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破局予定の悪女のはずが、冷徹公爵様が別れてくれません!  作者: 琴子
第12章 消せない過去

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始まりの違和感 2



 エヴァンとゼイン様が魔物を倒してくれる中、私は時折足を止め、浄化していく。中心に近付いていくにつれ、魔物の強さが増していくのが分かる。


「なんて、酷いの……」


 やがて到着した町の中央広場は、近付けないほど濃い瘴気に包まれていた。


 やはりこれまでのどの場所よりも酷くて、呼吸をするのも躊躇われる。


「頼むから無理はしないでくれ。君さえ無事なら、何度でもやり直せる。一度引いて体制を立て直してから、来たっていいんだ」

「はい、ありがとうございます」


 既にここに来るまでに私が魔力も体力もかなり消費したことを気遣い、ゼイン様はそっと背中を撫でてくれる。


「でも、大丈夫です。もう少しだけやってみます」


 周りに心配をかけないよう笑顔を作りながら、必死に魔力を放出していく。


「…………っ」


 それでも途中で、残りの魔力では全てを浄化できないと察してしまった。これまで国中の瘴気を浄化してきた経験からして、間違いないだろう。


 後少しというところだったのに、これまでの頑張りが全て無駄になると思うと、目の前が真っ暗になった。


 瘴気や魔物だってまた増えるだろうし、私だけではなく、ゼイン様やエヴァン、騎士の人々の努力も失われてしまう。


「どうすれば……っう……」


 もう本当に限界は目の前で、身体のあちこちが軋み始める。それでも諦めたくなくて、諦められなくて、浄化する手を止められない。


「グレース! もうやめていい、やめてくれ」


 ゼイン様も私の限界が近いことに気付き、止めるように私の腕を掴んだ。


「魔力切れを起こせば、君の身体がもたない」

「でも、このままじゃ──っ」


 彼の言うことは正しいと分かっていても、諦めきれずにいた時だった。


 ぱあっとゼイン様が触れている箇所が光り、温かい何かが身体に流れ込んでくる。


「な、なに……?」


 私だけでなく、ゼイン様も困惑した表情を浮かべていた。


 戸惑いながらも浄化を続けていた私は、魔力の減りがなくなっていくこと──むしろ魔力が増えていくことに気付く。


 そして、ゼイン様から流れ込んでくる「何か」が魔力だということにも。


「……どうして」


 他人から魔力を供給できるなんて話、聞いたことがない。


 理由は分からないけれど、魔力切れを起こしていた今、こんな奇跡に縋る以外の選択肢などないだろう。


 魔力感知やコントロールに長けているゼイン様も、自分の魔力が私に供給されていることに気付いたようだった。


「このまま魔力、お借りしてもいいですか……?」

「君の身体に問題がないのなら、いくらでも。返さなくていい」


 ふっと笑うゼイン様の温かい魔力で、身体中が満たされていく。魔力の問題がなくなる一方で、まだあちこちがずきずきと痛み、私の身体の限界が近付いていることに変わりはないようだった。


