MD2-121「熱い出会いの予感」
『木の上、3!』
「させないっ! エアロボム!」
上空へと向けられる警告。僕は自らも感じた気配を相手に風の魔法を頭上へと解放した。
木々の枝を巻き込みながら、狙い通りに風の力は上空でさく裂し、こちらに飛びかかってきていた狼な姿のモンスターを吹き飛ばすことに成功した。
「もらいますっ。雷の射線!」
森の中では下手に火球は使えず、かといって他の魔法では威力にやや不安が残る。そんな状況でマリーが選択したのはまっすぐ高速に進む雷の魔法。
動く相手には当てにくい魔法だけど、今みたいに相手が姿勢を崩しているならば何の問題もない。
両手にそれぞれ持った杖の先端から飛び出した光は空中で狼に直撃し、命を刈り取る。
今回は毛皮などを剥ぐための依頼ではないから……いいよね、多分。
残った相手へと、僕は前よりも大振りな剣となった明星を構えて突撃、そのまま振り抜いて首を飛ばす。
目の前で血が噴き出るというのは慣れる物じゃないけれど、大事な事だ。
「逃げるのなら追うこともないかな」
「そうですね。こちらの目的ではないですから」
念のために虚空の地図で相手が戻ってこないかを確認しながら僕達はホルコーの待つ馬車へと戻った。
そこにはホルコー以外にも、暴れ出しそうになる馬をなだめてる人にそのお連れさんが4名ほど。
全員商人で、1人は護衛兼任なのだとか。最初の奇襲で怪我をしてしまったようで、ずっと馬車で迎撃に参加していたようだった。
「おお、無事で何よりです。おかげさまでこちらも命拾いしましたよ」
「いえ、同じ方向に行く者同士ですからね」
そう、リザードマンの集落から町に戻り、次なる目的地へとトロピカの首都を設定しての南下の旅。
町を出て数日後、僕達は森の中で立ち往生している馬車と、周囲を警戒し続ける彼らに出会ったわけだ。
最初はこちらを見るなり盗賊か!なんて叫ばれたけど、無理もないかな。
「子供2人で危ないぞ、と思ったがなかなかどうして。そうそういるものじゃない実力だったな。
疑ってかかってしまった、申し訳ない」
そういって頭を下げてくるのはさっき、こちらを盗賊呼ばわりした男性だ。どうも僕達のような子供を最初に会わせて、油断したところをなんていう奴らが昔いたそうだ。ひどい奴らもいるもんだね。
僕達としてはこれから向かうトロピカの首都のことが聞ければいいかな、ぐらいの気持ちだった。
隠すことでもないので正直に伝えると、少しキョトンとした後に笑いながら色々教えてくれた。
といっても、見ないとわからないことが多いと思うよ、と言われてしまったのだけど……。
「なるほどー……これは見ないとわからないね」
「すごく、独特ですね」
ホルコーの背の上で、僕達はそう驚きの声を上げるしかない。商人さんたちは、そうだろうそうだろう、と頷いてくるあたり誰もが最初は同じように驚くようだった。
だって……仕方ないよね、みんな不思議な光景何だもの。
まずは家。地面に直接じゃなくって何か足場のような物がしっかり組まれた上に家が建っている。
下には潜り込むことが出来そうなぐらいの高さがあるんだよね。
土台も石を積み上げたようなものじゃなく、丸太を地面に撃ちこんだような独特の物。
まるで家の下を何かが通り過ぎてもいいようにと考えてるみたいだ。
「このあたりは年に1、2回洪水のように大雨が降ってね。下手に地面に立てると流されちゃうのさ」
「そんなにですか? すごいな……」
家の下には僕の胸元ぐらいまで高さがある家が多い。ということはその半分だとしても相当量が水に浸かることになる。そうなると畑とかも大変じゃないのかな?
