MD2-147「物事の価値-4」
王都へと向かう僕達。そこで出会った不幸な馬車の利用者たちと交渉し、荷物運びを請け負った。ただ、悪い人という訳じゃなかったけれど、ちょっと微妙と言えば微妙だ……。鍛えた2人にそうではない1人、3人とも商人だという集まりはとても……元気がよかったんだ。
『そうか? 商人らしい気質といえば気質と言えるかもしれん』
(だと思いたいけどね、だいぶ元気だよ……)
歩きとなる3人に合わせ、僕達はゆっくりと進む。最初は馬車を直してホルコーとリベルト爺ちゃんの馬で引くことも考えたけれど思ったよりも馬車は壊れていて無理だった。そして街道と言っても心配していたようにモンスターの襲撃は全くないとはいかないわけで……。
「マナボール!」
街道沿いの森から顔を出したゴブリンらしき影に、魔力弾を撃ち込む僕。森が燃える心配が少しあるから、楽だけど火球は使いづらい。音と火で大体の相手は逃げてくれるから燃えない場所に出てきてたらそっちを使うんだけどね。
「いやー、見事だね。どこで師事したんだい?」
「んー、村に冒険者がいたんで……それより進みましょう」
とまあ、戦いの旅にこんな感じだ。長話をしているとまた襲撃があるかもしれないし、かといって全員乗るってわけにもいかない……ホルコーならもうちょっと行けそうだけど狭いからね。
本当のところはお話じゃなく、僕達を雇いたいんだろうなって思う。一時的な物じゃなく、今後出来る限り長く。
「やっぱり荷物運びも出来る護衛を雇うべきだったんだよ」
「その場合の問題点も話し合っただろう?」
「ただでさえ3人なのだからな」
小休止ともなれば、こんな感じで3人の話し合いが始まる。中身は喧嘩のように聞こえるけど、なんだかんだ仲は良いみたいだ。そうでなくっちゃ3人で行動なんかできないかな?
『自分の馬車を持ってないなら、そんなに大きくない……夢に集まった3人というところか。あのレンガ、よほど高く売りつける先にあてがあるに違いない』
(なるほどね……確かに、そうじゃないと3人一緒に動くって費用が掛かるよね)
3人に背中を向けながら1人、ご先祖様の言葉に頷く僕。隣にいるマリーは僕がご先祖様と話しているのだとわかっているらしく静かな物だ。
そんなマリーだけど、リベルト爺ちゃんに魔法使いとしての実力向上の秘訣を1つ教わったらしい。
それは何かというと、魔法に至らずとも常に魔力は巡らせよ、という物だった。実際、僕の目から見てもマリーは見事にそれをこなしてるように見える。その流れに沿うように、小さな精霊っぽい物がふわふわと浮いては動いてるからたぶん、そういうことだろうね。
「ほっほっほ。またやっとるのか。飽きない3人組じゃのう。商人だから仕方ないかのう?」
「本当ですよ。元気なのはいい事なんですけど……あれ、どうしました?」
ほんの少し前まで元気だったのに、リベルト爺ちゃんは急にそわそわとした様子になった。心配になって聞いてみた僕だけどお爺ちゃんは答えずに首を振るのみ。
「なんでもない、なんでもな。それより、また来たぞい」
「また!? 街道の見回りはどうなってるんですかね!」
「ファルクさん、前からも来ます!」
事前に聞いた話だと、近隣の街道は王都から出る兵士達の見回りで安全な場所が増えているという。だというのにこれはどういうことだろうか?
少なくとも5回ほどは既に襲われている。これが普通とは……到底思えない。
(前後で気配が違う!? 後ろが……狼系か!)
街道の向こう側から走ってくる小さい影。この距離からでも独特の形がよくわかる。四つ脚の獣だ……ただの獣がこの距離から人間を襲うとは思えない。となるとモンスターに間違いないね。
咄嗟に半透明な地図を横に広げ、前後の相手を地図上に光点として光らせる。
『後ろはグレイウルフだ。追いつかれるとめんどうだぞ!』
(前は……コボルトかゴブリンぐらい? そんなに強くはないはずっ!)
王都の壁はもう遠くにだけど見えている。歩きだと無理だけど……馬なら!
