MD2-140「宵闇の使者-3」
「ファルク……しっかり冒険者してるじゃないか、驚いたよ」
「僕も今の自分が信じきれない時があるよ。元気そうでよかった」
僕より5歳ほど上だからもっと丁寧に話した方が良いのかもしれないけれど、本人がそうすると嫌がるので普通に接する。
短い赤毛をツンツンとさせ、背負った長剣も前出会った時と同じ。仲間の両手斧を使うダンや、槍を得手とするジャン、そして魔法使いのクリスも変わらない。もちろん、1年もたってないから当然かもしれないけどね。
「短い間に随分と追いつかれた気がするな。アキが驚くのも無理はない。なあ、クリス」
「想定外……あの子達も鍛えたら強くなる?」
若干寡黙な魔法使いのクリスが見るのは興味津々といった様子でカウンターの中からこちらを見るルーファスとメル。僕は一瞬、カッとなりかけたけどクリスだってそんなつもりではないんだろうと思って感情を抑えた。
「悪い。この上あの2人も戦いに出ますなんてなったらファルクの胃が持たないよな」
「ううん。大丈夫」
僕よりも人生を長く生きているアキたちには今の動きでわかってしまったんだと思う。
しんみりしかけた空気を破ったのはいつの間にかクリスのそばに立っていたマリーだった。
「まあまあ。ひとまず情報のすり合わせを行いましょう。一緒に動くわけですから、ね」
そういってにこやかに笑うマリーだったけれど、クリスのほうを見た後、なぜか硬直した時間があったのは不思議だった。気のせいか……胸元を見てたような?
なんだろう、着ている装備が高そうだったのかな?
『ファルクはそのままでいたほうあ面白そうだからそれでいいんじゃないか?』
(どういうことさ、もう……)
良いことか悪い事かは別として、お客さんはその日、全く来なかった。ルーファス曰く、やはり暇なときは暇らしい。田舎だしね、仕方がない。話をする分にはちょうどいいかもしれない。
僕達は家の居間へと入り、思い思いに座った。
「やることは単純よ。ここから1日潜り、戻る。そして別の場所から1日潜り、また戻る。
街の記録に無いダンジョンですもの。そのぐらい慎重にしても無意味ということは無いと思う。
これに関して反対はある?」
「仮に入り口が崩落するなど問題が出た場合は、別の場所を探しますか? それとも復旧を目指しますか?」
唐突だったかもしれないけれど、僕のダンジョンでの思い出というと崩落や落とし穴、知らない入り口が出来ていた、なんてことばかりだからそっちが気になっちゃうんだよね。
マリーも頷いてるし、2人ともちょっと特殊なダンジョン攻略ばかりすぎたかもしれない。
「そうね……状況によるけど、入り口が遠いようなら外周を通って別の出口を探すわ」
フローラさんに頷く、僕は机の上に置かれた周辺の地図を見る。予想が全て正しければ、横の広さはランド迷宮の大よそ3倍。歩き続けても1日でどこまで行けるか怪しいものだ。
出てくる相手は……この感じだとランド迷宮とは全く違う物なんだろうね。
「今のところ、ナイトベアーみたいなのは稀ね。その割に外じゃよく見るのだけど……。
ともあれ、中にはゴブリンはゴブリンでも亜種の類がウロウロしてる。しっかりと首を飛ばすなりつぶすなりしてとどめをさすように」
「陣形はひとまず俺達はそのまま、フローラさんは遊撃の方がいいよな? ファルクとマリーちゃんだったか?はどうする?」
そう言われ、改めてアキたちの装備を確認する。前衛3、後衛1といったところだ。そうなると……うん、中衛から後衛に回ったほうがよさそうだ。
そう口にすると、フローラさんからはよくできましたと言わんばかりに大きい頷きを貰ってしまった。
微妙に試されていたらしい……そりゃそうだよね。
「私は風、雷、火が主に使えます。後は補助ぐらいですね」
「僕は気にしたことないけど、火が強いかな。後は風と水と土と……あれ、何個ぐらい使ったっけ……」
マリーと一緒に指折り数えて自分の使える魔法の種類を継げていると、いつの間にかみんながぽかーんとした顔でこちらを見ていた。
クリスに至っては目を見開いている。何かあったのかな?
