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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-105「夢と現実と-2」


「ファルクさん……」


「うん……これは……すごいね」


きゅっとマリーが僕の服を掴むのも無理はないと思う。

それだけの光景が、目の前には広がっているのだから。


青白い顔をした、どこか透明感のある人影、

いや……かつての王国の兵士たちがあらぬ方向へと叫び、武器を振るっている。


不思議なことに、同士討ちだけはしないのだ。


声だけは確かに聞こえ、それらが次々に耳に届く。

多くが敵を討てという物、中には望郷の言葉を口にする兵士もいた。


「この人たちは僕達が見えないんですか?」


「どちらかというと、我々は敵ではないと感じ取っているからだろうな」


ダグラスさんはそういって、身に着けたままの装備の点検を始めた。

何かと、戦うのだろうか?


……いや、実は僕もわかっている。

誰と誰が戦うなんてことは、さ。


『一般的なスピリットやアンデッドとは少々違うようだ。

 しっかり話を聞いておけ』


(うん。そうするよ)


やはり、僕の感じた感覚は正しいようで、

彼らは普通の不死者ではないようだ。


ダグラスさんだけじゃなく、ミルさんたちも準備を始めているから間違いない。

僕達は、彼らと戦うために呼ばれたのだ。


問題は敵対者として戦うのかどうかだ。


「おにーちゃん、おねーちゃん。ごめんね、大変そうなお話で」


「いいんですよ。これはあの人たちを眠らせるための儀式なんでしょう?」


しょんぼり落ち込んでいるシータ王女へと

マリーは優しく微笑んでいる。


彼女には下の弟や妹はいないから、もしかしたら妹のように思ってるのかもね。


僕もまた、明星の柄に手をやりながら微笑んで見せた。


「うん。何もないと、一か月ぐらい毎晩ああやって出てくるの。

 その間にモンスターとかが混ざると長くなっちゃうから……」


だから、誰かが敵の代わりに戦ってあげるの、とシータ王女は続ける。


見つめる先には、なおも声を出し続ける死んだはずの兵士達。


それにしても、だ。

こうまでして出てくるほど、彼らの無念は大きいのだろうか?


聞いている限り、第二次精霊戦争や

それに関する戦いは血みどろという名前は似合わない戦いだったと学んでいる。


死者はもちろん出たそうだけど、こうまで……。


『昔は今ほど人間は強くなかったのさ。

 失われていたスキル、道具といったものが

 徐々に復活していたに過ぎない……だから、地方ではぎりぎりだった』


ご先祖様の無念そうな声。


そういえば言い伝え通りなら、ご先祖様は

色んな薬や武具、スキルを世界に広めた立役者のはずだ。


その分、行きわたっていない場所での苦労を気にしているんだろう。


そうでもしないといけなかった時代の兵士達。

そりゃ、どんな姿になってでも故郷を守りたいと思う人が多く出たわけだ。


「えっとね、準備が出来たら儀式を発動させるの。

 そうしたら……あの人たちがこっちを認識できるようになるの」


「つまり、あの人たちが襲い掛かってくる?」


うん、とこともなげにシータ王女はいうけど驚きの内容だ。


さすがにあれだけの人数がまとめてきたら何ともできないような?