「ホルコーに乗って王都に向かって逃げて、早く!」
僕は決断し、前のモンスターの群れはホルコーに突っ切ってもらうことにした。ホルコーなら3人乗せてもなんとか持ってくれるだろうという判断だった。任せろとばかりに吠えるホルコー。それに頼もしさを感じながら、躊躇している1人をホルコーの上に押し上げた。
「ワシの分も乗っていけい。体格のいいお前さんはこっちに1人じゃ」
「わ、わかった!」
僕達の視界に相手がはっきりと見えてきたころ、ようやく3人は馬に乗って駆け出した。僕はそちらにいる小さなモンスター……コボルトだった、に向けて牽制のファイアボールを放つ。リベルト爺ちゃんの乗っていた馬も訓練を受けており、このぐらいの魔法では驚かないのは確認済みだ。
「あー、困ったなあ……もう」
「ほっほっほ。あれもこれも勉強勉強。どの選択も良いこと、悪いこと、ありそうじゃったろ?」
「そうですね。ファルクさんならどっちを選んでも大丈夫でしたよ、きっと」
前に来ていたコボルトたちは適当に魔法を撃ち込むことであちこちに逃げていった。問題は……すぐそばまで来ている狼たちだ。1匹でも逃がしたら厄介な気がしないでもないんだよね。
「まずは外から中に追い込みます!」
「よかろう。ふんっ! グレイルパニッシャー!」
リベルト爺ちゃんの体から魔力があふれたかと思うと、それは光の帯となって迫ってきていた狼たちの左右に広がった。それだけだと威力はなさそうに見えるけど、瞬間、光と音が弾けて僕達も一緒に飛び上がった。
効果はてきめん、グレイウルフたちは先ほどの音と光を怖がってか街道の上をまとめて走るようになった。それでも逃げないってことはこっちを獲物だと思ってるってことだね。
「敷物にしたいね!」
「そうです……ねっ!」
大分僕もマリーも色々と上達したのかもしれない、と思った。何かというと、周囲に響く魔法の音、そして武器を振るう音。それが聞こえる度に1匹1匹とグレイウルフは地面に倒れていくからだ。
後のことを考えて、毛皮を痛める戦いは出来るだけ回避していた。炎は地面で牽制に、そして刺さるというより全体に風をぶつける、といった具合で。
幸いにも3人が逃げた先へはグレイウルフは逃げず、元来た方へと走り去っていった。結構な数の味方の死骸を残して、ね。考えて倒したからか、毛皮はあまり痛んでいない。これなら丸々毛皮になりそうだね。
「いい具合じゃの。討伐だけで生き抜くにはそういう手も必要じゃよ」
人生の先輩に合格を貰い、僕達はグレイウルフの群れを剥ぎ取りにかかった。本当は3人が気になるけど、もう王都にたどり着いてる頃だろうから一安心だ。まあ、ホルコーに何かしようとしても返り討ちに会う気はするしね。
「冬に向けて需要は高まるでの。価値はあがるぞい」
「何事も価値は動くんですね……頭痛くなります」
この色合いが人気がある、といったことを助言してくれるリベルト爺ちゃん。ご先祖様に言えば鑑定ぐらいはしてくれるだろうけど、自分でも出来るようにならないとね。それに、やれることが増えていくからこそ改めてご先祖様のすごさがわかるという物だ。
ようやく剥ぎ取りと処理を終えた僕達は急いで3人を追いかける。試しにお爺ちゃんも風魔法に身を任せてもらい、僕達は滑るように地上を走る。他から見たら、驚きだろうね。
「これは良い物じゃの。名前とかはあるのかのう?」
「実はこの前出来たばっかりなんですよね。良い名前があれば……」
申し訳なさそうなマリー。そう、ギルドで適性を測定しなおした後に安全な魔法の練習として色々試していて出来上がった移動魔法なんだよね。空を飛ぶわけじゃないし、高さが稼げないからどうかなと思ったけど横にこうして走る分には普通の馬にも負けないぐらいだ。
「ふむ……ランディング、でいいと思うぞい。確か昔、そういう悪路踏破の魔法があったはずじゃ。地方以外、すたれたようじゃがのう」
「じゃあそうします!」
そんな感じで平和な時間を過ごしながらついに僕達は王都の門を視界に収めた。
……あれ? 何か、もめてるような……。
「応えろ! この馬の持ち主をどうした!」
「あの人たち……」
「運が悪いのう。見事に息子に出会うとは……」
近づいた僕達の前に現れたのは、兵士らしき人らに囲まれている3人の商人たちだった。
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