MD2-110「破邪の造り手-3」
書き方変更中。読みにくくなったらすいません。
「太陽が……あるね」
『そりゃあるだろう。洞窟の中というわけじゃないからな』
見知らぬ場所での目覚めに混乱しかけた頭、それを正気に戻したのは窓から差し込む陽光とその大元である太陽だった。
冷静なご先祖様のつっこみが響くけど、僕としてはなんとなく作られた灯りだと思ってたんだよね。
ドワーフっていう言葉に勝手に思い込んでいたからなんだけどさ。
室内を見渡せば、無理やりどかしたであろう雑貨や家具が壁際にある。
普段使っていない客間ということで物置代わりに使っていたんだと思う。
急な話なのにひとまず寝られるようにしてくれたイルタさんとお母さんには感謝しないとね。
『彼女と一緒の部屋で寝られたんだからいいだろう?』
(それはそれ、だよ)
それに、同じ寝るなら同じベッドが良かった、なんてことはマリーには言えない。
彼女の事だ……そんなことを言ったら普段の宿もそうするに違いないからだ。
駄目じゃないけど、僕が色々と我慢できなくなってしまうからこのぐらいの距離が一番いい。
まあ、他にも理由があるんだけど孫もひ孫もいたはずのご先祖様なら察してほしいところだ。
『子孫に手ほどきとか俺は嫌だぞ』
(察してって言ったでしょ!)
馬鹿なやり取りで一気に冷めてきた頭。
隣のベッドに寝てるマリーを起こさないようにそっと部屋を出て、説明されていた水桶から水を一口。
それだけでもだいぶ気分が違って来た。
光挿し込む窓から見える景色にはもういくつもの煙が立ち上っている。
朝から晩まで、ずっと何かしらの作業中ということかな。
さすがにドワーフの里といったところか。
「あ、おはよう! よく眠れた?」
「うん。もっと石の寝床とかを想像してたよ……ふかふかだった」
失礼かなとも思いつつ、正直な感想を口にした。
なんとなく、石を切り出した家と家具に住んでいる感じがするんだよね。
エルフが森に生き、森と共にある感じでそのままだったからかな。
「あはは! そうだよねー。おじじとかの中には実際に硬くないと寝た気がしない、なんていう人もいるから。なんだろうね、年かな! あ、ご飯出来てるよ」
「ありがと。マリーも呼んでくるね」
すぐに部屋に飛び込んだ僕はまだ眠った状態のマリーを驚かさないように注意しながらゆっくりと揺り起こした。
本当は寝ている彼女に触ったり、こうして揺らすだけでドキドキしてしまうのだけど、ここには僕達だけじゃない。
イルタさんもお母さんもいるんだからね……自重しよう。
体を起こした時のふわりとしたマリーの匂いに耐えきったのは褒められても良いと思う。
『最初からイルタに頼めばよかったんじゃないのか?』
(もっと早く言ってよ、そういうことは!)
マリーが起きるのを確認した僕は一足先に部屋を出て、イルタさんを探して別の部屋へ。
昨日、ここで食事をみんな取るんだよと説明された大き目の部屋だ。
そこにはイルタさんと、そのお母さんが待ってくれていた。
大分恰幅の良いお母さんの横だと、随分とイルタさんが……この辺でやめておこう。
「おはようございます。待ってもらっちゃってすいません」
「いいんだよ。命の恩人なんだから。ほんとにさ……あの人がいなくなってウチにはこの子しかいないっていうのに……」
「やだお母さん。朝からしんみりしないでよ。お客さんの前なんだよ?」
ちょっとしたやり取りの中にも、イルタさんとお母さんの仲の良さというか絆を感じた。
助けることができて、良かったかな……うん。
僕もなんだか嬉しい気持ちになって勧められるままに席に着いた。
「おはようございます……。少し、眠いです……はい」
「おはよっ。ご飯食べたら元気になるよ!」
着替えてはいるけど、なんだか眠そうなマリーもイルタさんの掛け声にのろのろと席につき、配膳された食事に手を付けていく。
香ばしい香りのパンに、ジャムとスープなんだけどジャムの匂いは初めての物だ。
食べてみると、やはり初めての味がする……この辺にしかない物を使ってるのかな?
やっぱりおいしい物を食べると元気になるのはどこでも一緒の様で、食事が終わるころにはマリーもはきはきと2人に応対していた。
僕もまた、女性3人に男1人という状況だから遠慮気味だったけど出来るだけ話せたと思う。
「そろそろかな……じゃ、行きましょ」
「えーっと、本集落だっけ?」
確か、イルタさんが試験を受ける場所が本集落で、そこに一緒にいったらどうだと言われてたんだよね。
でも、試験か……なんの試験なんだろう?
