MD2-117「人の一生は世界にとって一瞬である-2」
太らせたネズミを大きくしたような姿をしているというヌートア。モンスターでありながら、結構身近にいる存在の様で他の冒険者たちはそんな依頼を受ける僕達にあまり興味が無いようだった。
確かに、僕達の受ける依頼がなかったところで他のを受ければいいだけということだね。
そのままギルドを出て、街中で手を動かそうとしてやめた。目立つ動きはあまりしないほうがいいよね。
向かう方向はわかっているので、外にくくっておいたホルコーの背に乗り、2人と1頭で街道を進む。
(忘れそうになるけど、この地図とかアイテムボックスだけでも変な気を起こさせるのに十分だよね)
冒険者としては規格外、手に入るなら大金を出すであろう2つのご先祖様由来の能力に僕は内心そんなことを考えながらホルコーの背で揺られていた。
前に座るマリーの髪の毛からたまに漂ういい匂いにドキドキしつつも地図を見ての警戒は怠らない。
さすがに自然が多いためか、下手なに気配の大きさを指定しないと全部光で埋まってしまうほどに生き物があちこちにいる。
今は想定するヌートアの大きさに絞っているのだけど、それでも結構な数の反応がある。
「そうですか。みんな精霊が濃いんですね……このあたりだと魔法の制御もいつもとは少し違うと思いますよ」
「へー。あ、確かに感触が違うかも」
ホルコーの背の上から、街道沿いの草むらに向けて風の塊を生み出す魔法をぶつけると、いつもより短い時間で魔法が発動した。
人が転がるぐらいの強さで突風が産まれ、草むらを大きく薙ぐ。下手な攻撃魔法は自滅の元かもしれないね。
『脇の地面の感じが変わって来た。ホルコーがつまずかないように気を付けろよ』
言われ、よく街道横を見ると既に湿地帯は近づいているようで、生い茂る草の感じも様変わりしてきたのを見て取った。近くには小川も流れているようだった。
小さめのヴァンイールは沼のような場所や、こんな小川にもいるらしいけど……うーん?
そのまま街道を進むと、周囲を埋めたのか思ったよりしっかりした地面の上に出来た村が見えてきた。
田舎の村という感じではなく、妙に賑わいを感じる。そう、まるで街の市場のような……んん?
「ファルクさん、お店がいっぱいありますよ」
マリーの言うように見えてきた村は村ではあるけど、何やら看板を出して道を行き交う冒険者や商人を前にして声を張り上げる村人でにぎわっていた。
そう、この村に行く道では予想以上に人が多かったのだ。道には常に誰かが見えているほど。
後で聞いた話によると、この村を抜けた先に別の街があるそうでそちらに向かう人や、そこからやってくる人が多いのだとか。
その分、中間にある村に泊まるよりはそのまま通り過ぎてしまう人ばかりなんだって。
『泊り客が増えないのなら、通りすがりに何かを買ってもらおうという考えだな、悪くない』
(確かにね。冒険者的には日用品、な物も多いみたいだ)
忘れ物を買い足してもらう考えもあるのか、ここは普通の村だったよね?と誰かに問いかけたいような品ぞろえの店もある。しばらく歩いているだけで本来の依頼を忘れてしまいそうなほどだ。
慌てて依頼の内容、ヌートアの退治を思い出して依頼主の家を探す。その家は姿自体は他と大差ないけど、屋根は独特の塗り方だったからすぐにわかった。赤と白で縞模様なんて、変だよね。
「こんにちはー!」
「はいはい……あら、冒険者さんかい」
僕達を迎えてくれたのは、顔や手に煤を付けたままのおばさんだった。なんとなく、香ばしい匂いも漂ってるし、何かお店をやっているのだろうか?
