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破局予定の悪女のはずが、冷徹公爵様が別れてくれません!  作者: 琴子
第12章 消せない過去

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始まりの違和感 3



 大勢の騎士に囲まれた私は聖女らしい純白の服を着ているし、一目瞭然だろう。


 ぶわっと波のように声は広がっていき、大通りにいた全員がこちらを向く。近くの店の中にいた人達までわざわざ出てきているほどで、大事になっていた。


「かなり注目されているな」

「は、はい……」


 背後からはシミオン様の強い視線も感じ、背筋が伸びる。


 とはいえ、平民から貴族に声をかけることは許されていないため、誰もが遠巻きにこちらを見つめているだけ。


「ここにいらっしゃったということは、リトラの浄化を終えられたのか……?」


 彼らの眼差しには、期待が含まれている。


 この町にもリトラからの避難民が大勢いると聞いているし、もう家に帰れると安心してもらうためにも、無事に浄化したことを伝えた方がいいだろう。


 けれど悲しいことに、この空気の中で「私が無事に浄化しました!」なんて大声で言えるような度胸を、私は持ち合わせていない。


 すると私の少し前を歩いていたエヴァンが「すう」と息を吸った。


「聖女グレース・センツベリー様がリトラの町、そしてこのシーウェル王国全ての瘴気を浄化してくださったぞー! これでもう安心だー!」

「えっ」


 エヴァンが口に手をあてて棒読みで大声を出し、一瞬、辺りは静寂に包まれる。


 けれど一拍置いて、割れんばかりの拍手や歓声が沸き起こり、地面が揺れた。


「やった、これでもう家に帰れるぞ!」

「ああ……聖女様、ありがとうございます!」


 町の人々は口々に喜びや感謝の言葉を口にしており、胸がいっぱいになる。改めてこの四ヶ月間の頑張りが報われた気がして、視界が滲む。


「グレース、本当にありがとう。君は立派な聖女だよ」

「……っはい」


 大好きで大切な人達が生きていく国を守れたことが、とても誇らしい。


 私はゼイン様の隣で胸を張って笑顔で手を振り、大通りを歩き続けた。



 ◇◇◇



 翌朝、宿泊先の大きなベッドでぐっすり眠って完全回復した私は身支度を整え、宿の一階にある食堂へ向かった。


 身体も気持ちも軽くて、視界も澄み渡っている。


「おはようございます。いよいよ今日はセンツベリー侯爵領へ向かう日ですね」

「おはよう、エヴァン。天気も良いし楽しみだわ」


 部屋の前で待機してくれていたエヴァンと共に、廊下を歩いていく。


「エヴァンは侯爵領内について、詳しくないのよね?」

「まあまあですね。侯爵領にはお嬢様を取り囲む蝿、いえ、担当達がいたので。あまりお嬢様と出歩くことはありませんでした」

「蠅……? 担当……?」


 一体何のことだろうと軽く首を傾げながら、食堂へ足を踏み入れる。


「おはようございます」

「ああ、聖女様! おはようございます」


 宿の女主人は美味しそうな香りが漂う料理を両手に抱えており、お腹が鳴った。


 既に食堂にはゼイン様の姿があり、今朝も爽やかな彼は、私を見て薄く微笑んだ。


「おはよう、グレース。よく眠れたか」

「おはようございます、ゼイン様! お蔭様でぐっすりで」


 ゼイン様もゆっくり休めたそうで、安心した。


 それからは焼きたてのパンやサラダ、スープをお腹いっぱい食べ、食後のデザートと紅茶までいただいてしまった。


「ご馳走様でした、とても美味しかったです」

「公爵様や聖女様のお口に合うか不安でしたが、安心いたしました」


 話の流れでこの後は侯爵領へ行くことを話すと、女主人は心配げに眉を寄せた。


「最近はセンツベリー侯爵領の近くの町にも魔物がよく出るようですから、お気をつけて向かってくださいね」

「えっ?」


 初めて聞く話に驚きの声を漏らすと、女主人もまた驚いた顔をする。


「リトラ以外の都市にも魔物が出ているんですか……?」

「はい。ご存知ありませんか?」


 ゼイン様やエヴァンへ視線を向けると、二人は知っている様子だった。


 瘴気とは無関係の地域だし、私にはあえて伝えていなかったのかもしれない。私は瘴気の浄化や怪我の治癒しかできず、魔物を倒すことはできないからだ。


「彼女の言うことは事実だ。最近、都市部でも魔物の被害が起きている。それも瘴気の被害とは関係のない場所だというのに」

「そんな、どうして……」


 魔物はそもそも、都市部には出ないとされている。


 だからこそ備えも不十分だろうし、住民の混乱や恐怖も大きくなることを思うと、その被害はかなりのものだろう。


 戸惑う私に、ゼイン様は続けた。


「特に侯爵領と隣接している、グラッケという都市でよく事件が起こっているんだ」

「それも貴族令嬢ばかりが狙われているんです。魔物には襲う人間を選ぶほどの知能はないと言われているのに、おかしなこともあるんですね」


 ゼイン様やエヴァンから詳しい話を聞きながら、私は胸の奥がざわつくような、妙な違和感を感じていた。


「……とにかく、今も魔物に怯える人々がいるんですね」


 瘴気さえ浄化すればみんなが安心して暮らせると思っていたのに、まだ問題は尽きないようで、胸が痛んだ。


「既に騎士団が調査をしているものの、原因は不明だそうだ。君を侯爵領へ送り届けた後に、俺が様子を見に行くよ。何か手伝えることがあるかもしれない」


 そんな私の心配や不安を汲んでか、ゼイン様はそう言ってくれる。私は少し悩んだ末、口を開いた。


「私も一緒に行ってもいいですか?」

「君は休んでいてくれ。俺一人で行く」

「……上手く言葉にできないんですが、無性に引っかかるんです」


 こういう時、私の勘というのはよく当たる。


 それに今の私は魔物を倒すことはできなくとも、怪我を治したり魔物による穢れの浄化治療をしたりできるのだから、決して無力ではないはず。


「ゼイン様とエヴァンがいてくれれば安心ですから。少しだけ見に行って、お話を聞いて帰ります。危険を感じたらすぐに逃げますし!」


 お願いしますと両手を握りしめ、上目遣いで見つめる。


 よくないとは分かっているけれど、ゼイン様は私のこういった仕草やお願いに弱いことに、最近気付いてしまった。


「…………」

「ゼイン様、お願いします」


 しばらく無言だったものの、ダメ押しで再度お願いすると、ゼイン様は小さく息を吐き「分かった」と頷いてくれた。


 一部始終を見ていたエヴァンは「よっ、悪い女!」と何故か拍手をしている。


「ただし、絶対に勝手な行動や危険な真似はしないでくれ」

「もちろんです! ありがとうございます」


 無事に交渉成立し、胸を撫で下ろす。


 この町を出た後、まずは伯爵領の端にあるグラッケに向かうこととなった。


 今出発すれば夕方には到着するらしく、軽く話を聞いてから侯爵領へ移動しても、夕食の時間には間に合うそうだ。


 少しでも何か力になれることがあるよう祈りながら、膝の上で両手を握りしめた。


 

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