MD2-146「物事の価値-3」
一緒に旅をすることになった魔法使いのお爺ちゃん。村にいるザイーダ爺ちゃんといい勝負な歳に見えるけど、随分と元気そうだった。名前はリベルト、土、火、光の適性を持つんだって。
「でもよかったんですか? 僕たちに適性のことまでいっちゃって」
「なあに、大切なのはそれをどう使うかじゃよ。人間、半端に情報を持っていると予想しやすい行動をとるもんじゃ。例えば……ワシが火が得意ならと水を用いたりとかの」
僕達と同じように村に預けていた馬の背の上で、リベルト爺ちゃんは髭を揺らしながら笑う。そう、まるで大きな筆先のような白いひげが口元から伸びていて、さらには左右にも伸びている。髪の毛を整えるみたいにしてるからなんだか可笑しな感じだね。
『自分に出来ること、出来ないこと。それがはっきり自覚出来てる戦士は強いぞ。不利になる状況もはっきりしてるからな。すぐ回避するか、どうにかする手段を持ってるってわけだ』
(なるほど……使いよう、か)
「お爺様は王都にどんなご用事なんですか? 私たちは依頼の報告とかですけど」
少し考え込み始めた僕の代わりにマリーの口から質問が飛び出すと、なぜかお爺ちゃんは僕達をじっと見て……何かに頷いた。なんだろう……大体こういう時って普通には終わらないよね、うん。
「なあに、隠居生活をしておったが、孫が増えたと聞いてな。顔ぐらいは出そうとしとるんじゃよ」
「お孫さんですか? それは素敵ですね!」
晴れた空に抜けていくように気持ちよく笑うリベルト爺ちゃん。姿は魔法使いとしての服装に装備だけど、マリーに言われて笑っている姿はごくごく普通のお爺ちゃんだ。
一人で冒険者をしてるみたいだから相当な実力者なんだろうなって思う。それに、腰に下げた袋からは魔力を感じるんだよね。
「んん? ほほう、これを感じられたか。優秀優秀。簡単な隠ぺいはかかっておるんじゃがの。むかーし、大枚をはたいて買ったんじゃよ。容量はそんなにないが重宝しておる」
「やっぱり、アイテムボックスですか」
「ファルクさん、あれでも金貨50枚ぐらいはしますよ」
単純に納得の声を上げた僕だったけれど、マリーのつぶやきに飛び上がるかと思った。アイテムボックスって、高いんだね……。あっさりとそんなものを持っていると告白してくれるのは嬉しいけれど、それは僕達を信用してるからだろうか? ちょっと違うような気がする。
なぜかというと、ご先祖様からも感じる物……それは、こうしていても隙が無いということだった。茂みが音を立てれば、自然な動作で杖に手を伸ばし……簡単な魔力の矢が飛んでいく。
「しまったのう。今日のおかずにするべきじゃったかな?」
「すごい……無詠唱だし、魔力が動いたのが全然わかんなかったです」
ご先祖様によく見ていろと言われなければまったくわからなかったぐらいのものだった。実際、マリーが気が付いたのは魔法が放たれた後で、え?っという顔でお爺ちゃんと茂みとを見ているぐらいだ。
杖を元の場所に戻したお爺ちゃんは、これも年の功ってやつじゃよと笑いごまかされた。
「それより、お前さんたちも不思議な2人組じゃのう。若いのに力を感じる……が、正直に言えば隙だらけじゃ。悪い奴に食いもんにされぬように注意せんといかんぞ? 例えば貴重品も持ち歩かないとかのう」
「あ、それならっと」
思わずご先祖様にもらった形になるアイテムボックス、ごまかすために布袋は持っているけれど実際問題僕以外触れない不思議なアイテムボックスがあることを口にするところだった。こういうところが隙が多いってことだよね。リベルト爺ちゃんも持ってるってわかってるけどそれはそれ、だ。
「お爺様がほとんど荷物を持ってないのに野営の心配をしていないのと同じぐらいには備えはあるんです」
「なるほどなるほど。お嬢ちゃんの方がしっかりしとる。頑張れよ、若いの」
「はい……」
2人は笑い出し、さらにホルコーやお爺ちゃんの乗っている馬までもがそれに参加して来たので僕はなんだか恥ずかしいような、悲しいような気分になるのだった。まあ、自業自得なんだけど。
