MD2-119「人の一生は世界にとって一瞬である-4」
ヴァンイールの主がいなくなった場所の調査に来ていた僕達。そこにあったのは主がいなくなったことで縄張り争いを始めたらしいモンスターたちの狂乱のような宴。
そんな中、僕は地下を通る川のような物を見つけ、それをたどった先で……リザードマンに出会ったのだった。
人と交流することがある彼らには言葉が通じ、僕達は南国の森の中にある彼らの集落に招かれたのだ。
「すごいや……あ、あれは魔法の灯り! 魔道具も使ってるんですね」
「夜はクライ。クライと奇襲受ける。だからアカルイ」
普段は人とあまり話さないのか、時々感じがおかしいけど十分言葉が話せるというのはすごい安心感があるよね。
もしこれで話が出来なかったらどうしようかと思っていた。
「大人も子供さんも、多分女性もちゃんといます。集落としては下手な人間の町よりしっかりしてますよ」
統治者の視線でのマリーの言葉に僕も頷き、広間で走り回るリザードマンの子供たちを目にして微笑んだ。
子供というのは……まあ、僕もまだ子供だけど、そこが平和かどうかよくわかると店に来ていた冒険者も良く言っていたんだよね。
生活が苦しいと、子供も元気がないのがわかって依頼を受けていても悲しい、なんて話だった。
そう考えるとこの集落はとても活気があり、もう町と呼ぶほかない。
「オマエタチがヴァンイールと呼ぶ物はあそこにいる」
「え? あ……池?」
なだらかな坂を下りた先にある広い池を指さすリザードマン。その指先には、水面をばたつかせる無数の何か、恐らくはヴァンイールだ。
そのそばには桶から何かの塊を投げ入れている別のリザードマンがいる。
『養殖? いや、保護してるのか……』
「主がいなくなって数を減らしたヴァンイールを保護してるんですか?」
「ウム。我々にとっても大事なタベモノ。あっちを減らしたらもとにモドス」
その後も案内してくれたリザードマンに聞いた話によると、先ほど言ったように彼らはヴァンイールをこの池で保護しているらしいことがわかった。
もちろんここにしかヴァンイールがいないわけじゃないんだけど、この場所だからこそ、という味という物があるらしい。
なんとなくわかるような、わからないような。
いずれにせよ、彼らは湿地帯のモンスターを減らし、ヴァンイールが育って行けるような環境に戻そうとしているらしい。
そのためにも戦士が狩りに行っているけど、すぐにはなんともならないようだった。
だからこその池での餌やりということだ。
「フム。聞きたいのはそれだけカ?」
「あっ、そうでした。えっと、夜渡りってご存知ですか? こう、今回のヴァンイールの主を空から落としてきた張本人なんですけど」
満足しかかっていた僕の代わりに、リザードマンに疑問をぶつけてくれたマリー。危ないところだった、すっかり忘れてたよ。
慌ててこの土地に来た本来の目的の1つ、夜渡りの痕跡が無いかなんかを確認すべく僕もリザードマンに向き直った。
たぶん彼……は、腕組みをして何かを考えたかと思うと、急に歩き出した。
「え?」
「ツイテコイ。たぶん、長老ならワカル」
それだけを言って、彼は僕達を置いていくような勢いで歩き出した。慌ててホルコーを引っ張りながらついていくけど、他のリザードマンからの視線が痛い。頼むからホルコーは食べないでほしいな、うん。
しばらく歩いていくと、建物に隠れて見えなかったけ岩山のような場所があり、そこから滝が流れ落ちているのが見えてきた。
リザードマンはその滝の横にある扉を引っ張り、開ける。
ぽっかりと開いた中にはまだ道があるようだった。ホルコーも入れそうな大きい道だけど……まあ、置いていくのも問題だよね。
「ウマごと大丈夫。サア」
「お邪魔しまーす」
本当なら、誘われるままに入るというのは冒険者としては少々無防備なのだとは思う。けれども悪い感じはしないし、何よりご先祖様も話を聞いてこい、なんていうからね。
ざあざあと響く滝の音を聞きながら、ゆっくりと扉をくぐる。
マリー、ホルコーも通り過ぎた後、勝手に扉が閉まったのでびっくりする僕達。だけどリザードマンたちは普通。ということはいつものことなのかな。
不思議と、扉がしまると聞こえていた滝の音が小さくなった。
目の前には滝が流れているというのに、だ。
『恐らくは修行のために使うような場所なのだろう。ちょっとした結界の力を感じるぞ』
(なんだか贅沢な話だね……)
先を行くリザードマンの背中を見ながら、そんなことを思う。壁には光る苔が植えられており、暗いと言えば暗いけど歩く分には問題ない。
マリーがそっと裾を握ってくるあたりが可愛くて、よくやった、なんてリザードマンを褒めたくなった僕がいた。
「イテッ。ホルコー、何するんだよ。わかったって、変なことは考えないから」
そんな僕の気持ちを読んだのか、ホルコーが急に髪の毛を嚙み出してくる。一緒に頭も齧る感じになるから少し、痛い。
慌てて謝罪の言葉を口にする僕だけど、マリーが静かなのが気になった。
いつもだったらこういう話にはからかうように食いついてくるのに……!?
