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千年妖姫の杯  作者: エコエコ河江(かわえ)
幕間 2章 - 3章
40/89

A39UW5:幕間『千年妖姫の腕』

 時は2章8話の後、ユノアたちが潜入する前日の夜。


 カナの部屋はフェンスの内側で城壁の外にある。兵卒の寮と同じ建物で、別の出入口があり、中では一応繋がっていても行き来はまずない。些細な横槍はすぐ近くの軍人たちが鎮圧し、大掛かりな連中はもっと狙うべきランドマークがすぐ近くにある。護衛こそつけにくいが、同時に見張りもない。最初から誰にも狙われない立ち回りを続ける限りは便利な場所だ。


 真っ当な入口には警備の目がある。事前に話が通った客人以外は、通常ならば決して訪れない。今夜、カナを訪ねた彼女は、真っ当でない移動で訪れた。窓を叩く音に顔を向けると、カーテン越しに手を振る仕草が見える。窓を開けたら靴を脱いで入ってくる。髪が白で、皮膚が黒で、服が赤。都市伝説の本人、マコだ。


「なぜ来た?」

「連絡にね。明日すぐに部屋を移動して。この部屋ではきみが死ぬだけになる」

「詳細を」

「エムの三十七番が来る。刺し違えて」


 ここまで話しながら、マコは勝手に椅子を使った。ダイニングチェア、非常時に脚を持って振り回せば背もたれの刺股に似た形で戦える。座り心地は凡庸で、最悪を免れただけの安物だ。あまり重くできない都合で仕方がない。合点したらカナを見つめて、手のひらを見せた。


「その手は?」

「私は客人だよ。何を出してくれるのかな」

「見ての通り、私はパジャマだけど」

「その三つ編みもカワイイぞ。厨房向きでもある」


 尊大な振る舞いにため息で返し、追加の話を要求した。エムがこれまでどんな失敗をしたのか、今日になるまで達成できなかった理由に興味が出る。返事の代わりに紅茶をリクエストするので、無視して注ぐだけの飲み物を置いた。水面を揺らしながらも溢さない、縦長のコップに半分だけ。


「スクリュードライバー、いや、ただのオレンジジュースね。丸くなったねえシイちゃんや」

「気持ち悪い。やめてねその呼び方。それでどんな失敗を? 残ってるのはアナグマの奴だけでしょう」

「今の世代はだいぶ逸材が揃ってる。ギフトと周りの連中で余計な化学反応まで起こしたそうでね。これでもうまくやった方だってさ」


 テーブルには一人分のコップと、挟むように二人。マコが汚い足を乗せようとするたびに、カナは膝を掴んで放り投げる。


「この部屋の問題も言え」

「離れて燃やすだけで片付ける。そういう奴が来る」

「そいつがギフト?」

「別だね。影響されたのでもない」

「狂人《キレた奴》。初めてじゃない」


 空のコップの下半分を向けておかわりを要求し、その仕草を飲み終えだと意図的な曲解をして受け取る。タンクの水で濯いで流す。話は終わりだ。明日には百年計画も。


 マコは立ち上がった。窓へ向かい、最後に伝言を確認する。カナは沈黙で見送り、クレセント錠で締め出した。カーテンも閉めて、シルエットだけで跳び去ったと確認したら、改めてベッドに体重を預ける。


 ようやく終わりがくる。今更になって数日は誤差に思えても、いざ目の前に来たら喜びは大きい。カナはこの日のために、世の人間より長い年月を生かされてきた。帝国に送り込まれてからは変な男が毎夜のように入ってくる。駒に生まれた者の定めだ。エムもオリジナルの他は同じだろうに、奇特な奴らだ。


 次があるなら、アナグマがいい。

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