疑問を抱えたまま、ヌートア退治に来たことを伝えると、おばさんの顔が怒りに染まる。
「やっと受けてもらったと思ったらあんたら2人だけかい? まったく、最近は実入りの良いのだけ受けるんだねえ……ああ、あんたたちは悪くないよ。むしろ感謝感謝だよ。ほんとにねえ……」
何か悪いことをしたかと思ってびっくりすると、そうではなかったようだった。話を聞くと、最近この依頼は受けてくれる人が減っているそうで、なかなかヌートアの数が減らせないらしい。
何分小さな村なので報酬には限界があるのだけど、それが冒険者の敬遠を招いているっぽかった。
どこまで出来るかわからないけど、やれるだけのことはやってあげよう。
「一番ヌートアが多いのはどのあたりとかわかりますか?」
「そうだねえ……南の泉周辺かね。泉というか濁りがあるから沼みたいなもんだけどさ」
同性ということでマリーは手際よくおばさんから話を聞き出していく。主に夕方と朝に活動すること、夜はどこかの巣穴に引っ込んでいること。そして昼間はあまり動かないことなどだ。
強さ自体は大したことないといつも冒険者が言ってるらしいから安心できる話だ。手ごたえが無いというのもあるのかもしれないね。
問題はその数と、逃げ足の速さということだった。1匹仕留めてる間にすぐに逃げてしまうから数を倒すのは大変なんだそうだ。
その話を聞いて、僕の頭には僕にしかできそうにない狩り方が浮かんでいた。
『なるほどな。いいんじゃないか? 足元にだけ気を付けよう』
(うん。途中は灯りを使うよ)
その後、おばさんから大体の話を聞き終えた僕達は現場へと向かい……夜を待った。
「そろそろですか?」
「そうだね。いい感じに夜だと思うよ」
僕たちはヌートアが一番いるという泉の近くの大木の上にいた。地上にいるとヌートアに見つかりそうだったからね。
その間観察している限りでは、確かに足も速いし草むらを上手く使って走るから数を把握するのも大変。1匹の間にみんなが逃げるというのも納得だ。
そして、言われていたように夜になるとどこかにひっこんでしまった。これで探すのは困難だろう。
「さあ、ファルクさん」
「うん。んんーっと……あ、いるいる。3か所ぐらい巣があるよ。いっぱいいる」
そう、夜であっても昼であっても虚空の地図の反応は変わらない。予定通り、ヌートアの反応をくっきりと映し出している。一度目にした相手だからか、他と間違うこともないようだった。
この反応は相手の中に満ちる精霊を感じているそうだから、間違いない。この地図が狂うとしたら、その場所はひたすら精霊が舞うような場所ぐらいだろうとご先祖様は言っていた。
静かに木から降りると、一番近い巣穴に向かう。今回は水攻めは使えない。相手は泳げるらしいから起きたヌートアが泳いでしまうからね。
その代わりに……普通の薪に見える木に火をつけ、その煙を魔法で起こしたそよ風に乗せて穴の中に注いでいった。
燃やした木の名前はパラー。実、あるいは樹液には麻痺毒があり、稀に動物が身を食べてその場で麻痺、死亡にまで至っているのを見かける。
この木自体はそこまで猛毒ではないけど、山火事なんかで燃えてしまうと被害が増える。それは……煙に微妙に毒があるからだ。
しばらくすると、巣穴の中の気配がにわかに動き出す。思った通り、煙を吸ってしまったヌートアが暴れ出したのだ。
しかし、暴れると言っても毒が効いてしまっているのか鈍いものだ。
本能からか、新鮮な空気を求めて段々と入り口に近づいてくるヌートアの反応。それはマリーにもわかったようで杖を構え、いつでも魔法を撃てるようにしている。
「毛皮も使うらしいから、マナ系列で行こう」
「わかりました! 見えましたよ、マナボール!」
昏倒を狙って、スピリットによく効く魔力塊そのもののような魔法が彼女の手から飛び出し、顔が見えたヌートアに直撃し、その動きが止まる。
後はこれを繰り返して回収。とどめをさしてアイテムボックスに仕舞い込んで終わりだ。
これでヌートアが全滅するということはないだろうけど、マシになるんじゃないだろうか?
なにせ、合わせて80はいたからね……相当だ。
おばさんにはひどく感謝され、その買い取り現場を見ていた冒険者達の視線をしばらく集めて離さないのだった。さて、ヴァンイールのほうはどうしたものか……。
明日からの行動に思いをはせながら、僕達はその日も宿に泊まる。
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