「どうしました? あ、今のだとわかりにくいですか? 魔法名を言った方が……」
「いや、そうじゃないわよ。やっぱりレアものだったのね……しばらく見ない間に随分器用になっちゃって」
そうして告げられた話によると、マリーの扱う魔法の種類の時点で魔法使い全体でもかなり少数派だということ、大体は2つの属性が戦闘用に使えれば上等だということだった。確か、測定球君で測った時にフローラさんが飛び込んできたんだったよね、懐かしい。
「後は実戦だな。クリス、使う魔法のすり合わせをしておいてくれ」
「わかった。2人とも、庭に出る」
その後、僕達は使う魔法、そのタイミングなどを打ち合わせを行い、互いを巻き込まないようにと考えをまとめるのだった。
そしてダンジョンに挑むための物資の整頓、それぞれへの分割などをしている時だ。アキとダンが真面目な顔をして僕に近づいてきた。何か打ちあわせし忘れたことがあるんだろうか。
「ファルク、ちょっといいか?」
「うん。何?」
荷物を捌く手を止め、僕は聞く姿勢を取る。二人は口ごもった様子だったけど、アキがついに口を開いた。
「俺たちが霊山のことを口にしなけりゃ、危ない目にあってないんだろうなって思ってさ」
「迂闊だった……ああいえば気にするだろうに」
「そういうこと? なんだ、僕は気にしてないよ」
恐らくは遅かれ早かれ、僕は村を一度出ていたと思う。同じように両親を探しにね。それがいつだったかというだけだと思うんだ。
アキたちは自分たちが僕を焚きつけたのかもしれないって気にしてくれてたようだ。
「第一、みんなには感謝してるんだよ」
だから僕は、2人を元気づけるようにわざと陽気な声を出して2人の顔を上げさせた。視線が来た時を見計らって、ずいっと顔を2人に近づけ、囁いたんだ。
「おかげでマリーっていう最高の人に出会えた。ありがとう」
「ぷっ……青春してるねえ……こちらこそ、ありがとうよ」
「2人の未来に祝福を……俺も探さないとな」
3人で笑っていると、別の場所にいたクリス、ジャンが覗き込んでくるけどアキは笑いながらなんでもないと言ってあしらっていた。
うん、みんなとなら冒険が出来そうだ……そう僕は確信したんだ。
「じゃ、行くわよ。この光が消えたら半日たった証だから。2個消えたら戻り始めるわよ」
何かの魔道具なのだろうか。フローラさんの腰に下げられた筒の中でほのかな灯りがともっている。
そうして、僕達は村から歩いて数刻してたどり着いた場所から洞窟へと侵入する。
高さは僕2人分より少し低いぐらい……足元や壁は土だけど随分と硬い。試しに明星の先でつついてみるけど、まるで金属をつついてるような感触だった。
「ダンジョンに魔力が満ちてる。出来立ての証拠ね。これは発見だわ。上手く行けば儲けもあるわね」
「どうしてですか? 未知のダンジョンって危ないわけですよね?」
そんな僕の疑問は、あっさりと答えが出て来た。しばらくして進んだ先にいきなりあった小部屋の中にいたのは茶色い姿のゴブリン。咄嗟に浮かんだのは亜種という言葉。そしてそれは当たっていて、外で出会う奴より数段早い速度で迫るゴブリンをアキたちは迎撃する。何回か切り合った末、ゴブリンは沈黙する。
「ほら、見てみろよ」
「魔水晶……でも前に見たのとはずいぶん質が違うような」
アキが差し出してきたのはゴブリンの右腕。透明な水晶体なのは一緒だけど、なんだかこう……詰まってる感じがする。ご先祖様が僕の体越しに鑑定を始めたようで、いろいろな情報が頭に入ってくる。
その感じからは、この魔水晶が魔力をたっぷり蓄えており、利用価値が高そうだということがわかった。
「これ1つでも普段手に入れる物の5倍はするんじゃないかしら。要は討伐の進んでないダンジョンは実入りがいいのよ。安全と引き換えではあるけどね。さあ、進みましょう」
誰がいったい何のためにダンジョンを作ったのか? あるいは自然にこんなものが出来るのか?
そんな疑問を抱えながら、僕は皆と未知の場所を進む。
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