MD2-144「物事の価値-1」
久しぶりの再会となったフローラさんとアキたち。彼らと共に新しいダンジョンの探索、そして帰還となった僕とマリー。後ろ髪を引かれるとはこのことだなと実感しながらも、健気に送り出してくれる弟と妹に再度の帰還を約束しながら僕達は村を旅だった。
そして麓の街でフローラさんらとは別れ、再び僕とマリー、そしてホルコーの2人と1頭旅になったのである。
向かう先は両親の遺した伝言である西。そこにいるであろう両親の友人……昔の知り合いかな?を目指しての旅だ。西方諸国にぎりぎり入ったあたりらしいから結構遠いね。
本当は前に使えた転送門が利用できるなら時間の短縮にはなるのだけど、あれは特別な状況だったし、確か利用にはかなりのお金がいる。一日を争うという状況ではないので、僕達は旅の経験を積むためにもホルコーの足で向かうことにした。まあ、3日が2週間になるとかそのぐらいだからね。
道中は大きな問題は今のところ、無い。魔物にちょくちょく襲われるけど、ほとんどは見つけ次第2人のどちらかが魔法を撃ち込めば逃げていく。前の僕達なら全部倒そうとしていたんじゃないかなあと思う。そのあたりは対応を変える余裕が出て来た……ってことなのかなあ?
「でも、驚いたねえ。受付の人……セシリーさんだったかな? すっごい顔してた」
「ええ、そうですね。私も驚きましたよ。マジカル測定球くんの故障だと思いましたもの」
何かというと、麓の街で改めて計測した時のことだった。冒険者は稀に手に入るスキルの確認や、現状の把握のためにある程度の感覚でマジカル測定球くん等で測定することが推奨されてるらしい。もっとも、僕もマリーも結構そのあたりを忘れてて、何もしてなかったりしたんだよね。
再会の言葉を交わしつつ、セシリーさんから差し出されたマジカル測定球くんに手をやると……僕は前よりはっきりとした光を発するのを見た。不得意な属性なし、どれも普通からやや得意気味に、火は得意の中でも少し上昇していた。
才能ってやつですかね、とセシリーさんが呟いていたのが印象的だった。そして問題はマリーだった。さすがに全属性というおかしなことは無かったけれど、風、火、雷、そして水、氷と明らかに適性が増えていたのだった。魔法の適性は2つあれば上等とされるらしいし、それも戦闘に役立つ魔法が得意になるとも限らない。そこに出てきたのがマリーという複数属性、かつ実戦経験済みの存在だった。
「でも一周回って、僕の知り合いだからねって納得されたのはちょっとなあ」
「うふふ。2人だけが特別みたいでいいじゃないですか」
僕としてはやや珍獣扱いされてるようで微妙だったのだけど、マリーはそうでもないみたい。こうやって言われると悪い気がしないんだから人間ってやつは単純だよね。でも、僕もマリーと合わせて扱われるのはその意味では悪い気はしない。
「まあ、そっか。後はスキルだね。マリーの射程距離増大はともかく、僕のはなんだったんだろう」
「幸運……でしたよね。ギルドでも首をひねってましたね。なんでも持ち主によって恩恵みたいなのが全然違うんだとか」
そう、2人そろって新スキルが出てきていたのだけど僕の方が微妙だった。マリーのは堅実な物というか、あまり遠くに魔法を撃ち込むと途中で干渉が途切れて効果を失う時があるのを防ぐものだ。正確には、遠くまで干渉できる、ということになるのかな?
