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聖女の代行、はじめました。  作者: みるくてぃー
聖女達は悲しみを乗り越えて
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第18話 突然の申し出

「おかえりなさいお姉ちゃん」

 私の姿を見るなり飛びついてきた妹のリィナを両手で受け止め、一ヶ月ぶり妹エキス……コホン、姉妹の再会を喜ぶ私たち。

 ズラリと並んだ騎士様の姿に、若干怯えていたのはこの際見なかったことにしよう。


「ただいまリィナ」

「ふぎゅ」

 ポケットから苦しそうなライムの声が聞こえてくる。いつもより一段とキツくハグしたせいで、板挟みになってしまったのだろう。ごめんすっかり忘れてたわ。


「ごめんライム、大丈夫?」

「ひどいですよぉー」

 ポケットから顔だけを出して抗議してくるライム。だけどすぐに表情が柔らかくなり、私とリィナに笑顔を向けてくる。

 ライムにとってもリィナは家族であり妹のような存在だからね、再会は私と同じぐらい嬉しいのだろう。


「お姉ちゃんこの人は?」

 一時肌の温もりを堪能した後、私に抱かれたリィナが隣に立つユフィに顔だけを向けながら尋ねてくる。

「友達のユフィよ。聞いて驚きなさい、ユフィはこの国のお姫様なんだから」

 女の子なら誰しも一度は憧れたことがあるのではないだろうか、自分をお姫様に例え、白馬に乗った王子様が迎えに来てくれる。そんな夢のような物語を。

 えっ、似合わないって? う、うるさいわね、私だって女の子なんだから!


「初めまして、ユフィーリア・F・アルタイルといいます。リィナちゃんのことはティナから聞いて、ずっと会いたいと思っていたんです。よかったら仲良くしてくださいね」

 ユフィがリィナに対して、スカートを両手でつまみ淑女のカーテシーで挨拶をする。すると、リィナは私の腕から離れ、ユフィと同じようにカーテシーで挨拶を返した。

「初めましてユフィーリア様、リィナでございます」

「あら、ふふふ。ご丁寧にありがとうございます」

 あぁ、何かいい。まだまだ不慣れな挨拶を一生懸命に頑張るリィナの姿、めっちゃ可愛い。このままずっと見ていたい……。


「って、なんでそんな挨拶知ってるのよ」

 カーテシーなんて私もお母さんも教えたことはなかったわよね。そもそも私ですら使ったことがないわよ。


「嬢ちゃんが居ない間エステラが張り切ってな、リィナに礼儀作法を教えたり学校に通わせたりさせてんだ」

 私の問いに答えてくださったのは、リィナの後ろに控えられておられたこの地の領主であるクラウス様。今日は流石に街にお忍びで出かける地味な服装ではなく、領主であることを感じさせるような立派な服に身を包んでおられる。


「ユフィーリア王女殿下、ご無沙汰しております。クラウス・ソルティアルにございます」

 クラウス様がユフィの前に出て挨拶をされる。こうして家臣の礼をとる姿を見ると、改めて目の前の人がただの厳ついおっちゃんでないことを思い出させる。

「クラウス様、この度は非公式の訪問ですのでお気遣いは無用です。私はただのティナの友人だとお考えください」

 いやいやいや、無理だってば。私だけでなくクラウス様の表情からも同じことを言ってる感じがする。そもそもこの大人数で押し掛けておいて、今更非公式もないんじゃないだろうか。


「お心遣い、痛み入ります。簡単ではございますが、お食事のご用意をしております。王都のように十分なおもてなしはできませんが、まずは旅の疲れをお取りください」

 いつまでもお屋敷の外で話していては護衛の騎士様たちも休めないからね。ここはクラウス様のお言葉通りお屋敷の中へと足を運ぶ。


「すみませんクラウス様、こんなことになってしまって」

 部屋へと案内される道すがら、歩調をクラウス様に合わせて小さな声で謝罪をする。

「構わんさ。とはいえ、最初陛下から手紙が送られて来た時は正直ビビっちまったがな」

「あははは、ですよねー。私は今日聞かされて逃げ出したくなりましたよ」

 いくらソルティアルが王都から近いといっても、そうそう王族の方が足を運ぶなんてことはないだろうから、恐らく相当驚かれたんだろうと思う。


「まぁ、大体の事情は聞いているから大丈夫だ。騎士団が警護に当たってくれるって話だから心配いらんだろうが、後で少し話いいか? 聞きたいことが色々あるんでな」

「分かりました」

 私としてもリィナのお礼やご挨拶も十分にできていないから、後でお部屋にでも伺おうとしていたので問題ない。クラウス様にしても状況を把握しておかないと警備の問題なんかにも支障が出てしまうだろう。一般には公開されていないが、ユフィが何者かに暗殺されかかったことは耳に入っているに違いない。ここは一度ゆっくりご説明をした方が、ユフィの警護にも活かせるってものだ。

 それだけ確認し合うと再びリィナとユフィに追いつき、私たちに割り当てられた部屋へとたどり着く。


「で、なんで私とユフィが同じ部屋なの?」

 数少ないお屋敷のメイドさんに案内された部屋は、私が以前お借りしていたリィナと同じ部屋、ではなく客人を迎えるために用意されたファミリー用の大きな部屋。

 流石に以前お城で案内された規格外の豪華さとは程遠いが、それでも平民出の私からすればどれも豪華な装飾に見劣りしてしまう。


「私がお願いしたんです。ティナと同じ部屋がいいって」

 まぁ、そんなことだろうとは思ったけど、私はリィナと一緒に寝たかったのよ!

