MD2-131「元をたどれば-4」
森は命に満ちている。そんなことを僕が感じるのは、やはり多くの生き物を目にするからだろうか?
僕達は今、トロピカーナから南。この前デントードと戦った場所よりもさらに南の森にいる。
このあたりには、開拓村が点在するぐらいで大きな街はない。まだまだモンスターの脅威が多くて、生活も安定しないらしいんだ。
それでも人は、自らの生活圏を広げるべく今日もそんな危険場所に踏み入っている。僕にはそれが正しい事なのか、悪い事なのか。それとも良いも悪いも言えないことなのかはよくわからない。確かなのは、僕たちは今、いつ何に襲われてもおかしくない場所にいるということだった。
「ホルコー、何かあったらすぐに教えてね」
僕がそういって首を撫でると、ブルルといつも通りに元気な返事。事前に虫よけの魔法を街で教わっておいてよかった。そうじゃなかったら全身ヒルだらけだった、なんてことになってたかもしれないもんね。
虫よけ、とは言ってたけど虫以外にも色々と寄ってこないのはすごい助かる。ゴブリンとか、ウルフとか、多少頭がいいモンスターはそうしなくても力を見せつけてやれば襲ってこないけど、こういう細かいのはそうもいかないからね。
「ファルクさん、地図はどうですか?」
「うーん、だんだん埋まってはいるけど、この先は真っ黒だね。ご先祖様も記憶にないみたい」
『さすがに細かい部分はな。普段来ない場所なのは間違いない……悪いな』
珍しく落ち込み気味の返事を返してくるご先祖様に、気にしないでと胸の中で返事をして、僕は前を向く。半透明の地図には、周辺の地形が僕にもわかるように映し出されている。それでもこのあたりは地形があいまいではっきりしない。森は成長し、変わっていくだろうし無理も無いだろうね。
生き物を示す光の点は大きさは僕の半分ぐらいとしている。動物も光らせてたら切りがないしね。その分、小さめの相手でも猛毒を持つ動物だっているはずだから気を付けて進まないといけない。
「黒龍がいたとして……どうしましょうね」
「そうだね……理由を聞くぐらいはしようかな」
答えてくれるかはわからないけれど、と付け加えながら僕は少し先の地面で鎌首をあげてこちらを見る大きな蛇の近くへと氷の槍というには細い枝ほどの魔法を放つ。
最近、具体的に魔法の詠唱や名前を叫ばなくても簡単な奴なら撃てるようになったんだよね。
ご先祖様曰く、結局は魔法は精霊に力を借りて、精霊が力になった物だから精霊がわかればそれで魔法は発動するらしい。詠唱や名前は、それをわかりやすく確実な物にするためらしいんだ。
だから、ちょっと蛇を脅かして逃がすぐらいの魔法なら簡単に発動するってことだね。
しばらくそのまま進むと、きっと森に先に分け入った人達が切り開いたであろう広場のような空間が出てきた。
泉を中心に、巨木が何本か切り倒されている証拠に切り株だけがある。見た感じ、トレントだったわけじゃあないみたいだ。
泉にも特に何もいないように見えるし、反応もないけど安全のために水辺には近づかない。切り株に座ってアイテムボックスから水と食事を取り出し、ホルコーにも干し草を上げる。
「確実に黒龍の住処がある保証はないですし、適当なところで切り上げないといけませんね」
「うん。後は出来れば知られてる迷宮に潜って加護を得ておきたいな。1つ1つは小さいけど、いくつか集まれば楽になると思うんだよね」
そんな話をしながら、僕達は休息を続けた。思ったよりも森を動くというのは消耗していたらしい。気が付けば日も傾いていて、もうここで夜を過ごした方がよさそうな状態だった。下手に進んで森の中で夕暮れと夜を迎えるのは大変だからね。一応、予定よりも進んでるようだから大丈夫な……はず。
マリーと2人して薪を確保して、火を起こしたころには空は夕暮れの色を付け始めていた。危なかったな、なんて思いながらお湯を沸かしていた時だ。久しぶりに、それを感じた。いつだったか、地図を遠く遠くへと無理やり気味に広げた時に感じた気配。なんであろう……夜渡り、黒龍だ!
