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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-143「新たなる旅路」



「はい、お疲れ様!」


「やっと……終わった……」


 馬の顔、人の体、カニの腕。背中には黒龍を思わせる翼が1対、そんな異形が奥に居座っていた新たなダンジョン。1度その異形を討伐し、かなりの価値がある大きさの魔水晶を手に入れた僕達。ほっと一息ついたのもつかの間、一度外に出て別の入り口から再アタックだというフローラさんの提案に最初は苦情を口にした僕達だけど……。


「言った通り、倒した数だけ弱体化してたでしょ? あれなら普通の冒険者達でも稼ぎやすいわ」


「実際に見てみないとわかんなかったなあ……ファルク、お互いにいい勉強になったな」


 木にもたれかかり、自身の装備を点検しているアキが言うように、フローラさんの目的は金目の物となる相手の魔水晶を集めることではなく、たまりにたまっていたダンジョンの魔力貯蔵量というべき物を減らすというものだった。

 2回目には鱗の色が変わり、3回目にはカニっぽい腕が随分と細く、脆くなっていた。5回目ともなれば増援のスピリットもどこにでもいそうな弱い相手となっていたからね……。


「……結局地下階段は無かった。横に広いタイプ?」


「そうですね。今回は真っすぐ親玉に向かえましたけど、そうじゃなかったらもっと時間はかかってたと思いますよ」


 クリスのつぶやきに、ちらりと僕の方を見て答えるマリー。まあ、今回ほとんど親玉に直行できたのは確かに僕が……地図の中で親玉の反応を確認したからなんだけどね。一度入ったダンジョンで、構造が変わってないなら入り口が違ってもほとんど丸わかりだ。それでも扉をもう一度開けたらまた親玉がいる、というのは開けてみるまで信じられなかったんだよね。


「それにしても、あの親玉は生きてないってことでしょうか? 何度も復活してくるなんて」


「私にもよくわからないけれど、ダンジョンのモンスター同様に、いつの間にか復活していつの間にかそこにいるらしいのよね」


『人狼の試練があっただろう? あれも実力者はフォルティアを倒し、その牙や毛皮を素材として強くなるんだ』


 休憩がてら、色々と話しているマリーとフローラさん。僕はご先祖様から言われた、戦士であったフォルティアのことを思い出す。建物の中である意味孤独で、戦士の魂を守り続ける人狼……彼と戦い、彼の魂の叫びというべき物を味わっていたからこそその後に出会う強敵にも負けない気持ちが得られたと思う。


「でも、これでわかったでしょ。ファルク君」


「え?」


 そういって顔を上げた僕の前にフローラさんがいつの間にかいて、その指先が僕の鼻をつついた。特に力の入っていないつつき方だけど、その瞳は僕を心配そうに見つめている。


「君はすごく強くなった。正直、あの時にもっとしっかり捕まえておけばよかったかな、ぐらいにね。だけど、だからこそ足りない部分がある。まだ15歳でしょ? 単純に場数が足りないわね。強力な相手との戦い、じゃなくて冒険者としての人生経験というべき物かしら?」


「かといってファルクの強さでひたすら薬草採取をさせるのも酷じゃないか?」


 話を聞いていたアキが割り込んできたけど、フローラさんの言うことに反対という訳ではないようだった。ダンやクリス、ジャンさんも頷いている。どうやら皆にも心当たりがあるらしかった。


『面倒ごとに首をつっこんで、厄介な相手をなんとかしてきたせいで精霊を宿すためのレベル、階位は上がったがそれにまだ自信が追いついていないということだな』


 確かに、そういうことであれば納得だ。だって僕が旅に出てまだ1年たっていない。であるのに僕は本物の竜に出会って生き残っているぐらいには……厄介事を切り抜けて生きているのだ。波乱にもほどがあるね、まったくさ。


 要は人が順々に階段を上がって経験を積んでいくところをひとっ跳びで飛び越えてしまっているのが今の僕やマリーなんだ。つり合いがとれていない、とも言えるのかな。それを指摘されて、ようやく自分の中でもその問題が自覚出来た気がする。前々から今の僕はどのぐらい強いのか、とか疑問ではあったんだよね。