僕は幸運、という物が見えると言われた時には最初は何を言われたのかわからなかった。良いスキルが出てるよ、幸運だねっとか言われてるのかと思ったぐらいだからね。だけど違った。そのまま、幸運って名前のスキルが出てるらしい。このスキルを確認するのは長い間ギルドで使われてきた昔からの堅実な技術なんだって。話によると、かつての英雄たちもみんなこうして確認したのだとか。
「正直、運がいいのか悪いのか……どっちだろう」
「そうですね……普通じゃ出会えない出来事に幸運にも良く出会う……そんなところじゃないですか?」
そう言われて、ああ、そういうことかな?と納得した。不思議な出来事や凶悪な相手に出会うことが不幸と言えば不幸だけど、貴重な体験・経験を積めるという点で行けば確かにそういうことなのかもしれなかった。
「そう思っておく方がよさそうだね。後は……怒られたね」
「本当にです。結構しっかり言われましたね。最終的には自己責任、自己管理の問題ですけど……いい人ですね」
マリーに同意の声を返しながら、新たに突き付けられた僕達の弱点というか、問題点について考えた。
その弱点は……アキたちにも言われたけれど、単純に経験が足りていない。
途中の村や街でも、やりながら進めるような物があれば受けようと思った。届け物とかね。
「厄介事が許してくれる限り、普通に冒険者しようか?」
「ええ、そうしましょう」
『俺は悪くないからな、多分』
冒険者がどういう生き方をするかは自由。迷惑をかけてもその意味では自由……ただまあ、好き勝手にしてるとフローラさんみたいなエンシャンターにお仕置きされ、最悪冒険者の扱いを失うらしいんだけどね。
時折、冒険者を出先で襲って失敗を目撃したとか言って横取りをしたり、身ぐるみを剥いじゃう人がいるんだとか。すぐにわかるらしいけど、だからといって被害を受けた人が勝手に治るわけじゃないし、もし死んじゃったら何も意味がない。
これまでの状況を考えると、僕達の冒険者生活はここからまた新しく始まったも同然なのかもしれない。
1歩1歩、前に着実に進むことも大切だよね。
「はい。これがお届け物です」
「割り印もしっかり合いました。間違いないですね、ありがとうございます」
初めて訪れた街。僕達はその街の冒険者ギルドに顔を出し、前の村で受けた手紙の配達依頼を完了としていた。個別に家に届けるんじゃなく、ギルドに届けることに不思議な感覚があったけど、よく考えてみれば家の場所がわからない冒険者の方が圧倒的に多いんだ。ギルドに預けるというのは理に適ってるね。
報酬を受け取り、ギルドから出る。そういえばこの街はオブリーンの王都にほど近い、どこか垢ぬけた感じのある街だ。石畳も主要な通りにだけだけどあるし、街も汚れが少ない。しっかりと掃除もされてるんだね。
「もうすぐ王都ですか。シータ王女たちはお元気ですかね?」
「どっちも別の意味で元気がないところが想像しにくいね。王子はいつも通り落ち着いた感じで、シータ王女は元気な姿が似合うしね」
そういえば、王子には南で起きたことなんかをある程度は報告しておいた方がいいのかもしれない。せっかく南への旅を薦めてくれたんだしね。それに、黒龍の話は別としてあの場所はなかなか思い出話としても魅力のありそうなことが多かったからね……。
「うふ。確かに……シータ王女ならあの人と話したり、背中に乗せてもらえそうですね」
「かもしれないね。ちょっと怖くて試せないけどさ」
誰かと言えば、他でもない黒龍だ。あのすごさでも一応分類は龍だと思うから、シータ王女なら意思疎通はお手の物かもしれないね。相手がそれに応えてくれるかというと別問題だけど。
ホルコーを預けた宿に戻り、就寝。ぐっすりと眠れた翌朝、通りが騒がしい。
2人して宿の前に出て、人だかりの1つに近寄ると相手もこちらに気が付いたようだ。
「お前さんたちも西に向かうクチかい? じゃあしばらく足止めだな」
「何があったんですか?」
厄介事ではあるだろうな、と思いながら僕が関係ない可能性も十分にあると現実逃避気味に思いながら聞いてみると……予想外の返事が飛び出した。
「この先で崖崩れがあってな。道が塞がれた上に川に流れ込んだ土砂の影響で橋が壊れかかってるんだってよ」
さらに、モンスターの姿を見たという言葉を受け、僕とマリーは他の冒険者と同じように現場の様子を見に行くことにしたのだった。
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