「マリー! 上!」
「!? あれは……」
思ったよりも低い位置を、黒い何かが飛んでいる。その姿は前に少しだけ見えた通りの……巨大な物。
こうして改めて見るとわかる。確かに龍っぽい。どこかの帰りなのか、見る余裕があるぐらいの速さだ……。
『なるほど……奴か……そうか』
(喋ってよくなったら、教えてね)
僕に言うべきかどうか悩んでいる様子のご先祖様にそういって、僕は深呼吸をした。悩むということは、知ることが良くない結果を産む場合もありそうだとご先祖様が考えているということだ。例えばそう、僕達が逆立ちしたって傷1つつけられずに返り討ちにあうだけだよ、とかそういった話。
今のところ、黒龍と戦う予定はないのだけど相手がどう思うかはわからないもんね。最悪、どうにかして逃げる算段ぐらいは立てておくべきかな?
「すごく、大きかったですね」
「うん。あれなら確かにオーガもヴァンイールも楽々だ。直接襲わないのは何か理由があるんだろうね」
実際、あの大きさなら夜のうちに降りてきて踏みつぶしたり、多分強力な腕の攻撃で切り裂いたりとか、尻尾で潰すとかもやり放題だ。それをしないってことは何かがある。こだわりとか、そういうのが。
既に飛んでいってしまった後も、僕達は空を見上げ……薪が弾ける音に我に返った。消えかけたたき火に薪を投入し、強くなった炎の温かさにほっとした。ホルコーは無事に立っているだけでもすごいことだと思う。
視線を向けると、僕達がなんとかしてくれるんでしょう?なんて言ってそうな顔をしている。まったく、大した馬だよね。
「でも、よかったですよ。いたじゃないですか、こっちに」
「あ、そうか。そうだね! 本当にいたんだから、ここまで来た意味があったよ」
物事は考えよう、そのことをマリーが教えてくれた。この森に本当に黒龍がいるのかって不安を抱えていた心がある意味軽くなった気がした。その分、黒龍という存在が現実味を帯びてきてその分が怖くなったところだけども。
出来ることなら言葉を交わし合って、色々と聞きたいけれど……上手く行くかな?
様々な感情を抱えたまま、僕達は寄り添って夜を過ごした。見張りは自分がやる予定だったのだけど、ご先祖様が今日は一晩中任せろというので言葉に甘えた。
その晩、僕は夢を見た気がした。それは僕じゃない誰かが、大きな大きな相手と戦っている夢。斬りつけても倒れず、倒せる気がしない相手。でも夢の中の僕はあきらめていなかった。剣を産み、斧を産み、槍を産んでは投げつけ、矢を産んでは弓で射る。長い長い戦いは、無数の僕があきらめずに挑み続けることで徐々に決着へと近づいていた。
そうして夢の中の僕は相手を倒し……そこで夢は終わった。
「……なんだったんだろ」
『おはよう。どうした?』
白くなった空。まだ朝と呼ぶには少し早いかもしてない時間に僕は起きた。何か夢を見ていたけれど、しっかり覚えていない。夢の中でも戦ってたような気がするから、緊張していたのかな?
調子を崩して事故を起こしてもいけない、そう思った僕はアイテムボックスから顔を洗うために小さい水瓶を取り出して顔を洗った。すっきりした頭で周囲を見渡し、昨日夜渡りが飛んでいった方向を確認した。
今日……もしくは明日にはたどり着きたいね。
マリーを起こし、同じく起き上がったホルコーも一緒に食事をして僕達の森林探索は再開された。
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