てて僕も心の中で叫び返す。


その動きが不自然だったのか、マリーが首をかしげてくるが

僕は何でもないよ、とごまかした。


モンスターが襲ってくるかもしれないんだから集中だ!


(と思ったのはいいけど、アレ……そうなのかなあ?)


ご先祖様からの警告も無いので今すぐということではないのだろうけど、

気になる物を見つけた。


上流のほうにある川の中州、というべき部分に

1本の木が生えている。


僕の5倍ほどの高さに僕とマリーでは足りなそうな太さの幹。


ここまででおかしい部分がある。


中州、といってもそれはたまたまその木があるからそう思っただけで、

実際には川のど真ん中なのだ。


そう、明らかに普通に生えてくるのは難しい。


「ねえ、マリー。あれ、魔力を感じない?」


「え? えーっと……あ、何か変ですね……というかもしかして?」


そう、2人の考えはここで一致した。


あれ、トレントだ。


「であれば手段は1つ! マリー、火属性は何がいける?」


「えっと、レッドシャワーとアロー、ボールもいけますよ。適正の関係でこのぐらいですけど」


相手がトレントであれば一番有効なのは火の魔法だ。


幸いにも相手は森の中にいないので燃え移る心配もない。


「よし、じゃあファイアーボールで。僕はレッドシャワーで追撃するね」


互いに頷き、ホルコーを下がらせながら詠唱を始める。


「この手に集い、赤き鉄槌を! 火火球!!(ファイアーボール)


「この手に集い、赤き雷鳴を響かせろ! 赤い火雨!!(レッドシャワー)


静かだった場所に轟音が響く。


人が投げたぐらいの速さで飛んでいく火球に、

僕の放った火の魔法が雨のように続いていく。


川の地形を余り変えるわけにはいかないので、

マリーの狙いはトレントであろう相手の

丁度幹の上あたり。


人間でいう……胸元、かな?を狙っている。


それでも熱は相当なようで、

音と共に川の水が靄のようにあたりに漂い始めた。


本来補助に使うような風の魔法を使いその靄をどかしてみると、

どうにかして魔法を避けようとしたのか

川から出てきた状態のぼろぼろの木、

トレントが半分横たわるようにして倒れていた。


トレントである証拠に、その枝の幾本かが

今も動いているし、その幹に口のような物が開いていた。


目鼻はないけど、トレントが成長すると

あの口のような物で魔法を使うとか。


でも今は僕達の奇襲の前に満身創痍だ。


「マリー、援護とホルコーをお願い」


「ええ、任せてください」


僕はアイテムボックスから別の武器を取り出す。


特に強いという訳ではないけど、トレント相手にはよさそうな物。


「今日の薪は君に決めた!」


そう、両手斧だ。


風魔法を身にまとい飛び上がり、勢いよく斧を振り降ろす。


「食らえ! っ!? ライン……ブレイク!」


脳裏に閃く力ある言葉。


それに逆らうことなく、言葉を口にしたことであふれる力に身を任せる。


手の中の斧がぼんやり光ったのを見ながら

トレントを両断するのを僕は両手に感じていた。


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兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://book1.adouzi.eu.org/n8526dn/
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