MD2-109「破邪の造り手-2」
先ほどまで野盗がいたとは思えないほどののどかな街道。
そんな場所を僕達はドワーフの女の子を先頭に歩いていた。
ちなみに、仕方ないので野盗は木の上に縛り付けてきた。
あの位置なら獣やモンスターに食べられるということもないかな?
ドワーフの女の子は、話し始めると明るく元気な子だった。
口調も最初の改まった物じゃなく、だいぶ砕けてきた印象がある。
「あ、そうだ。名前聞いても大丈夫?」
「あっちゃー、すっかり忘れてたわ。イルタ、そう呼んでちょうだい」
わたわたと慌ててる姿には何やら小動物めいた感じを受ける。
悪い子じゃないだろうけど、どこか抜けてる気がするな?
頭を下げてきた拍子に、背負ってるハンマーが
こちらに飛び出そうになるところもその感想を裏付ける。
鍛冶に使うものというより、採掘用かな。
改めてイルタさんを見ると、ややぽっちゃり。
これは太っているというんじゃなく、がっしりしてるというか、
元々の体格が良いという感じだろうか。
何か作業をしたり、動くのには安心できる安定感のある体系だ。
少し日焼けした肌は茶色気味で、赤い髪の毛に緑の瞳。
髪の毛は先にいくほど丸くなっており、天然の癖毛なんだと思う。
何枚かの布の服を重ね着しているようで、
ゆったりした感じのする服装だ。
頭を下げた時に目に入った胸元はすごい大きい。
「イテッ!」
「もう、ファルクさん。そういう視線は女の子は敏感なんですよ!」
ぷんぷんと可愛らしくほっぺたを膨らませて、
結構な勢いで僕を叩いてくるマリーは
王子たちを前にしていたような雰囲気はない。
いつもの、陽気でちょっとドジな女の子だ。
「あはは! 面白いのね。2人ともその年で冒険者なんだ、すごいわね」
「いえいえ、イルタさんもおひとりでこうして……まあ、危ないところでしたけど」
女の子同士ということで何か気の合うところがあったのか、
2人はずっと何やら話しながら歩いている。
僕としては少々疎外感を感じるぐらいに、ね。
『男と女なんてのはそんなもんさ』
(そうだよねー……)
ホルコーの手綱を引きながら前を歩く2人についていくと、
そのうちに街道脇の小道に入っていく。
と言ってもそこそこ踏みならされているのか、迷うということはなさそうだ。
奥には何か岩山というか大きな岩が見える。
「バラバラだとどっかに出ちゃうといけないからここからは手をつないで。
あ、馬もどこかに手を付けててね」
僕はそのまま手綱の代わりにホルコーの髪の毛をそっとつかみ、
はぐれないようにした。
と言ってもここ、道が無いんだけど?
『実家の秘密の場所を思い出せ。そっちの目で見てみるんだ』
指摘され、最近使ってなかった精霊感知のスキルを意識する。
これ、上手く使わないとそこらじゅうが光るから戦いのときに困るんだよね。
ぽつぽつと、夜の闇に光が灯るように視界が切り替わる。
無数の精霊が大小さまざまに足元の草、立ち並ぶ木にも宿っているのがわかる。
全ての命、全ての存在には精霊が宿っていて、
何らかの問題でこの精霊がいなくなるとその物は大変な状態になるのだとか。
視線の先で、イルタさんの立つ場所の前に大きな四角い枠が見えた。
隠し通路ということかな?
