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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-136「今と昔と」



「ありがとうございました!」「したー!」


 僕がこの前まで店番をしていた場所に、幼い2人の声が元気よく響く。僕は外からは見えない位置で在庫の整理を続けながら2人の姿を見守っていた。横ではマリーも同じように木箱を運んでくれている。

 2人してこそこそと見ていると、まるで自分たちの子供が独り立ちをするのを見守ってるかのようだね……と言っても僕もまだまだそんな年じゃないんだけどさ。


「私も子供は2人欲しいな……」


「え?」


 隣でつぶやかれた内容に思わず顔を向けると、マリーも自分の発した言葉に気が付いたのか声も無く顔を真っ赤にしてしまう。

 僕もまた、そんな彼女を見て自分の顔が赤くなるのを感じた。だって……今さら他の人と、なんて言わないと思ってる状況じゃ、相手は決まってるもんね……。


「あー! にいちゃ、父さんたちみたいにイチャイチャしてるー。お仕事してよー!」


「ルー兄ちゃん、だめだよ。こういうときはようすをみまもるんだっておじさんいってたよ?」


 まだお客さんもいるというのに、2人してそんなことを言ってくるものだから裏にいるのも恥ずかしく、表に出るのも恥ずかしい、とても厳しい状況に置かれてしまう僕達だった。

 僕達が姿を現すと、お客さんである数名の冒険者は僕達が若いことに気が付いたんだろうね。良い笑みというか、頑張れよなんて顔を向けて来た。


「なんだ、坊主たちがここの在庫を採取して来てんのか。若いのにやるじゃないか」


「何言ってんのよ。これはともかく、この辺で普通にルドラン草が手に入るなんて聞いたことが無いわよ」


 だいぶ使い込まれた革鎧に金属の肩当て。背中には両手で振るうであろう斧を背負った男性の冒険者は僕達が冒険に出て、そこで手に入れたものを売っていると思ったらしい。すぐに同行者らしい女性につっこまれてたけどね。ルドラン草か、確かアキと一緒にいた女の子も同じことを言ってたっけ?


『確か本来は高山に生える奴だからな、生で手に入るのはアイテムボックスを持ってるような奴に限られるのさ』


(僕は生えてるのを見たことが無いけどそうらしいね……乾燥だけにしておいた方が良いのかなあ)


 ちょっと伝手があって、とごまかしながらも僕はそんなことを考えていた。高く売れるからって生のままでしばらく置くようにしてるけど、余計な騒動を呼び込むぐらいならこういった特殊な物は控えた方が良いかもしれないね。

 と思ったのだけど、よく考えたらこのお店には、正確にはルーファスとメルには心強い味方がいたんだった。


「あのゴーレムは売り物じゃないんだよな?」


「ええ、両親がくれたものなのでお売りするわけには……すいません」


 本当は腕輪の中にいるご先祖様が出してくれたものだけど、そう言っておくのが一番無難だ。棚の一角でゆらゆらと踊る2体の人形。たぶん両方とも女の子。その手にはすごく小さいけれど短剣を1本ずつ手にしている。

 踊ってるのはいわゆる剣舞ってやつなのかな? 小さいけれど、強い。こうして冒険から帰ってくるとその強さがよくわかる。

 お店で問題があった時にフローラさんが助けてくれたって言ってたけど、この2体は命の危険が迫った時に動くようになってるらしいからそこまでのつもりはなかったのかもね。


 その後もぽつぽつとお客はやってくる流れで、地方の雑貨屋としては十分な稼ぎだろうと思われた。

 中身もそこそこ高い薬草も混じってるからね……これならこれまでのように村に寄付をするのも可能だろうね。

 2人に聞いてみると、そのあたりはザイーダ爺ちゃんと相談してちゃんとやってるらしい。一安心、ってことでいいかな。


「お兄ちゃん、大丈夫だからゆっくりしてきて!」


「そうだよ。せっかくの里帰り、なんだもん」


「そっか、ありがと」


 我慢してるのか、本心からなのか、どちらにしても2人の成長を感じた僕は2人を撫でて、マリーを連れ立って家の方へと向かう。昨日、じいちゃんに言われたように両親の部屋を開けようと思ったからだ。

