MD2-111「破邪の造り手-4」
予定より1時間遅れました。すいません。
01/08:誤字修正
「なるほど……この杖はだいぶ年期が入ってるな……。元は全く別の物だったはずだ」
ドワーフの本集落にある建物の一室で、僕達はイルタさんが師匠と呼ぶドワーフ─アレクさん─と手持ちの武具について話をしていた。
マリーの持っている杖、花咲く森の乙女と名前のついた杖は僕から見ても業物だ。
先端には大きな緑の魔結晶がはめ込まれており、1つの魔法をためておくことができる。
本人が使う魔法と、杖に貯めた魔法とで同時に展開が可能な代物なのだ。
さらに最近ではもう1本の杖も使うようになってるから、都合3種類の魔法をマリーは放てることになる。
「恐らくはエルフの手が入っている……生きた杖だ。このまま丁寧に使い込んでいけばさらに進化するかもしれない。大事にした方が良いだろう」
「ありがとうございます。祖父が手に入れたと聞いていますけど、もっと前の物かもしれないんですね」
いとおしそうに花咲く森の乙女を撫で、優しい笑みをマリーは浮かべている。
そこにもう会えないであろう家族への想いを感じた。マリーは優しい子だからね。
「さて、問題は君のだな。外せないということは一体化……寄生されてるということではないのだな?」
「はい。肌身離さずというとこですね。気に入ってますよ」
いきなりご先祖様の事を言うのも問題かなと思い、ごまかし気味に言うとアレクさんは首を傾げながらも腕輪の表面を撫でている。
気のせいか、ご先祖様が跳ねたような感覚があった。くすぐったいのかな?
『物に意識を込めるのはドワーフの秘術の1つだからな。もしかしたら感づかれたかもしれん』
(えええ!? そうなの?)
どうやら先ほどの接触はそのための、僕でいう目利きや鑑定に近いものだったらしい。
そこに違和感があったからこそのあの表情なのだろう。
どうしようか、正直に言っておいたほうが話が早いのかな?
「1つ、聞きたいのだが……実家に不思議な部屋とか洞窟が無かったかな?
全然別の場所に行けるような場所があったりしなかっただろうか?」
「確かに……どうしてそれを?」
さすがに今度は反応を隠しきれず、びくんと跳ねてしまったので覚悟を決めて実家の秘密の場所の事に関しては頷いて返すことになった。
きっと、あの場所だけじゃなくあるはずだもんね。ダンジョンだってアレに近いと言えば近いと思うし……。
「やはりそうか。何、腕輪から感じる精霊と、この辺にいる精霊とで歳が違うように感じたのでな」
『俺はあの洞窟でずっと眠っていたからな。あの中と外では時間が違う過ぎ方をするんだ』
(そういうことかぁ……)
僕はアレクさんの言葉に頷くと同時にご先祖様にも頷いていた。
どちらも衝撃的というか、驚くばかりの内容だ。確かに、あの洞窟の中ではいつの間にか薬草が増えてるし、普通の増え方ではないなと思ったのだ。
謎が1つ溶けた瞬間であった。
「厳密には特定できないが、100……いや、300年以上前のだな。そうそう壊れない素材で出来ているが、無理に剣を受けるようなことはしないほうがいいだろう」
「例えば、モンスターにかまれないように、みたいな感じですか?」
その通り、と頷きを返され僕は改めて腕輪を見る。
偶然出会い、これまで一緒に旅をしてくれているご先祖様。感謝ばかりだ。
確かにたまにはそのお茶目具合がちょっと気になる時もあるけど、そんなものだよね。
「イルタよ。よく見ておけ。この腕輪の素材がリュミシアの名を継いだ後に目指す先の1つだ」
「え? ちょっと、良く見せて!」
それまでただ見ていただけだったイルタさんはアレクさんがそういうなり、僕の腕に飛びついてきた。
そのまま、腕輪を食い入るように見つめている。ちょっと掴まれてる手が痛くなりそうなぐらいだ。
『そうか、リュミシアの名前は生きてるのか……そうか……』
(聞いても大丈夫?)
