MD2-101「暗闇に踊る-3」
ホネホネロックって昔ありましたよね。
オブリーン王都にある地下水路。
雨水を逃がすための物だと言われてるらしいそんな地下。
僕達はそんな場所で物音に気が付き、
こっそりとやって来てみると……動く骨がいた。
うん、これだけだとわけがわからないね。
僕もわからないから安心してほしい。
現実逃避気味にそんなことが頭に浮かぶ中、
スケルトン同士の戦いは佳境を迎えたようだ。
「隙ありですぞ!」
「それを口に出すからまだまだという物だ!」
確かに、黙って隙はつくべきだよね。
その叫びの間に相手は動くんだしさって。
状況がまったくわからない。
(ど、どういうことなの?)
『さすがの俺もスケルトンの知り合いは多くないなあ』
いないわけじゃないんだ!?という驚きが外に出ないように我慢して、
スケルトン二人を観察する。
ちなみにマリーは驚いたきり、状況に身を任せることに決めたらしく、
瓦礫の裏に静かに座り込みつつ顔だけ出している。
うん、僕もそうしたい。
でもまあ、ここはオブリーンの街中、
いや……お城の敷地の下なのかな?
そうなると、何も見なかったことにするには少々問題がありそうだ。
(魔物……とはちょっと違うよね?)
『そうだな。瘴気のような物は感じないし、妙に陽気だからなあ……』
だとしたら会話を試みるしかないか。
そう思った時だ。
「いつのまにか壁が崩れていますぞ」
「おや? 生者の匂い」
……出るしかないか。
生者の匂い、と1人は言っていた。
隠れていても、無駄だろうからね。
すっと立ち上がり、がれきを迂回して彼らの視界に
入るような位置に歩き出す。
「ほほう。良い魂の光だ。そっちのお嬢さんも」
「!? マリー、なんで出てきちゃったの」
どこから声が出ているかわからないスケルトンの声。
その内容と、首が動くままに後ろを見るとマリーまでもが一緒に出てきていた。
「ファルクさんだけを危ない目にあわせるわけにはいきませんよ」
「そりゃ気持ちはわかるけど……」
出来ればいざという時のために隠れていてほしくはあったんだよね。
僕が逆の立場だったら、やっぱり出てきたとは思うけどさ。
「若者よ、見られたからには……」
『下がるな、踏み込め!』
喋っていなかったもう1人のスケルトンが突然、
剣を構えて切りかかって来た。
咄嗟にマリーを突き飛ばし、同じく下がろうとした時に響く声。
逃げ出しそうになる体に気合を入れ、
若干無理のある姿勢のまま前に踏み込んで
背中に下げた状態の明星を抜いた。
技術も何もない、斬り降ろし。
それは上手く相手の剣とかみ合い、地面に剣先をたたきつけさせることに成功した。
思ったより軽い剣だ。
あれかな、肉体が無いから重さが無いのか。
切りかかって来たスケルトンにも殺気はなく、
ちょっと脅かすだけだったような感じだ。
「なんと!」
「クカカ! だから修行が足りんのよ。我らは骨、
骨らしい戦い方をせねばならぬと常に言っているだろう。
少年よ、いきなり斬りかかってすまなんだな」
「いえ、不審者と遭遇したらそんなものかなと思います」
僕達からすると骨のほうが不思議だけど、ね。
なんだか、面白い人たちのようだ。
「あの、お話よろしいですか?」
「うむ。来客は少ないからな、歓迎するぞ」
骨をカラカラと鳴らし、多分偉い人だったんだろうなというスケルトンに案内され、
僕達は瓦礫を越えてレンガ積みの室内へと足を踏み入れる。
壁には魔法を使っているのか油の匂いのしない灯り。
そんな灯りに照らされる建物の中をスケルトンが歩く。
(どう見てもダンジョンの光景だよね)
ちらりと視線だけマリーに向けると、
同じことを考えていたのかなぜか頷かれた。
たどり着いたのは古ぼけつつも丈夫さを感じる