「ダメでしたか?」

 少し寂しそうにユフィが見つめてくる。

「いや、ダメって訳じゃないよ。私だってユフィと同じ部屋は嬉しいけどリィナだけ別っていうのが」

 これじゃ私とユフィがリィナだけを除け者にしているようで何だかスッキリしない。まぁ、私とリィナが一緒に寝たら、今度はユフィを除け者にしているようで嫌な気分になってしまうのだが。


「それじゃリィナちゃんも一緒にこの部屋にお呼びすればいいのでは? ベッドも大きいですので、三人一緒に寝るぐらいのスペースはあるんですし」

 をを、それは盲点だったわ。

「ナイスよユフィ、それ採用」

 うん、それなら一晩リィナを堪能でき、ユフィにも嫌な思いをさせなくてすむ。これぞ一石三鳥。

 ……気のせいかもしれないけど、ユフィって私の扱い上手くなってない?






「どう? お姉ちゃん」

「うん、めっちゃ可愛い」

 ニヤけた顔でグーサインをリィナに送る。

 昼食をいただいた後、リィナが私たちにダンスを披露したいと言い出し二つ返事でOKした。

 何でも私が王都に行っている間、エステラ様がリィナに色んなことを教えてくださっているんだという。いずれ社交界デビューをさせるんだと笑顔で教えてくれた。

 あっれー、私よりリィナの方が成長している気がするのは何でだろう。


「お姉ちゃんそれ感想になってないよ」

 何故か私の称賛に口を尖らせる可愛いリィナ。

「リィナちゃん、その年でもうダンスを踊れるんですね。今度は私と踊ってもらってもいいですか?」

「ホント!? ユフィお姉ちゃん」

 そう言ってリィナがユフィの手を引いて再び部屋の中央へと向かう。

 って、いつの間にユフィがお姉ちゃんになってるのよ!


「ふふ、ユフィーリア様にリィナを取られちゃったわね」

 隣で見ていたエステラ様が私に話しかけて来る。

「あの、色々ありがとうございます。リィナを学校まで通わせていただいているそうで」

「いいのよ、私がしたいと思っただけだから」

 リィナを学校に通わせることを忘れていた訳ではない。通わせる余裕がなかったことは否定できないが、平民が一・二年ずれて入学するのはさほど珍しくないので、できれば来年から何とか都合をつけられるようにとは考えていた。


 この国での学校は初等部・中等部・高等部と分かれており、それぞれ二年単位で上の学部に上がっていく。学部の内容は初等部が主に文字の読み書きや簡単な計算を学べ、平民でも気軽に通える学費に抑えられているが、中等部から一気に学業のレベルが上がり、学費もそれに伴い高くなる。だけど平民が中等部を卒業するだけで働ける仕事が増え給金もそれなりに高くなるので、少し余裕のある家は無理をしてでも中等部まで通わせるところも少なくはない。

 また、高等部に至っては地方では通える施設がない上、学業の内容が礼儀作法やダンス等平民には全く役に立たないものばかりなので、余程の金持ちが貴族との繋がりを求めて通わせる程度にしか役に立っていない。


「それにしてもリィナは筋がいいわよ、ダンスも礼儀作法も少し教えるだけですぐに覚えちゃうんですもの。まだ少し違和感はあるけれど、何ていうのかしら。ティナに教えた時も思ったのだけれど、一つ一つの動作がごく自然に振舞えているのよ、まるで今まで習っていたんじゃないかってぐらいにね」

 あぁ、そういえば私たちってお母さんとお父さんを見て育ってきたからね。二人とも貴族だってことが分かったから、私生活での動きが自然と目に焼き付いているのだろう。もしかして知らぬ間に両親の動きを真似していたのかもしれないが。


「まぁ、私たち姉妹には宝の持ち腐れのような気はしますけれど」

 エステラ様には申し訳ないが、いずれ生まれた街に帰るつもりなので、ダンスや礼儀作法は余り意味がなさないだろう。

「ねぇ、あなたたちさえ良ければこのままこの家に留まってくれてもいいのよ。知っていると思うけど私たち夫婦は子供に恵まれなかったから、二人が来てくれたお陰で屋敷内が随分明るくなったの。クラウスもリィナのことを可愛がっているし、あなたのこともずっと心配しているのよ。

 もちろんすぐに答えを出してほしいなんて思っていないから、ティナさえ良ければ一度考えてはくれないかしら?」

 突然の申し出で一瞬頭が真っ白になってしまうが、今の私にはエステラ様に返せる言葉を持ち合わせていない。

 いや、答えはもう出ているのかもしれない。そんなのは不可能だと。


 王妃様から聞かされた話では、どうやらお祖父さんとお祖母さんはそれほど悪くない人なのかもしれないが、流石に侯爵家を無視してこちらにお世話になる訳にはいかないだろう。更に今は父方の公爵家にまで私たち姉妹の存在は隠しているので、このことがバレでもしたらクラウス様たちに多大なご迷惑をお掛けするのが目に見えている。

 もしかすれば王妃様に助けを求めれば何とかなるかもしれないが、それでも両者の確執は大きくなってしまうだろう。何と言っても相手は上級貴族である侯爵家と公爵家、両親の実家をさておいて貴族階級が下の子爵家にお世話になるなんて、どんな圧力が掛かるか分かったもんじゃない。


 リィナもエステラ様に懐いているし、大切にしてもらっていることも十分に理解できている。この期を逃せば再び貧乏生活を過ごすことになる訳なので、リィナにとってもどちらが幸せに暮らすことができるなんて私にだって分かっている。

 だけど……

 

「……申し訳ございません」

 私はただ俯いて一言口にするしかできなかった。


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