MD2-127「日常に紛れた破片-6」
最初、両親の姿をしたドール2人とは話にならなかった。ドールさんのほうが悪いというわけじゃないんだよね。
なんというか……僕がすぐに大泣きし始めてしまったからなんだ。すぐそばにマリーだっているのに、なんて恥ずかしいんだろうか。
「大丈夫ですか、ファルクさん。私も……きっと出会ったらそうなります。大丈夫ですよ」
きっと本心からの同情、そして心配。その気持ちがよくわかるだけにひどく恥ずかしい気持ちになる僕がいた。
好きな子の前で変な姿を見せたくないのはどこでも一緒だと思うんだよね。もう遅いんだけどさ。
「よくわからないが、他の姿になったほうがいいかい?」
「いえ、そのまま。そのままでお願いします」
きっと僕は自分では自覚のないうちに色々とため込んでいたんだと思う。小さい頃にいなくなってしまった両親。残ったのは僕と弟たち、そしてお店。村の人やザイーダじいちゃんは良くしてくれたし、その意味では寂しくはなかった。けれど、やっぱりどこかで拭いきれない寂しさのような物はあったんだと思う。
それが、両親の姿をしたドールという物を見てあふれてきてしまったんだと思う。この際だから、出せるだけ出しておいて、本番の時には格好良く皮肉たっぷりに言葉を投げかけられるようにしよう、なんて思ったんだよね。
「……ふう、その姿の人間とはどこで出会ったんですか?」
ようやく落ち着いてきた僕は本来の質問に戻り、ドールさん2人から話を聞くことにした。霊山にいったらしい両親がこんな場所に来ていたとは思えない。どこかで出会ったと思ったのだけど、半分当たりだった。
「この体の本人を見かけたのはトロピカーナさ。遠くから隠れて様子をうかがっていたら、周囲とはどうも違う感じの2人だったからね、すぐに目を止めたよ」
「このあたりだとお二人の髪の毛とかは珍しいですもんね」
そう、両親は黒い髪の毛に瞳も黒という珍しい組み合わせだ。なんでも2人の出身地の特徴らしい。
別々にそこを立った2人がこっちで出会って結婚してって考えるとなかなかないことだよね。
ともあれ、僕も両親から引き継いだ髪の色、瞳の色はたまに視線を集める時はあるけどそれだけだ。
別に特殊な力があるという訳じゃ……まあでも、両親も自分も冒険者になれているというのはもしかしたらだけど、そういうのが一族にあるのかもしれないね。
「もう少し観察していようと思ったんだけど、彼らはすぐにこの土地を離れていっていたみたいで以後、見かけてないんだ。ただ、見た目は他と違うからね、こうして姿を借りているのさ」
「そうなんですね……」
両親自体は見かけたのは結構前らしかったそうだ。ともあれ、手がかり……というには薄いつながりだ。でもこっちにまで両親が来ていたというのはいいお話だった。
まっすぐに霊山に向かったんじゃなく、こういった寄り道もしていたってことだ。
そのうち、本当の手がかりが見つかるかも、そう思わせた。
その後も聞けるだけは聞いたけれど、結局は詳細は分からずじまいだった。それでも、今日ここに来た意味があったなと僕は強く感じていた。
『霊山は試練の山、そして唯一、女神様と直接会えるかもしれない場所だ。真っすぐ突っ込むのは問題があったんだろう。さて、待ちくたびれてるようだぞ?』
話を終えてもなおも雑談に興じていた僕に、呆れたようなご先祖様の指摘の声。慌てて振り返ると、窓際で器用な姿で拗ねる彼がいた。あっと、そういえば話の途中で飛び出していたね。
両親の姿なドール2人に別れを告げ、僕達は小屋の中へと戻る。ちなみにホルコーは入り口のそばに縛ってある。
特に危険を感じてないからか、座り込んでぼんやりと休憩中の様だった。
「別にいいんだよ。人間のいい勉強になったよ」
「そ、それはどうも……」