「一度戻ったらギルドで測定をし直しつつ、2人でよく検討しますよ」


「ええ、そうしなさい。彼女、死なせたくないでしょ」


「そんな時は私がファルクさんも死なせません!……あれ、そういう話じゃありませんでした?」


 真正面からのマリーの宣言に僕は顔が赤くなるのを感じた。フローラさんの言うように、こんなマリーを失う訳にはいかないな、そんな決意と共に。







「ただいま。ホルコー」


 ルーファスやメルに面倒を見てもらっていたのか、どことなく街にいた時よりは元気そうなホルコー。彼女の首を撫でながら、言葉はわからなくても帰還の挨拶をすると出迎えられてるような感じで首をこすりつけてくる。思えば、ホルコーもどこまで馬らしくない強さになるんだろうね……。


「にいちゃ! えっとね、ホルコー……ちょこっと飛んだんだよ!?」


「ははは。元気なんだねえ、ホルコー」


 小さな体を目いっぱい両手も使って伸ばすルーファス。どうやらよほど元気に敷地内を走り回っていたみたいだ。ひとまずホルコーには別れを告げ、ルーファスを連れて僕の家……正しくはお店に。

 お客としてきた冒険者が話せるように店の隅に机と椅子が用意されてるんだよね……そこで話す予定なんだ。


 店に顔を出すと、フローラさんたちが机の上に魔水晶を置き、何やら話してるところだった。僕に気が付いたみんなに手招きされる。


「? どうしました?」


「いえ、コレ……どこで売ろうかなと思って。王都あたりに移動して競売にでもかけたほうがいいかもなあと思うのよね」


 大きな魔水晶はそれだけでも観賞用に売買されることがあるらしい。確かに机の上に乗っている3つほどの塊は使うにはもったいないような綺麗な塊だ。削ったりできるんだろうか?

 疑問をそのままぶつけてみると、フローラさん、そしてご先祖様から返事が返ってくる。


「ちゃんと売れるわよ。アクセサリーにはめ込んで緊急時に魔法を使ったりするの」


『これを親指ぐらいの大きさまで圧縮して首輪にしたり、護身具として身に着けるのも昔はやったなあ』


 どうやらそこそこには儲けが期待できそうだった。この店で扱うという手もないわけじゃないけれど、それだと色々と危ないもんね。僕はどちらでも構わないと思った。


「じゃあお任せしますよ。売り上げの方はここに預けておいてください。旅先じゃ受け取れないでしょうし」


「そう……地元で頑張るのも手だけど、旅に出るのも大切ね」


 僕達のやり取りを店番をしながら聞いていた弟たちは、こちらを見るなり任せてとばかりにポーズをとった。だから僕も同じように頷いて見せる。ちょっと寂しいだろうけど、お兄ちゃん……頑張るからな。


「南には少しいったので、次は西に向かう予定なんです」


「西か……西方諸国まで行くのか?」


 恐らく、とアキに答える僕。どうやら彼らはこのあたりを中心に活動することを決めているらしく、麓の街でお別れだなという返事が返って来た別れは寂しいけれど、次の出会いのためでもある……っていつだったか誰かが言ってたかな。


 ちょっと予定外だったけれど、ダンジョン攻略を終えた僕達はまた1つ成長できたような気がする。一度は別れの挨拶をした弟たちとまた一晩過ごすというのもちょっとおかしい話だけど、別の場所に泊まる必要性も無いので今日は4人でまとまって寝ることにした。離れている2人のベッドをくっつけて、ソファも持ってきて合体。なんだか楽しくなって夜遅くまであれこれ話していたのだった。




「じゃあ、行ってくるよ」


「にいちゃ……お土産よろしくね!」


「お姉ちゃんも、頑張って!」


「はい!」


 弟たちの励ましの声、そして村人たちの声援を受け……僕たちはまたホルコーに乗って村を出た。ザイーダじいちゃんはその間、ずっと門のところで僕達を見守ってくれた。

 もしかしたらこれが最後かもしれない、冒険者とはそういう生き物だとわかっているからこそだと思う。

 だから僕はこう言うんだ。ただいまを言うために頑張ってきます、ってね。


 麓の街まではフローラさんやアキたちがいるけれど、それもすぐに終わり。僕達はオブリーン王都のある方向へと向かい……さらに西を目指すべく旅を再開するのだった。




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