「イルタさんの受ける試験はやっぱり鍛冶に関する物なんですか?」
「ええ、そうよ。詳しいことは向こうで説明するわね。こういうのが好きなおじじとかいっぱいいるし」
片づけはいいよというお母さんの言葉に甘え、僕達は支度をして一緒に外に出る。
道を歩くドワーフのほとんどは女性のようだ。
男はたぶん、畑や採掘、工房といった場所にいるのだろう。
案内されるまま、歩いて行った先には重厚な金属製の門。
その後ろには岩山……となるとくりぬいてるのかな? だとするとすごいことだ。
「また跳ぶからしっかり掴まっててね」
「あ、最初と一緒なんだね、了解」
僕の心配や驚きははずれだったわけだ。
マリーと僕とが1本ずつイルタさんの手を掴み、彼女はそのまま1歩前に出る。
そうして……扉に体が沈み込んだかと思うとつないだままの僕達の手、そして体も同じように引っ張られつつ扉に沈んでいく。
浮遊感と、上下のわからないような不思議な感覚。
やっぱりここは、実家にあるあの秘密の場所と仕組みは同じなんだ。
「ようこそ、ドワーフの本集落へ」
転移した先は、外の里と大きな違いはない。
違うとしたら、その規模と中央にある大きな建物だろうか。
全体的な雰囲気そのものは一緒なんだよね。
いつの間にか力の入っていた手を放し、イルタさんの背中を追いかけながら歩く。
色々と興味のある物が多いなと思った。
積まれた鉱石、失敗作なのか囲いの中に転がっている壊れた物。
何か試作品の寸評でもしているのか、台の上に置いたよくわからないものを挟んで何やら言い合っているドワーフもいる。
「面白いところですね」
「でしょー? あ、危ないのもあるから家の外にあるやつは不用意に触っちゃだめだよ?」
そんなものを何で外に放置しておくのか、という疑問にはすぐに答えが出た。
みんな、わかってるから触る人がいないんだ……。
触っちゃうのはそれを知らない子供か、外から来た客人ぐらいだということだ。
マリーと2人して、覗き込んでいた割れた壺みたいなものから慌てて飛びのいた。
「他にも実験中だったりするとー、触るとね……」
「触ると……?」
ごくりと音を立てそうな勢いで食いついているマリー。
僕はなんとなくオチが読めたのでそうでもないけどね。
「どっかーんって爆発するのもあるんだよ!」
「ばばばば、爆発!?」
案の定、マリーは慌ててわたわたとしだした。
普段、しっかりしてるように見えてこういうところがあるからね、マリーは。
僕はそんな彼女を抱き留め、イルタさんに一応の苦情を言おうとしてやめた。
なぜなら……。
「これっ! 新人をなに脅してる!」
「アイタァ!」
イルタさんの後ろから歩いてきたドワーフの男性が明らかに怒った顔をしていたからであった。
思った通り、彼はイルタさんに拳骨を落とし、そのまま僕達に視線を向けた。
がっしりとした、まさに職人という雰囲気をまとう壮年の男性だ。
使い古された衣服や腰に下げた道具にも年期を感じる。
「いてて……あ、お師匠じゃないですか」
「じゃないですか、じゃないぞ。まったく……ん? なんだ、新人かと思ったら人間じゃないか」
僕達はその流れで自己紹介と、ここに来た経緯である外での出来事を簡単に説明した。
出来るだけイルタさんの危ない部分はぼかしたのだけど、彼にはそれでも十分な情報だったらしい。
額にびきっとわかりやすく血管が浮いている。
「馬鹿弟子が! 無理そうなら最初から助っ人を連れて行かんか! 危険予測も腕の内だ!」
「うう、面目ありません……」
頭を押さえ、泣き顔のイルタさんと随分と怒った顔の師匠の2人。
たぶん、いつもこんな感じなんだろうな……。
「おっと、2人は見学か? 普段なら入ってもらっちゃ困るが見るだけなら今なら……。
おっと、お前さんの腕輪、そしてお嬢さんの杖を見せてもらえると嬉しい」
一転、真面目な顔をした彼に僕達は向き合いながらも頷いてその腕を差し出した。
杖はともかく、腕輪は外せないからね。
「じっくり知らべないとわからんが、少なくとも2つとも百年は前の物だな。
話を聞きたい。どうだろうか?」
突然の提案ながら、僕達に断る理由はない。
師匠と呼ばれるドワーフに従って、僕達は大き目の建物に入っていくのだった。
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