表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年妖姫の杯  作者: エコエコ河江(かわえ)
4章 分裂、エイノマ王国&ウゾームズ王国
66/89

A59G02:私のユノアだ

 アナグマの三人は山道を進む。


 夜を明かすとわかっていた。場所も、到着までの時間も。なので出発は昼過ぎで、現在は夕刻に差しかかる。太陽を背負い、それでも視界は良好とは程遠い。隠れるために道なき道を進む。


 アズートの先導で方角を確認し、キメラが使えそうな地形を見て、ユノアが周囲の様子を探る。


 藪漕ぎを続けた果てに、大岩が立ちはだかる。周囲には少しだけ開けた空間があり、さながらトイレの個室ほどには落ち着ける。アズートが検分の後に口を開いた。


「二人とも、ここを野営地とします。この先では人の目がある」

「まだ五合かそこらじゃないか。どんな暮らしだよ王国は」


 ユノアは言葉より先に指を鳴らした。位置を変えて二度目、三度目。空気の振動が岩と植物で反射する。四度目、五度目。側から見ればノリノリでラップでも始めそうな動きで、周囲の状況を読み取る。


「この先で森林がまばらになるね。人の手が入ってる。行き来する価値があるんだ。材木か、食糧か。痕跡を残したらすぐ気づかれるよ」


 エコーロケーションの成果を共有したら、野営の準備を始める。キメラと一緒なら、やり方はひとつだ。


 ブッシュクラフト、木の枝と落ち葉と泥で雨風を凌ぐ仮設テントを作る。


 片手間にアズートから王国の暮らしを聞く。


 全体的には文明レベルが低い一方で、少数のオーパーツじみた施設で工業を担うらしい。その影響で他の文明が不要だったとも言える。街並みは外見だけなら決して見劣りしないが、中身はすっからかんと語る。スットン共和国のような蒸気ラインがなく、ガンコーシュ帝国のような電気もなく、カラスノ合衆国のような社会もない。野蛮な獣に建物と道具を与えたような連中だ。


 アズートも王国から抜けてきた都合で、色眼鏡を念頭にする。かつて自らを迫害した相手は往々にして悪党に見える。ただし、ユノアに届いた情報との矛盾はない。数年前の古い情報でも文化はすぐには変わらない。


「キノから聞いたんだが、人を食う野生動物がいるらしいな。二足歩行で尻尾がなくて、刺激すると仲間を呼ぶんだとか」

「そんな言い方ですか。キノらしい。いますよ」

「本当に食う?」

「おそらく比喩ですが、完全に否定するには材料が足りないですね。っと、ナイフ貸してください」


 今夜の寝床に使う、枝の突起を削り落とす。骨組み同士で変な干渉をしたら風を防ぐうちにやがて崩れてしまう。暗闇での修繕は絶望的だ。


 オーパーツじみたといえば、重力の影響を部分的に減衰する装置も、受信側の端末で使える技術と聞いた。正確には運動エネルギーを補佐するとかの小難しい話をユノアとも話していた。必要になれば頼れる相手が隣にいる。


 野営の環境がキメラの記憶を刺激した。


「ミカのやつが、険しい道でも軽々と動いてたな。汗ひとつなく。あれのカラクリか」

「ああ、初耳。届くまでに細かい情報が抜け落ちるから、間近に見た本人がいると助かる」


 情報の価値は行動の選定にある。もし行動が同じならば、考えずとも同じ行動で構わない。結果は同じになる。失敗の可能性を潰すために情報を求めている。ただの破壊活動で片付くならば、それでいい。


 平野部から独立するだけの価値はまだ見えない。


「よし、出来上がりだ」


 アズートよりずっと早いので確認すると、二人が同衾する大きさに仕上げていた。


「お二人、一緒に寝るつもりですかね」

「もちろん。私のキメラだから」

「私のユノアだ。残念かもな」

「そういうつもりじゃあなくて。動けるならいいんですけど」

「キメラなら平気」

「ユノアなら邪魔になる位置を避けてくれる」


 共同での任務は久しぶりで、気にするべき人目もない。仲を育むチャンスにする。アズートは今更そんなのを気に留めやしない。アナグマに加わった時点で側から見れば蚊帳の外だ。帰る場所があるだけでいい。


「話の続きをしようか。この先にはどんな建物がある」

「そっちの言葉で言うなら、長屋に近いですね。岩肌をくり抜いた中に住みます」

「森林限界?」

「ぎりぎりくらいから。明日の昼前には岩肌が見えます」

「ユノア、高山の経験は」

「ないね。任せる」

「おうよ」


 陽が沈むまで二人のいちゃつきは続いた。食事も水も静かに進めて、言葉も静かで、それでもアズートには両者の息遣いが聞こえていた。自由すぎる、と思った。アナグマに来てよかった。


 反面、寝付くにも時間がかかった。二人とは関係なく、勝手に色々考えてしまった。必要だからと言い聞かせてどうにか眠った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