木の机と椅子たちが置かれた大部屋。
奥には他の部屋へいくためであろう扉が見える。
「遠慮なく座ってくれ」
「じゃあ失礼しっと!?」
お尻を乗せた途端、きしんだ気がして慌てて立ち上がる。
椅子を確かめると、随分とガタガタのようだ。
それを見てなのか、部下っぽい方のスケルトンがカタカタと顎を鳴らす。
「我々は軽いから気が付かなかったな。すまないが他の椅子を好きに選んでくれるか」
「は、はい」
骨の中には何もない。
瞳に何か光でもあるかと思ったけどそんなことはなく、
全く感情が読めない状態のスケルトンがじーっとしていたかと思うと
動き出すのは少々、いや……かなり怖い。
なんとか大丈夫そうな椅子を見つけ、2人して座る。
「せっかくの来客だ。何か飲み物……ああ、水しかないな。
かなり前の物だからな……では何か摘まむものを……ぬう!」
ぱかっと何かの蓋をあけたスケルトンのあばら骨付近に小さな影、ネズミだ。
「きゃっ」
それを見たマリーが可愛らしく叫ぶが、
僕としては半分なくなっている扉の向こうに広がってる空間、
無数の棺が気になって仕方がなかった。
「すまんのう、何も無かった。せっかくの生者との語らいだというのにのう」
「いえ、お構いなく。お話だけでもありがたいですよ」
表情が読めないのに明らかに落ち込んでいるのがわかるスケルトン。
骨2人と向かい合う生身2人という奇妙な構図が出来上がった。
「先にこちらから聞いてもよいか? ここは城の地下にあるはず。
どうしてお主らのような若者がここへ?」
「えーっと……偶然というか好奇心というか」
簡単にあらましを語っていくと、
2人とも何やらうんうんと頷いた。
そんなに変な話だっただろうか?
「なるほどなるほど。じゃが、無謀だな。
ここがもっとおぞましい邪教の集まりだったらどうした?
そちらのお嬢さんは生贄になっていたかもしれん」
『俺の警戒も万能じゃない、確かに言うとおりだな』
ご先祖様も言うように、もっともな話だった。
もう僕だけの人生じゃないのだからもう少し慎重に行くべきだった。
「ありがとうございます」
「素直に話を聞ける若者は貴重だ。しっかりな」
もう1人のスケルトンも表情はわからないけど笑ってくれた気がした。
今度はこちらの番だ。
「お二人はどうしてその、骨のままで?」
訪れる沈黙。
スケルトン2人は見つめ合ったかと思うと、
思案するように姿勢をあれこれと変える。
そんなに言いにくいことだったんだろうか。
「あの、秘密の話とかでしたら何も見なかったことにして帰りますので」
そんな慌てた様子のマリーの声に、
偉い人っぽいほうのスケルトンが骨だけの手を顔の前で振るう。
生きていた頃の動きを感じさせるどこか面白い仕草だった。
「心配はいらん。何も外と接点が全くないわけじゃないからのう。
供物が決まった時期にしかないのは問題だが……それはそれとして。
そうさな、我らは守り人なのよ。この王都と国のな」
「守り人……つまり魔物とかと戦う……いや、でも?」
とっさに出てきた言葉に、引っかかることがあった。
既に外にはそれぞれの担当を守る存在がいる。
そう、ギルドで選ばれ、装備を借り受けてその地域での
圧倒的な力を誇る、エンシャンター。
他の土地に行けないと言ってもその力は強大なはず。
「君の考えているように、既にその術があるともいえる。
が、それは完璧でも無ければ全部を守れるわけでもない。
そこで、最初の1人が女神に祈ったのだよ、霊山でな。
我らが魂が望む限り、国を守る力を与えたまえ、と」
そうして、この国は1つの術、儀式を授かったのだという。
─魂が望む限り、国を守るための不死の兵士となる力を。
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