気を取り直すように、視線を前に向けると街道の先に影が見えた。
「? あれ……なんでしょう。馬車?」
「ふうむ? ゆっくり行くことにしよう。馬車の故障を装った野盗ということもあるでのう」
そんなことがあるんだ!?と内心驚きながら、指示に従ってホルコーにはゆっくり目に進んでもらう。そして徐々に近づいてくる影……馬車だけどだいぶ壊れてるような気がする。周囲には3名ほどの男性。立ち往生してるような感じだね。
「乗り合いか……魔物に襲われたところじゃのう」
「うわ、ぼろぼろだ」
ここまで来ると、馬車のそばでどうしたものかと立ちすくむ人たちが見える。だけど……なんだか何かが足りない気がする……そうか、馬そのものと、操り手らしい人がいないんだ。
「あのー、どうされたんですか?」
「あんたらは旅人か……まあ、見ての通りさ。乗り合いの馬車が襲われてね。荷物が運べないから荷物をあきらめるか乗るのをあきらめるか決めろってなったのさ。俺たち以外はかさばらない物ばかりだったからそのまま乗っていったんだ」
なるほど、だから馬と御者がいないんだ。無事だったのは人を乗せる部分で、荷物まで載せていくのは無理……と。大体こういう時はお金なんかだけを持って荷物はあきらめることが多いらしい。不意の事故の時とかにはどうしようもないもんね……。
「珍しいのう。あきらめきれないほどの荷物とはなんじゃ?」
「それが……レンガでして」
そう言われてから横倒しになった馬車の荷台を見ると……確かに一部は割れているけれど結構な量のレンガ。捨てていくにはもったいないし、持っていくにはかさばる……なるほどね。
「ここは結構馬車が通るはずだから、空いてる部分に乗せてもらおうかと思ってこうして待ってたんだよ」
「そうなんですね……でも、ここは魔物も出ますよね? 危ないですよ?」
『それは百も承知ということなんだろうな。見た感じ、結構いい質のレンガだ。何か特別な物のために買い付けをしたんじゃないか?』
口ごもる男性に向けて、僕がふと思ったという体を装って問いかけてみると、見事に当たりだった。
割れてしまったレンガを手にしながら、男性の一人が僕達の前にその断面を見せてくる。
「……何か挟まってますね」
「ああ。クズだけど魔水晶を入れ込んだ特殊なレンガなんだ。これを使って建物を作れば、中で魔法使いが修行するのに適したいい感じの場所になる……予定だ」
「ファルクさん」
僕はマリーの問いかけに頷きそうになるのをこらえながら男性の口にした内容を考えていた。嘘は言ってないと思う……それに、クズとはいえ魔水晶が混ざってるとなると確かに捨てていくにはもったいない。
何とかしたいというのもよくわかる。
リベルト爺ちゃんはこちらの言葉を待っているのかずっと押し黙ったままだ。さてさて……どうするか……と言っても、僕の答えは決まってるんだけどね。ただ、それに色々とくっつけないと。
「条件があります。僕はこれを運べますけど、何が対価にもらえますか?」
「え? ほ、本当か!? ええっと……現金はほぼないから……ちょっと待っててくれよ」
出来るだけ冒険者らしい顔つきをしたつもりだったのだけど、一応成功したらしい。ぎょっとした様子になった男性は馬車の様子を見ていた仲間の2人の元へと駆け出し、何やら話し始めた。
「ファルクさん、報酬を貰うんですか?」
「んー、どっちかというとさ……価値を知りたいんだ。どのぐらいのものを対価にしてくるのかなって」
「良い手じゃな。万能ではないが、大体問題ないじゃろう」
ちょっと不満そうだったマリーも僕の返事に納得した表情になる。リベルトお爺ちゃんは嬉しそうだ。そうしているうちに戻って来た男性が口にした対価に、僕は頷いてさっそくとレンガをアイテムボックスに仕舞い始めた。
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