どうせイルタさんがしばらく腕輪に首ったけの様子なので、僕はそう問いかけてみる。
ご先祖様の事を聞くことってあまりないしね……。
マリーはいつの間にか、アレクさんと杖について語っているからちょうどいいと言えばちょうどいい。
『むかーしむかし、俺が生身だったころにドワーフの里で名前を付けた子がいるんだ。
そのままずばり、リュミシア。彼女は成長し、ドワーフに彼女ありと言われるほどの鍛冶師になったよ』
その語りに寂しい感情はなさそうだ。つまり、平和にというと変だけど悲しい別れじゃなかったみたいだね。
何かあったんだったら聞きにくいところだけど、ね。
その後も小さく続くご先祖様の思い出話と現状を合わせて考えると、かつてのリュミシアさんの腕にあやかって、ドワーフの中でも何かしらの資格としてリュミシアという名前が定着したんだと思う。
「ありがとう。想像はついたわ。いつか実際に作るのみよ」
「その意気だな。さて、せっかくだ。2人とも里を案内しよう。上手く折り合いが付けば何かしら買い求めることも出来るかもしれないからな」
満足した様子でイルタさんが離れていくのを確認し、僕はアレクさんの提案に頷いた。
願っても無い事というか、こちらからお願いしたい事でもあるからだ。
でもなあ、お金足りるだろうか?
「大丈夫ですよ。多少なら私の家の方から出します」
「そうもいかないんじゃないかな。いくらぐらいになるかわからないけど」
思わず声を出したけどなんとなく、武具とはいえ女の子、しかもおつきあいさせてもらっている相手に出してもらうというのは色々と駄目な気がしたんだよね。それに、あてならあるんだ。
『入れたままの薬草や素材群が役立つ日が来たな』
そう、既に一部は小手を作ってもらった時のお店に出したけど、ほとんどは残っている。
これを対価に作ってもらえないだろうかと考えたのだ。
「あの……」
「ん? どうした」
そうしてそっと差し出すのは地竜の鱗。一応3枚ほど。
僕でもわかるほどの力なので、それらを扱う本職が見たらどうなるか?
それは、がばっと鱗ごと僕の手を掴むイルタさんと、目をぱちくりさせるアレクさんが証明した。
2人にはまだ他にあり、出来ればこの辺で防具が欲しいと伝えると、快諾された。
さっそくとばかりに職人の元へ案内してくれるそうだ。
「地竜の素材を持ってるなんて……可愛い顔して、結構激しい人生送ってるんだねファルク君たち」
「そうですよ。ファルクさんはそう言う星の元に産まれてるんですよ、きっと。後、ファルクさんは私のです。いえ、私がファルクさんのかな……」
「何言ってるのさマリー!?」
確かにどちらかというと男の子である僕の方がマリーを支えてるとか抱えてる、というほうが嬉しいかもしれないけど、ちょっと話が違う様な気がする。
イルタさんはそんなつもりじゃないと思うんだよね。
彼女が欲しいのは僕じゃなくて……。
「試験に受かったらお祝いに1枚あげますからその辺にしておいてくださいよ」
「ホント!? いやー、頑張っちゃおうかなー」
途端に元気に跳ね回るイルタさん。やっぱりね……そうだと思ったんだ。
ちなみに鱗1枚の価値があると僕は考えている。恐らくはそれなりに意味のある資格を狙うイルタさんが無事に合格したとしたら、縁のあるドワーフの職人が1人増えるわけで。
先行してのお祝いというか、そんな感じかな。
「ついたぞ。この中だ」
そうしてたどり着いた先は、地下に向かって伸びる洞窟だった。
ここに……ドワーフの職人が?
どことなく、外の建物とは違う雰囲気を感じながら僕達はそこに足を踏み入れた。
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