そんな疑問は、あちこちに作られた高台で解決する。ちらりと見えたそれは畑だった。
そうまでしてここに住むのは何なのだろうか?と思ったけれど、故郷ってそんなものかなとも思う。
多少不便でも、なかなか捨てられないのが故郷ってもんだっていつだったか実家の店に来ていたお客さんも言ってたね。
「あの小船はそういう時に移動するためですか?」
「その通り! どうにも危ないとなったらあれで逃げるんだよ。と言っても……流れの中にモンスターがいることもあるからじっとしてるほうが安全な時もあるんだよね」
1つ1つ、教えてくれたことに頷いているとついには別れる時が来てしまう。元々、この町までご一緒にという約束だったからね。相手は当然商売先に用があって、僕達は違う。
外観は見慣れない建物だけど、ギルドのマークが出てるから間違いないと思う。
「じゃ、行こうか」
建物の外に馬をくくる場所があり、他にも待っている馬がいるのを見てホルコーはそこにくくり、2人で階段を上がっていくと……雰囲気は他と一緒な物を感じるギルド室内がうかがえた。
若い人からややお年寄りまで様々な冒険者の視線が集まる中、僕は何でもないように受付であろう場所へ向かって冒険者証を取り出して照合してもらう。
「トロピカーナへようこそ。あら、前のお仕事は随分離れた場所なんですね。こちらでも受けていかれますか?」
「ええ、何分初めてなのでお手頃なのがあれば」
初めての土地で働くからにはまずは知ることから始めないとね。そう思って見繕ってもらった依頼の中から比較的簡単そうなものを選ぶ。近隣の薬草採取、増え始めた害獣退治、そんなものだね。
薬草の種類も色々あるれけど、特に指定が無く、対象物で報酬を変えるというちょっと変則的な物だった。
害獣退治の依頼をこなしつつ、その近くで採取を試みるという予定で依頼を受けた。
害獣自体は僕の知ってる相手、イノジーだ。確かに小さい時も大きい時も厄介よね……。
何匹ぐらいいるのかなあと思いながら、1頭から討伐報酬を支払うということだったので無理せず数は稼ごうと思った。
ついでに実家に手紙を送ろうとした時だ。受付のお兄さんはこちらを見て、手紙に添えた名前を確認するなり手招きして来た。嫌な予感がするけど回避出来る物じゃないよなあという思いもあった。
お兄さんは僕たちに名前とかを訪ねると、何やら頷いて何やら板のような物を持ってきた。
「ファルクさん、それ、魔法ラジオみたいにギルド間で連絡を取り合えるやつです。片方で書いた物が片方に伝わるらしいですよ」
「お詳しいですね。中身のご確認をお願いします」
なんでもお金さえ払えばやってくれるという伝言ということのようだった。それにしても、僕達がここに来るのを知っている人って少ないんだよね。
実家には詳細に書いてないし、いる場所もややぼかしている。そうなると……。
「将来の義兄よりって……誰のことかな?」
「誰でしょうねえ。あ、私は本妻じゃなくても……ええ」
急に変なことを言い出したマリーに首を傾げつつ文面に目を通す。そこに書かれていたのは、トロピカーナのさらに南にある遺跡では会いたい人に出会えるという不思議な話があるらしい、試してみては、と書かれていた。
「会いたい相手に……か」
「おや、イミューンの遺跡へ向かわれるんですか?」
受付のお兄さんの反応から、思ったよりも有名な場所だと知ることができた。そうなると危険は少ないんだろうか。
もしかなり危ない、とかならもっと忠告されそうだもんね。
『会えた相手が本物ならいいだろうが……偽物だったらどうする? 良く似せた人形のように』
(どうだろう? どっちにせよ殴るからいいんじゃないかな?)
僕の目的は両親を見つけること、じゃなくて見つけて怒ることだからね。父さんぐらいは殴り掛かっても良いと思うんだ。それが親子の触れ合いさ、多分。
お兄さんにお礼を言って、僕達はひとまず受けたばかりの依頼をこなしに向かう。
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