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千年妖姫の杯  作者: エコエコ河江(かわえ)
3章 奔走、カラスノ合衆国 の続き (作者の夏休み明け)
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A55W16:名前を聞きたい

 大聖堂、ジャダリジモーレ大陸の中央に構える、目立つ本堂と目立たない宿舎からなる建造物だ。


 地上部は宗教団体エルモとして表で各地を導き、地下は傭兵団体アナグマの隠れ家として各地を繋ぐトンネルに続く。


 続くが実際は、ほとんど帰り道にのみ運用されている。ガンコーシュ帝国は山に囲まれた都合か出入国の検査が厳しく、カラスノ合衆国は旅程で現地人との接点を作るほうが後に馴染みやすい。エイノマ王国に至っては地盤が異質なために小回りが効かず、出入り口を増やせない。奥の手として秘匿している。


 実質的にはスットン共和国との往復か、一時的に中枢に戻るときにのみ地下のトロッコの出番が来る。


 ノモズは久しぶりの中枢で深呼吸をした。会議室に一番乗りの解放感があり、隅に見える岩肌も黄ばんだ照明も、他ではとても味わえない。ここは誰もの第二の故郷だ。


 彼女にも。扉が開いて、二番乗りのエンが入った。スットン共和国に入り浸って歴史書を読み漁る任から戻り、共有を始めた。


 なけなしの資料からも見えるものがある。ノモズが持つカラスノ合衆国の記録と合わせて、不自然な部分を探す。


「百年ごとですね。薄々そんな気はしましたが」

「全く。ノモズさん、この後は?」

「三人が来ます。いつもの顔ぶれですね」


 言ってすぐに扉が開いた。


 キノコがまず荷物を置いた。


「おにぎりを作ってきたよ。今日の予定を聞いたときに、ノモズさんが絶対に体を壊すってユノアさんが」

「かないませんね。いただきます」


 弁当箱に三個の不揃いな塊が所狭しと並ぶ。思った以上の大きさにノモズの胸が温かくなった。


「きののやつは、残してもいいよ」

「一番おいしいのはキメラのだから」

「待て。ユノアのほうが美味い」


 恋仲組の言い合いが始まった。どこまでも懐かしませてくれる。弁当箱へ戻り、ひとつだけ崩れかけたおにぎりを大事に大事に掴み上げた。


「ありがとうございます。最初はキノコさんのにしましょうかね」


 分離しそうな部分から口に運ぶ。言い合いは見守りに変わる。



 空間を共有しながら何もない二人も生まれた。アナグマは自らの役目を察知する。若くして馴染んだキノコが、真っ先に。


「エンさん、大丈夫だった? ユノアさんの『あっちは確実に大丈夫』を信じだんだけど」

「そりゃあ食べましたとも。今日のような日のうっかり者は、とあるロマンチストくらいだと、私もユノアさんから」


 どさくさに紛れてユノアを巻き込み参加を促す。期待に応えて反論から始めて各自の判断を讃える。


 緩んだ雰囲気が続いたが、ノモズの「ごちそうさまです」の一言で次へ進んだ。今後の話を始める。そのために集まる日だ。


 知っての通り、情勢は緊迫している。各国で散発する騒ぎはどれも分断を含み、共通して外部からの干渉を示唆する動向もある。不和を抱えさせて動きが鈍れば侵略者の思う壺だ。加えて不気味な点がある。兆候をアナグマが発見できなかった。不自然なプロパガンダもなく、誰の悩みごとにもならず、当たり前の延長上に発生した。


「で、そんな大それた企てをできる連中がどこに?」


 キメラの疑問に対し、答えはまだない。これから探しに行く。


「キノコさんが発見した手がかりがあります。改めてお願いします」

「うん。まず前提として、大陸にある三つの山の位置だね」


 地図を広げて、アイコンを置く。


「どれも頂上が海岸線を繋いだ真ん中あたりにあるんだ。不自然なくらい端っこにね。だけどこれまでは、調査の目星もつかなかったし、手がかりが何もなかった。それが少し前に、見つけたよ」