どこで覚えたのか、鋭い皮肉が攻め込んでくる。僕はそれを誤魔化すようにしのぐのが精一杯だった。
拗ねたような顔をする彼の足元には、赤い色の細い丸太……依頼のために必要な物だ。
「いつの間に……さっきまでファルクさんのことを窓から見てましたよね」
「このぐらいはね。たまたますぐそこにため込んでたのさ」
そういって、前に感じた違和感通りにどこかで見たかのような大げさな劇の仕草で肩をすくめる彼。
話の途中で飛び出した僕は時期を見て謝ることを続けるしかなかった。
何度目かのやり取りの後、彼は椅子から立ち上がって足元の丸太をこちらに転がしてきた。
「久しぶりの人間だから自分もはしゃいじゃったみたいだ。そろそろ帰った方が良いだろう? 持って帰りなよ」
「いいんですか? ありがとうございます」
さっそく仕舞おうとした僕の手が止まる。彼が丸太に手をやりながらこちらを見つめていたのだ。
やっぱり他にも報酬が必要になったんだろうか? 僕達で何とか出来る物ならいいんだけど。
「渡してもいいけど、ちょっとお願いがあるんだ」
「なんでしょう……」
どきどきしながら次の言葉を待っていると、彼はもじもじしながらこちらを見るばかりだった。
何を言いたいのかがわからず、僕もマリーもその動きを待つしかない。そしてようやく動きが止まったと思うと、神妙な面持ちで彼は口を開いた。
「そのさ、友達になってくれないか。たまには遊びに来てよ」
「……会いに来るのは大変ですけど、それでも良ければ」
僕達には目的がある。だから毎日とか週1みたいに出会うことは出来ないけれど、そう伝えると彼は春に咲く花のように顔を笑顔にさせた。
「大丈夫、待つのは慣れてるさ。壊れる前に、遊びに来ておくれ」
そうして、僕達の森での不思議な出会いは終わりを告げて、トロピカーナへの帰路を進む。
細い街道を、僕達を乗せたホルコーが結構な勢いで歩くというか走るというか、そんな速さだ。
「面白い場所でしたね」
「うん。根が素直というか、嘘を付けない感じなのかな」
『常に誰かという他者の嘘をついてないと人前に出られないからな。その余裕がないんだろう』
ご先祖様の解説を聞きながら、ホルコーの背中で揺られることしばらく。僕達は見覚えのある広めの街道に出る。そのまま真っすぐ行けばトロピカーナだ。
その後、大きな問題も無く赤い木を無事に依頼人に渡すことができた。
妙に品質が良い気がする、とか言っていたけどたまたまとして流すことにした。
演奏会なんかを開くときには呼んでほしいとだけ伝えて、また僕達は自由になった。
そりゃあ、正確には王子から受けた依頼があるわけだけどね。
「これからどうしますか?」
「少し観光してから決めようか。よく考えたら僕達、この土地をそういう意味では味わってないもんね」
土地ならではの物、話と言ったものを聞いていくべく、その日から数日は僕達は街をあちこちと見て回った。
久しぶりに、子供に戻ったような気軽な日々だった。まだ子供と言えば子供なのだけどね。
そんな、平和なある日のことだ。
「大発生が来るぞぉおお!」
そんな叫びと共に、普通の人は家に閉じこもるようにして、戦えそうな兵士さんや冒険者だけがギルド前に集まっていた。よくわからないけれど、このまま何もしない方が問題に感じたんだ。
ホルコーを引きながらマリーと一緒に人だかりに集まると、話が聞こえてきた。
─南の密林から、増えすぎた魔物があふれてきている、と。
ドールな彼が言っていたように、僕達は何もしなくても騒動に巻き込まれる、そんな運命にあるらしいねと互いに笑いあい、頷いた。どうせ逃げられないのなら、前向きに参加してしまえ、そんな気分だった。
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