「心配せずとも、方法はある。任せたまえ」


「わかりました。マリー、そっちはどう?」


「いつでも、ええ。常時戦場です」


杖を2本、手にそれぞれ持ちながらマリーの体に魔力が巡る。

僕もまた、そんな彼女に頷いて明星を抜いた。


かがり火に照らされ、みんなの武器も赤く光る。


朗々と、夜の闇にシータ王女の詠唱が響く。


「一夜、二夜の巡り合い。森の影、岩の上、近くて遠い……重なれ、リメディション!」


瞬間、月が青くなった。


視界に入っていたそれが、青くなるという事態に思わず声を上げかける。

しかし、月が青くなったということは空は……赤かった。


目が痛くなるような空の光景。


それから逃れるべく、地上に視線を向けると

そこにはいつの間にか動きを止めた元兵士たちが立っていた。


ゆらりと揺れる半透明の体。


隣を見れば、既に臨戦態勢のダグラスさん達。


「聞けい!! 世の中を、国を救いし勇士達よ! 汝らの健闘により、

 今、我らはいる。確かめるがいい、汝らの戦いの結果である我らの力を!」


「「「オオオオオ!!!」」」


打ちあい、鳴らされる武器がぶつかる音。

元兵士達は、僕達をその瞳で見てくる。


そこには憎しみの光はない。


では何かといえば、喜び。


ダグラスさんの叫びにより、僕達は彼らにとって……腕を確かめたい相手となった。


乱戦ではなく、試合でもするかのように

代表者同士が戦う様な事を言われた。


ずらりと並んだ元兵士達と、それと向かい合う僕達。

問答無用かと思ったけど、そんなことはないようだ。


「出来るだけ長く戦ってくれ。それで問題ない」


「……わかりました」


説明がほとんどないので色々と気になるけど、

やることは単純で、相手と戦うだけ。


実際に殺してしまうような攻撃で大丈夫とだけ言われた。


まあ、相手はもう死んでるからなのかな……。


僕とマリーの相手は2人の壮年の兵士。

胸を借りるつもりで……行こう!


先手……必勝だっ。


「てええいいい!」


『ぬうううん!」


不思議と、ぶつかり合う武器同士。


明星は何度も僕を救ってくれた、とても良い武器だ。

それと打ちあう相手の武器は……どれだけの物だったというのか。


あるいは魔法で生み出した一時的な物なのかもしれない。

夜の闇の中に、火花がいくつも飛び散っていく。


横を駆け抜けるマリー。

その手の杖には既に魔力の光。


「フレイム……インパクト!」


『アイシクルブロー!』


同じく、魔法使いだったらしい兵士の手にしたこん棒のような杖から

マリーとは反対の魔法が放たれ、近接距離で両者が吹き飛ぶように離れていく。


マリーは魔法の打ち合いではなく、

近接交じりの戦闘に切り替えたようだった。


確かに、唱えてる間に切られるとかあっても困るよね。


問題はマリーの相手も、それが可能な相手だったということ。

少し、長引きそうだね。


そしてその悪い予想は当たってしまい、

僕とマリーの戦いは長いものとなっていく。


それはそれとして、どうして体は疲れない(・・・・)のだろうか?


『上!』


「っと」


動きは非常に勉強になるけれど、お代が自分の命となるわけにはいかない。

そろそろ、終わりにさせてもらおう。


牽制代わりに風の魔法で間合いを確保し、

明星ではなくご先祖様の腕輪に少しばかり魔力を流す。


「ウェイクアップ!」


強化の引き金を引いて、僕は借り物だけど強さの衣をまとう。

気のせいか、暗いはずの世界も少しだけどよく見える気がした。


『むううん!』


「そこ!」


そんな僕に何度目かの攻撃をしかけてくる元兵士。


何度か刃をはじき、受け流し、そして僕は明星を真横に振るった。


『見事……ありがとう』


最後の言葉だけは、なんだかしっかりと聞こえた気がした。


その後、マリーも2本同時に魔法を放つ形で自分の担当分を終わらせた。


空と月の色が戻る。

気が付けば、山の向こうが白くなり始めていた。


驚きのままの戦いは、一晩中だったらしい。


……本当に?


普通に考えて、一晩戦うなんて出来るはずもない。


「おにーちゃん、おねーちゃん、お疲れ様! 明日も……行けそう?」


「今日だけじゃなかったんだ……あははは」


「やるしかないですね、もう」


終わりだと思っていた僕達の気持ちを、

シータ王女はあっさりと塗り直しに来た。


色々疑問はある。

それでも止めるという選択をするつもりはないけれど、

今日は早く寝ておかないと辛そうなのは確かなのだった。

設定上、前作での最終決戦後の各地での戦いの兵士が眠っています。


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