「じゃ、いきましょ」
彼女の手に握られるのは赤い刃の短剣。
感じる精霊は……火。
どこかにはめ込んだかと思うと、わずかな音を立てて
目の前で岩肌が薄くなり、いつの間にかぽっかりと穴を開けていた。
「お城とかの宝物庫にも使えそうですね……もしかして、もうあるんでしょうか」
「似たようなのはあるんじゃないかな、多分」
知られていないだけで、意外とこういう技術は世の中にあるもんだと思う。
魔法ラジオだって仕組みがまったくわからないもんね。
ご先祖様に今度しっかり教えてもらわないと。
丁度境目となるあたりをくぐった時、
確かに実家そばの秘密の場所と同じような感覚を味わった。
つまり……。
「外とは違う空間になるのかな?」
「よくわかったわね。その通りよ。ドワーフの力や技術は外では戦争の源。
もちろん、外に出てはいけないという訳じゃないけど、どこかの国が
ドワーフを支配するってことがないようにしてるらしいのよね」
そうして話しながら、掘ったとは思えないほどの長いトンネルを抜け、
僕達はまぶしさに目を細めた。
太陽がある……ということはどこかの中という訳じゃないみたいだ。
「ようこそ、ドワーフの里へ。と言ってもここは一部だけどね」
くるりとその場で回転し、にこやかに言うイルタさんの背後には岩山。
そして立ち並ぶ建物と合間に生える木々。
煙突がいくつもある建物が多く、
そこからはあちこちで煙が出ている。
鍛冶の最中なんだろうか?
案内を受け、歩き出す僕達にドワーフの人達の視線が向けられる。
幸いにも、敵対的な視線という訳じゃあないみたいだ。
ホルコーの立てる足音もよく聞こえないぐらい、あちこち騒がしいせいもあるかもね。
敷き詰められた石畳は綺麗な物で、
建物の随所にも外じゃ感じられないような技術の高さがうかがえる。
レンガ1つ見ても、とてもきれいなんだよね。
『それはこの場所の魔力、精霊の濃さもあるんだろう。
代々維持されてきた場、という物があるからな』
言われてみれば、なんとなくそのあたりの景色もそうやって感じる。
まあ、僕が単純なだけかもしれないけど。
「ここが私の家なの! ただいまー!」
元気よく1つの家に飛び込んでいくイルタさん。
僕達もその場にいるだけというわけにもいかないので
玄関先まで歩いていくと、中から大声が聞こえてきた。
「こんのバカ娘! 勝手に外出して……!」
「イタタタ。お母さん、今日はお客さんがいるの」
イルタさんの言い訳染みた声の後、バタバタと中で音がしたかと思うと
開きかけの扉が大きく開かれ、中から女性が出てきた。
イルタさんによく似た、ドワーフなお母さんだ。
彼女をそのまま大きくしたらこうなるかなといった感じの恰幅の良さ。
とても力強そうである。
「あらあら、人間さんかい? ひとまず馬はそこに結んでおいておくれ。
ささ、立ってないで入った入った!」
見た目通り、非常に豪快な人のようだ。
家の脇の杭にホルコーを固定し、誘われるままに家にあがらせてもらう。
………
……
…
「そうかいそうかい! こいつはタダで返すわけにはいかないねえ。
命の恩人となっちゃ、出来るだけのことはさせておくれ」
「いえ、勝手に助けただけですから」
「そうですね。冒険者としてはこうしてドワーフの里に来れただけでも面白いですよ」
お母さんの気持ちは収まらなそうだけど、
僕達も最初ドワーフだって知らずに助けたのだからね。
「うーん、そう言ってもねえ。ああ、そうだ。イルタ、
あんたもうすぐ試験だろ? ついでに本集落に紹介したらどうだい」
「あ、いいね! ファルク君の腕輪とかマリーちゃんの杖をみたら
食いついてくる人いると思うし」
そうして、あれよあれよという間に
ドワーフの里の本集落に行けることになったらしい。
なんでも作るのが趣味な昔ながらの職人さんが大勢いるらしい。
楽しみだけど、ご先祖様分解されないよね?
『不安になるようなことを言うなよ……たぶん大丈夫だ』
そして、今日は泊っていってという言葉に甘え、
イルタさんの家に厄介になることになったのだった。
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