 思い出がよみがえるようで、立ち入るのは遠慮してたんだよね……。


「ファルクさん」


「うん。大丈夫」


 そっと手を握ってくれるマリーに頷いて、僕は両親の部屋の扉を開ける。少し埃っぽくなってしまってるけれど、前に見た時と変わっていない光景がそこにはあった。

 よくわからない雑貨の山、整頓された本棚、無造作に置かれた壊れた武具。寝台がある部屋なんだからもう少し落ち着いた部屋にしたらいいのにってずっと思ってたんだよね。

 僕には価値があるように見えない武具でも、きっと2人の思い出は籠った物なんだと思う。


「では私はこちらから」


「よろしくね」


 互いに部屋の隅から有用な物が残っていないかを見ていく。書籍なんかは目を通してるときりがないので背表紙を流し読みするだけだ。武具は……ご先祖様やドワーフの里に持って行けば直せるかもしれないけどちょっとね。

 そうして見ていくうち、書き物をするであろう机の前にやってくる。


(あれ? なんだろう……これ、引き出しに取っ手が無いや)


 その机にはいくつかの引き出しがあったけれど、一番大きい部分に取っ手が無く開けられない。

 古そうだし、壊れたのかな?なんて思いながらペタペタと触っていると、とある場所を触った時に魔力を吸われた感じがした。途端、ほのかに光り出す大き目の引き出し。


「なんだろう?」


『恐らくはファルクの魔力を鍵に反応するようになってる仕組みだな。関係者しか開けられない金庫、みたいなのは高いが存在するんだ』


 僕の声に驚いてやってきたマリーと一緒に、少し開いた引き出しを全部開ききると……そこには透明な球体があった。なんとなく街で見た測定球君に似てるけど……ちょっと違うかな?


『驚いたな。これは魔法で映像や音を記録する魔道具だ。俺の時代にも金持ちしか持てないような高級品だったぞ。ファルク、両親は相当稼いでたみたいだな。再生してみよう。そこに穴があるだろ? 指をつっこんで魔力を少し注いでみろ』


(う、うん)


 興奮気味のご先祖様に促され、確かに空いている穴に指を入れて魔力を注ぐと、球体の一部から壁に向かって光が伸びた。ちょっと怖くなって床に球体を置くけど、その位置すら把握してるかのように壁に届く光にぶれは無い。これだけでもすごいな……。


「ファルクさん、これ……ご両親の?」


「たぶんね……若いけど両親だよ。間にいるのは3歳ぐらいの僕じゃないかな?」


 見守る僕達の前で、壁に映し出されたのは……僕が最後に見た姿よりもかなり若い両親の姿だった。

 間にある椅子に座らされてるのはたぶん僕。僕に兄がいるとは聞いてないからね、うん。


 光の中の両親がふと、こちらを見た気がした。実際にはこの光を出している魔道具を見たんだろうけど……ドキッとしたね。同時に、胸の中に色々な感情が湧き出て来た。なんで、なんでと。


『あーあー、これもう聞こえてるのか?』


『そのはずよ。もう、男の癖にこういうのが苦手なんだからアナタは……』


 聞こえて来た両親の声。姿は若いけれど、声は変わっていない。頼りになって、でも意外と抜けたところのある父。いつも優しく、でもいざという時には前を見るように叱る母。変わらない……記憶のままの両親がそこにはいた。

 自然とマリーの手を握っていた。彼女はそんな僕の手を握り返し、一緒に見てくれることを言葉なしに宣言してくれた。そのことに僕の溢れそうな感情が少し収まるのを感じて、映像に集中することができた。


『愛する息子、ファルクよ。これをお前が見れているということは少なくとも俺達がそばにいない。最悪、死別してるだろう状況だと思う。引き出しには俺達が近くにいる限りは開かないようにしてあるからな』


 そして始まった告白、両親の口から少なくとも自分たちがそばにいないと断言されると……僕は胸に痛みを感じる他なかった。

 どんな言葉が飛び出すのか、不安を感じながらも僕は映像を見続ける。


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