六話
「次回の会議の議題一覧です」
そう言われ、渡された資料に男は目を通す。
「これは、却下だな」
目を通していた資料の中から、一枚の資料を抜き出して男は言う。
それには、こう書かれていた。
『ストゥルザ・セイルの校則違反の処分について』
恋愛RPGの世界に悪役(?)として転生した話
「え~っと。ここをこうして、ここはこうだから……」
現在、平日の真っ昼間。本来なら、授業がある時間なのだが、私は学園寮の自室で模様替えの最中です。
……別に、さぼりではありませんよ。
二日間の停学及び謹慎を言い渡されただけですよ。
理由ですか? 簡単なことです。
ストゥルザとの件で、なぜか私が全面的に悪いということになりまして、私のみ処分されたのです。
このことを伝えに来た教師は、『あんな事をして、これだけの処分で済んだのだから、ありがたく思うのだな』と言い放ちましたが、思える訳がありません。私は何ら悪いことをしていないのですから。
SIDE エヴァンジェリン
「そう言うことですか……」
集まった情報を吟味して、そう呟く。
今朝のこと、リリアさんが教室に来ませんでした。
カリーヌさんと、何故かと話し合いましたが、理由の方はすぐに分かりました。
私の馬鹿兄に、校舎内で武器を向けたということで、二日間の停学及び学外実習への参加禁止を言い渡されたとのことでした。
話を聞いた時、まず感じたのは疑問でした。
実は、問題となったという日の朝、私とカリーヌさんとリリアさんは揃って学園に来ていました。
その際、下駄箱に設置してある武器入れに武器を入れて鍵をかけたのを覚えているからです。
その後、授業は別でしたが、休み時間毎に会っていましたし、放課後はパーティーメンバーと待ち合わせと言って、武器のある玄関ではなく多目的ホールの方に行かれましたから、武器を校舎内に持ち込んだということはないはずなのです。
私の知っていることと、教師の言っていることがあまりに違うので、少し調べて見ることにしました。
私も王族のはしくれですので、ちょっとした情報網は持っています。
それを駆使して……と思っていたのですが、駆使するまでも無く情報は集まってきました。
放課後の多目的ホールであった事と、良くも悪くもリリアさんが注目を集めていたために、目撃者は数が多かったのです。
それに、教師の中にもこのことに関して思うところがある人が多い、ということもあったと思われます。
「それで? 今回のことは、どういうことなの?」
「原因は、うちの兄ですね」
聞いてきたカリーヌさんに、分かった事を話します。
「ふ~ん。うわさ通りか……」
まず、リリアさんと兄の間に起こった事を話したところ、こんな返答が返ってきました。
「うわさ、ですか?」
私は、情報として話を集めていたため、うわさについてはほとんど知りません。
基本的に、うわさは尾ひれがつく物。面白おかしく脚色されていくため、始めの話とは全く違うものになっていくことが多いのですが……。
「そう。エヴァが話してくれた、リリアとストゥルザの間で何があったか、と言うことが正確にうわさで流れている」
「正確に、ですか?」
「ええ。見守る会の奴がその場に多数いたらしく、リリアの名誉を守るために正確な話を周りに流しているらしい」
ああ、それなら、正確なうわさと言うのも納得です。
「うわさと教師の話、どちらを信じている人の方が多いですか?」
「うわさだね。以前からストゥルザの行動は問題があったし、この学校最大派閥の見守る会が動いているからね」
目撃者が多数いることも、うわさに信憑性を持たせているかもしれないですね。
「それにしても、少し調べればあいつが悪いことが分かるのに、リリアが全部悪いということになったの?」
「簡単です。『上を目指したい』これにつきます」
現在、この学園の中で最も権力を持っているのが学長です。
その学長は、自分の後継者を育てることに夢中になっており、ここ二、三年まともに学校運営にかかわってきていません。その為、ナンバー2である教師長とナンバー3である事務長が中心となり学園の運営をしていたのですが……。
「学長がいる間は良いのですが……」
現学長の契約期間は、今期限りで、学長の現状を考えると、契約の更新はしないものと考えられます。
学長が辞めた後、誰が次の学長に就任するかと言いますと、最も確率が高いのは教師長か事務長の内部昇進です。
外部から、優秀な人材を招くということも考えられますが、可能性は低いと考えられます。
その為、内部昇進を狙って教師長と事務長の対立が始まっているのです。
「そんな折に起きたのが、今回の一件」
こんな時期に問題は起きて欲しくないのですが、今回の件に関しては、そうではないと言って良いでしょう。なにせ、王族が起こした問題ですから。
この学園の教師や事務員はそれぞれの長が、その長は学長が任命しますが、学長は国営であるためお父様――国王陛下が任命します。
「そこで……」
「ああ、何となく分かった」
私の説明に、カリーヌさんも理解されたようです。
加害者と被害者を入れ替えて、お父様に恩を売って心証を良くしようとしたのでしょう。
「どっちが暴走したの?」
「……両方です」
まず、教師長です。事の詳細を調べずに、王族が係わっているということだけで判断をして処分を決定したようです。
それを聞き、遅れてなるものかと事務長も事の詳細を調べない内に書類を通したということです。
「……今頃、顔青くなっているのでは……」
「でしょうね」
リリアさんの家はこの王国の重鎮です。
祖父君は王国宰相ですし、次兄はその補佐。三兄は、王国騎士団近衛隊の副隊長です。父君、長兄は領地経営をしていますが、恐ろしく人望があり、彼らが一声かければ王国は真二つになると言われています。母君は女性貴族社会のカリスマで、彼女に逆らったら社交界で生きていけないとまで言われています。
「そんな人たちが溺愛しているリリアさんを、不当処分したのですから……」
リリアさんを周りが無視――実際は牽制しあっていたのだが――していたことの関しては、生徒間のことで本人が解決すべき問題だとして不干渉だったが、今回のことは、明らかに権力を使った不当な問題です。家族愛に燃えたあの人たちは、嬉々として干渉してくるでしょう。
「私なら逃げるね。地の果てを超える勢いで」
「超えないと逃げ切れないでしょうね、きっと」
冗談を言い合っているようですが、事実であることを私は知っています。
「それよりも、大変なのはこれからです」
「何の……ああ、そう言うことか」
カリーヌさんも気付いたようです。
この学園内には、ある決まりがありました。
『学園内に置いて、出身、地位の上下関係は存在しない。全員一生徒として平等に扱う』と言うものです。
学園発足時からある決まりではありますが、最近では建前になりつつあったものです。
それでも、決まりは決まり。守るべきものであったはずなのです。
しかし、今回の件では守られませんでした。むしろ、守るように動かなければならないはずの教師たちの一部が積極的に破ったのです。
その上、そのことをうわさと言う形ではあるものの、生徒たちに知られました。
これにより、生徒たちはこう判断するでしょう。
「『この学園内では親の地位ですべてが決まる』と言う考えが、大半を占めるようになるでしょうね」
「暮らしにくくなりそうだね」
「ええ」
親の地位は親のものであって、子には関係が無いのですが、分かっていない人の方が多いですからね。
SIDE OUT