 それでも周りに悟られまいと痛みを堪え、唇を真横に引き結んだ。


「瘴気が……」


 エヴァンの戸惑いの声が耳に届く中、ゼイン様の魔力が私の魔力と混ざり合い、聖魔法となって瘴気を消していく。


 こんな展開、小説でだって見たことがなかった。


「お願い……もう少しだけ……!」


 けれどこの力のお蔭で、あと一歩が届く。


 そして完全に気配が消えたのを確認すると同時に、私は全身の力が抜けてしまい、すぐに支えてくれたゼイン様の腕の中に倒れ込んだ。



 ◇◇◇



 無事にリトラの浄化を終えた後は、全ての人々にたくさんの感謝をされた。


 これでシーウェル王国内の、全ての瘴気の浄化を完了したことになる。


「聖女様、本当にありがとうございました……!」

「グレース様のお蔭で、この国は救われました」

「いえ、みなさんのお蔭です。本当にお疲れ様でした」


 ゼイン様のお蔭でまだ残っている魔力で怪我人の治療をしている間も、誰もが安堵に満ちた表情を浮かべていて、瘴気への不安を抱えていたのが窺える。


 私自身も全ての頑張りが報われた気がして、安堵感や達成感に包まれていた。


「聖女様の治癒魔法はすごいですね。俺達はずっと薬頼りだったので、とても助かります」

「いえ。何か怪我に効く薬があるんですか?」

「クラーク堂という良い薬屋があって、そこの薬は何でも効くと評判なんです」


 この辺りの騎士の人々は皆、そこの薬を使っているんだとか。色んな薬があるらしく、そんなに効くのなら、ぜひ一度行ってみたい。


 無事に治療を終えた後は、ゼイン様とエヴァンの元へ向かった。


「いやあ、疲れましたね。なんだかんだあっという間ではありましたが」

「エヴァンも本当にありがとう。それにしてもあの現象、なんだったのかしら……」

「魔力を他人に分け与えるなんて話、聞いたことがない」


 やはりゼイン様も同じらしく、疑問は募っていくばかり。


「……何も起きませんね」

「ああ」


 再びゼイン様に触れてもらっても、魔力が流れこんできたりはしない。ゼイン様の主人公パワーによって起きた、一度きりの奇跡だったりするのだろうか。


「もしかして、フィランダーが言っていたことに関係してる……?」


 そしてふと彼が話していた「聖女の成り立ち」を思い出す。神様が人間の女性に力を分け与えた、という言葉がこの現象に関連していても、おかしくはない。


「……フィランダー?」

「い、いえ! 何でもありません!」


 眉を顰め、低い声を出したゼイン様に慌てて笑顔を向ける。


 いずれはゼドニークに行くことも伝えなければいけないけれど、今のこの明るいムードの中で話すべきではない。

このことについてはいずれ、ゼドニークで調べてみるのがいいだろう。


 そんなことを考えながら馬車に乗り込むと、一気に疲れが押し寄せてきた。


「ふわあ……」


 やはりもう身体は限界らしく、ゆっくりと睡魔が襲ってくる。すると隣に座るゼイン様は、私の頭をそっと自身の頭に預けさせた。


「到着まで眠ってくれて構わない」

「い、いえ! 平気です、すみません!」

「お嬢様は寝顔がとても間抜けなのを気にされているんです。疲れも溜まっているでしょうし、気にしないと言ってあげてください」


 半端な気遣いをしてくれるエヴァンに、心の中で涙を流す。


 身体のことを心配してくれる気持ちはとてもとても嬉しいけれど、私の乙女心にも少しだけ配慮してくれると心から助かる。


「俺はどんな君でも好きだし、気にしないよ」


 ゼイン様は愛おしげに、少し乱れてしまっていた私の前髪に触れた。


「それにいずれ、毎日見ることになるんだ」


 どんな意味なのかすぐに理解してしまい、顔が一気に熱くなる。エヴァンも「ひゅーひゅー」と適当な冷やかしをするものだから、余計に恥ずかしくて仕方ない。


「つ、着いたみたいですよ! 降りましょう!」


 そんな話をしているうちに、私達を乗せた馬車は近くの町に到着した。


 この空気から逃れられることに安堵しつつ、ゼイン様の手をとって馬車を降りる。


「グレース」


 すると途中、不意にゼイン様にぐっと引き寄せられた。


「俺は一日足りとも君を一人で寝かすつもりはないから、覚悟しておいて」

「…………っ」


 そして耳元でそんなことを囁かれ、危うく足を踏み外すかと思った。


 なんとか呼吸を整えて辺りを見回すと、たくさんの人や店で溢れる、とても賑やかな街並みが広がっていた。


 町民が一人もいない状態のリトラから来たから、尚更そう思えるのかもしれない。


「なあ、もしかしてあちらは聖女様ご一行じゃないか……?」

「きっと聖女様よ! 聖女様がいらっしゃったわ!」


 私達に続いて馬車移動をしていたシミオン様や、馬に乗っていた騎士達もぞろぞろと降り立ったことで、辺りにいた人々の注目が向けられた。


 

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