MD2-100「暗闇に踊る-2」
ついに100話!
2人が降りたった場所は暗闇だった。
正確にはよく見えない、ぐらいなのだけど。
今回は魔物がいるわけじゃないだろうかと魔法の灯りを適当に打ち出す。
左手に短剣を1本持ち、その先にも。
これで50歩ぐらい先までなら何とか見えそうだ。
「思ったより綺麗ですね」
「そうだね。もっと汚いかと思ってたよ」
勿論、落ち葉だとか瓦礫のような物はあちこちにあるのだけど。
少なくとも、歩くのに問題はないと思う。
中央はマリーの言う雨水を流すために使うのか
1段低く作ってあるようだ。
今もちょとちょろと水が流れている。
遠くへと続く道はどこまでつながっているのか。
明かりが届く範囲には行き止まりが無い。
「それにしても、こんな場所良く知ってたね?」
「え? いえ……聞こえたんですよ。街中で誰かが最近地下がうるさい、
どの穴からたくさんネズミでも入り込んだのかって」
僕が振り返った先で、マリーはそう言いながら首を傾げていた。
声が聞こえた……ねえ。
『それだけだと恐怖の物語みたいだな』
まったくだね、ちょっと怖かったもん。
「おばさんたちの井戸端会議だったのかな?」
「いえ、上から……上……?」
2階といったオチではないんだと思う。
街中で上で喋ってる相手と言えば……ああ!
「マリー、街路樹の声が聞こえたんだね」
「そうなんですかね?」
多分、間違いないと思う。
僕の場合はそこまで聞こえないから、マリーは僕よりすごいということだ。
「すごいね。僕なんかなんとなく感情がわかるかなーぐらいだよ」
「なんでかはわかりませんけど、役立ちそうでよかったです」
マリーが使っている杖の力も助けになってるのかもしれないね。
それはそれとして、騒がしい、か。
ネズミが繁殖してました、ぐらいならいいけどさ。
『楽観的に行くには前科がありすぎるな』
本当だよ、もう。
こういう場所にありがちなのはスピリットだ。
幽霊とはすこーし違う。
どちらにせよ、浄化の魔法かマナボールなんかで
直接魔力をぶつけるか、銀交じりの武器でたたくか。
(そういえば明星には銀も混ぜてるって言ってたっけ)
色んな素材を上手く混ぜることで対応する属性を増やしたって
職人さんは言ってたね。
「きゃっ」
「!? あ、ネズミか」
視界にぎりぎり入った動物はただのネズミ。
少し大きいように思うけど、普通だ。
魔物ではないことに安心するけど、ネズミには齧られたくはない。
物語でもネズミにかじられてから……なんてのは見たことがある。
次々にネズミと出会う、ということは無いので
やっぱりここは思ったより綺麗というか、
雨水が頻繁に通るのかもしれないね。
生き物毎流してるのかもしれない。
そんな場所で無事なのは水に流れない……そう、マナだけの存在。
(来るなら来い、スピリットめ!)
心の中で明星を振りかざして宣言する。
そんなことを考えていたせいだろうか?
物音が、耳に届いた。
「ファルクさん」
「うん。聞こえたね」
地図には敵対の赤は……いない。
石が転がるような小さな音。
だけど風ではなく、何かの動きによって転がっている。
ついでに何かの声も。
この角を曲がった先……あれは。
猫が1匹、がれきに埋もれるように顔と片手だけを出していた。
「マリー、よろしく」
「ええ、もちろん」
慌てて駆け寄り、僕は周囲の警戒、マリーは猫の救出に移る。
幸いにも、押しつぶされているという感じではなく、
抜けられなくなった、ということのようだ。
それでも右足を怪我しているようで、
自力では走れそうにない。
「ポーションを使ってもいいけど、もったいないって言われるかな」
「かもしれませんね。困ってるようなら使いましょう」
顔や体の毛並み、模様などからこの猫がポメちゃんで間違いないだろう。
マリーの腕の中でうなーうなーと鳴きつつも暴れる様子はない。
助けに来たのがわかるのだろうか?
さあ、戻ろうというところで僕は動きを止めた。
「ファルクさん?」
「しっ」
この地下水路というのは洞窟と同じだ。
下手に物音を立てると遠くまで聞こえる。
それは僕達以外でも、一緒だ。
『恐らく、間違いないな』
(そっか……どこだろ)
僕の耳に聞こえたのは、刃物のぶつかる音。
それも複数回だ。
小さな声でそうマリーに注げると、彼女も頷いた。
「ひとまずポメちゃんを抱えたままでは何も……一度上がりましょう」
「それしか……ないか」
その間に音の原因がなくなったらどうしようかと思うけど、
僕達の依頼はポメちゃんの確保が第一だ。
好奇心を満たすのは終わってからでいいはずだ。
本筋を思い出させてくれたマリーに微笑み返し、
2人と1匹で来た道を戻る。
地上に抜け、汚れてないかを確認して女の子の家へ。
「あ、ポメちゃん!」
「あらあら」
こちらが声をかけるより早く、
マリーの腕の中の猫を見つけて女の子が走り寄ってくる。
「一応見つけましたけど、怪我をしてます。薬草でよければ持ち合わせがありますけど」
ポーションだと高すぎると思われるといけないと思ったので、
一般的に流通してる薬草を1本、手にして見せてみる。
「いただけますか? お代は……」
僕はその言葉に首を振ることで応える。
すりつぶしてもいない生のままだからね。
親子からお礼と依頼完了の記載をもらい、
僕達はギルド……ではなく地下に戻った。
「ごめんね、マリー」
「いえいえ、気になって私も眠れそうにないですよ」
小さく、囁くような語り合い。
そしてポメちゃんを見つけた付近に戻ってくる。
改めて耳を澄ますと……お?
「まだ聞こえる……こっちだ」
足音を立てないように気を付けながらくらい地下水道を歩いていく。
たまの陽光が差し込む穴に目を細めつつ、進む。
時間にして1刻は歩いただろうか。
結構な距離だ。
『よく見てみろ』
(え? んん? もしかして……)
改めて地図を見てみると、既にここは王城のそばというかたぶん城壁を越えている。
頭をよぎるのは物語のような陰謀の類。
もしそうなら、僕達の手には負えないだろうけど
放っておくわけにもいかないことだ。
そして、一際大きな金属音が地下に響き渡る。
「近いね、すぐそこだ」
「戦い……ですかね」
いつでも魔法を撃てるように杖を構えるマリー。
僕もまた、明星の柄に手をやりつつ、
魔法で先手を打つ必要のある相手じゃないといいなあと思いながら先へ。
視界には大きく崩れた水路が目に入る。
どうやら本当なら通じていない部分に崩れたせいで通じてしまっているようだ。
だとすると、陰謀の線は薄くなるのかな?
視線の先に、僕達以外の灯りが見えたので慌てて光量を抑える。
光は動いていない。つまりは固定された灯りだ。
「消すよ」
「はい」
そうささやいて魔法の灯りを消してさらに歩く。
そこには……。
「クカカカ! 腕をあげたのう!」
「なんの、まだまだですぞ!」
古ぼけたレンガ済みの地下室で、剣をぶつけ合う2人?の骨……スケルトンがいた。
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