 新たに図面を広げた。黒い天使のシルエットに、簡略化した楕円形で役目だけを記してある。


「ガンコーシュ帝国の都市伝説の血涙を。鹵獲して解析したら、こんなのを作れた。ボディのほとんどは受信機と増幅機で、どこかからの何かを受け取って、とりあえず上昇と下降ができる」


 あのキノコがやけに曖昧な説明をする。積み重ねた技術を組み合わせて発展させるのが世の常なのに、そうせずに全く独立した新型が発生した。これまでの常識では考えらず、常識外れからさらに外れた存在だ。


「上昇と下降というか、飛んでるように見えたが」

「正確には飛んでないよ。見せたのは滑空と、空気抵抗やいろいろで無理やり軌道を変えただけ。ほとんど直線の動きしかできないし、しかも方角が決まってる。山との位置関係でね」


 地図の外側の海上にアイコンを並べていった。実験の記録と合わせて話す。動く範囲と動かない範囲の輪郭を探した結果、山を繋いだ外側に出るとただの重い箱になる。


「見つけたってのがそれか」

「ユノアさんがね。シュカラ山に何かの装置があって、トンガン山を見てたら落とされた。イス山はこれから」


 目線がノモズに向かう。集まってこんな話をしたなら、次の話が見えている。期待に応えて、あるいは案の定の言葉が続いた。


「お二人にはエイノマ王国領のイス山を確認してもらいます」


 この場の五人のうち、優先的な役目がない二人の組み合わせはひとつだ。目線でユノアとキメラを示す。


「本当はもう一人、内情をいくらか知る方がいるのですが、帰りが遅れているようです。五日以内に戻れば彼に合わせて、戻らないなら二人でお願いします」

「お前ならそう来ると思った。ユノアも私も行ってやるが、三つ聞かせろ」


 キノコへ向かって質問を始めた。


「エイノマ王国の話題のときにキノがよく言う、人を喰う野生動物ってのは、もしかして『脚が二本で尻尾がない奴』か?」

「そうだよ」


 声色から避けたさが滲み出る。これまでもずっと見てきたので、考える前に次の言葉で遮る。


「ならいい。二番目にイコカムの連中が求めていたものを見ないままだったが、どうだ。見つけたって言うぐらいだから何かあるんだろ」


 この質問にはノモズが答える。


「黒い雲だか煙だかが、トンガン山の頂上付近の岩肌から噴き出した、とだけ情報を得ました。ユノアさんからも、他の目からもそれだけです。失敗か願い通りかをこれから確認します」


 騎士団の調査結果を確認して。立場の強さはそのまま情報網になる。


 現れた姿が敵ならば立ち回りを想定しておきたいが、結果が届くまでは待つしかない。


「最後にその図面の装置だが」


 続きを言う前から頬が緩む。ユノアが真っ先に気づいて表情を近づける。


「名前を聞きたい。カッコいいほどテンションが上がるからな」


 ユノアが笑いを漏らした。続いてキノコも。上機嫌に控えめに同意を表す。ロマンがわかる奴らだ。


「きののやつがドラグーン、試作機を兼ねてるからもっと拡張していくよ。ユノアさんのがスレイプニール、鉛直方向だけに絞った特化型で、余剰の出力を偵察や連絡用の諸々に回してる。キメラおねえちゃんのは設計中で、きっと空対空戦闘になる。名前は、ドラゴロードにしよう。そんな感じの動き方ができそうだから」


 キメラは満足げに拳を握り込む。にやけ顔は翌朝まで続いた。


ご視聴ありがとうございました。

3章はこれでおしまいです。

来週の幕間はいつもより長めを2本で、

その次から4章を始めます。


 冬山に登る。

しかも森林限界の先まで行く。

文明レベルに対して恐ろしすぎるので短めです。


 アズートくんが再登場します。

前日譚『自由の設計士』以来なのでおさらいしよう。

植物に詳しくてちょっぴり奥手な少年です。

ここまで登場した人物との面識は下記の通りです(言葉を交わした順)

ミカ?、きの、ユノア、1章2話でおかえりを言った人、セイカ、エン、モーデンス(幕間でエンと話してた人)、ヨルメ


 はじめは章の区切りごとにおやすみ期間を入れようと思っていたけれど、

なんか続けていられました。

応援ありがとね。


 来週からもよろしくね。

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