「すごい……」
何度目かの感嘆の声は、洞窟上になっている通路に響き渡った。その声の行きつく先、リザードマンが足を止めた場所には精巧な竜の彫像があった。大きさは僕が少し見上げるほど。
地竜とは違うけど、同じように大地を駆ける姿勢の翼の生えた竜。
色は岩の問題からか緑っぽいけど、何色なんだろうか?
彫像の横には大きな扉が1つ。取っ手が無いけどどうやって開けるんだろうね?
そう思っていると彫像の口にくわえられた玉にリザードマンが手を添え、彫像とその周りが何やら明滅しだした。
それは暗めの洞窟の中にあって、ひどく目立つ物だった。いつの間にか音を立てて扉が開いていく。
ちょっと怖くなってマリーとホルコーにわざとくっついたのは内緒だ……バレバレかな?
「長老。ニンゲンが黒龍様についてキキタイト」
「入ってもらえ」
ひどく流ちょうな言葉が開かれた扉の置くから聞こえてきた。声の主は長老様ってことかな?
失礼の無いように、とゆっくりと扉をくぐると、また別世界の様だった。
洞窟の中といった印象は同じだけど、ここだけ時間の流れが違うような場所だ。
(あれ……? この感じ……)
何度か味わったことがある気配を部屋に感じたけれど、今はそれどこではなかった。
視線を向けた先で、静かに1人のリザードマンが瞑想をしていた。何やら不思議な姿勢のまま目を閉じ、考え込んでいるかのように動かない。
他には誰もいないので、先ほどの返事はこのリザードマンがしたもののはずだ。
問いかけようと口を開いたとき、長老の瞳が開かれる。
「将来を感じる人間の子供が2人に、不思議な育ち方をした馬が一頭。そして枯れた老人が1人、か。
なかなかない組み合わせよの。さあ、遥か昔の魔道具を手にした幸運な若人よ。何が聞きたい?」
長老は、ご先祖様のことを正確に感じ取っていた。もしかしたら昔出会ったことがあるのかもしれない。
リザードマンの寿命は知らないけどね。あるいは伝承が残ってるのかな?
「僕たちは夜渡り……オーガや地竜、ヴァンイールを掴んでは落としていく謎の存在の正体を確かめに来ました。一体何のために、誰がということを知りたくて」
「何か落ちてくるかもって考えたら夜もなかなか眠れないんです」
マリーの言葉はやや大げさだけど、実際に何かが落ちてきたそばの町なんかだとその通りかもしれないね。
寝ているうちに何かに押しつぶされていました、なんて考えたくはないもの。
「ふむ……なるほど。黒龍様のことじゃな」
「知ってるんですか?」
そういえばさっき、若い方のリザードマンも言っていた。黒龍様のことで聞きたいのだと。
黒龍という単語が出た時のご先祖様の気配の動きも気になるけど、今は長老の話を聞くことにした。
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