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536話「石鹸作り」




「さあ、ここからは実際に石鹸を作ってみようか」



 オラルガンドの工房に入った俺は、さっそく石鹸作りを開始する。石鹸の作り方は、なんとなくは理解しているものの、実際に日常生活において手作りで石鹸を作ったことのある人間は少ないだろう。



 改めて石鹸の作り方を確認すると、石鹸は油と苛性ソーダと呼ばれる水酸化ナトリウムを混ぜ合わせることで石鹸ができるのだが、難しい点があるとすれば、苛性ソーダと油の温度を同じにするところだ。



 おおよそ三十五度から四十五度の温度にすることで石鹸が固まりやすくなり、逆にこの温度でないとうまく固まらないため、失敗する原因となる。



 まずは、手に入れた石灰結晶を細かく砕き水と混ぜ合わせ水溶液を作る。



「ん? なんか沸騰してる?」



 どうやら、地球での苛性ソーダと同じく水に入れることで熱が発生するらしく、湯気のようなものが立ち込めている。念のため風通しのいい場所に移動し、その湯気を吸わないように注意する。



 水溶液ができたら油を準備してこの二つを混ぜ合わせていく。ポイントとしては、このとき油と水溶液の温度を固まりやすい温度にまで保っておくことであり、さっそく温度調整を行い三十五度から四十五度の間になるようにする。



「まーぜませ。まーぜませ」



 適切な温度にまでなったら、飛び散らないように慎重に加えながら油と水溶液を混ぜていく。大体ニ十分くらい混ぜ合わせると、多少粘り気のようなものが出てくるので、型を取るための容器に移す。ちなみに、容器はその場で作った。



「で、ここから保温しながら一日くらい放置するんだっけ」



 型に流し込んだ石鹸を保温しながら一日放置し、いい感じに固まるのを待つ。当然だが、一日も待てないので魔法を使ってショートカットをする。



 石鹸が固まったら、型から取り出し、使いやすい大きさにカットする。



「あとは、これを大体一か月くらい乾燥させて完成だな。まあ、そこは魔法でちょちょいのちょっとね」



 再び魔法の力で乾燥の時間をショートカットし、意外とあっさり石鹸が完成する。



 作業に慣れてしまえば意外と簡単だった。難しいのは温度管理で、もしこれを俺以外の人間に作らせるとなれば、なにか温度管理がやりやすい道具を用意する必要がある。



「どれ、使ってみるか」



 完成した石鹸を確かめるべく、俺は一度工房の外に出て手を地面に擦りつける。土くれの付いた手を石鹸を使って洗ってみたところ、手に付着した汚れはみるみるうちに綺麗になっていった。



「うん、上手くできたようだ。あとは、これを量産できる体制を作るだけだが……プロト、できるか?」


「お任せくださいムー」



 そう言いながら胸をトンと叩いたのは、今まで俺の石鹸作りを見ていたプロトだった。石鹸を量産するとなれば、人の手ではなく職人ゴーレムたちを使った方法となるだろうと思ったので、俺が石鹸を作るところを見せていたのだ。



 プロトの指示に従って、職人ゴーレムたちが動き始める。工程としては、石灰結晶の水溶液の作製と温度調節をしながらそれを油と合成し、適切な温度を保ちつつ型に流し込んだ石鹸が固まるのを待つといった具合なのだが……。



「そこ、もう少し手早く混ぜるムー」


「ムー」


「そこのゴーレムは、温度調節をしっかりとするムー」


「ムー」



 改善するべき点を的確に指示し、みるみるうちに生産ラインの質が向上していくのがわかる。その姿はまるで本当の機械仕掛けの工場のようで、なかなかに見応えがあった。



 そうこうしているうちに、職人ゴーレムたちによる石鹸も完成する。見た目は俺が作ったものと遜色なく、これならばまったく問題なく使用が可能だ。



「問題なさそうだな。すぐに生産ラインを増やして量産体制に入ってくれ。ゴーレムの数が足りなければ増やしていいからな」


「了解ですムー」



 そういうが早いか、すぐに職人ゴーレムたちを増やし始めるプロト。指示を出してからそれほど時間もかからず生産ラインが増え始める。



 とりあえずは、王都に住む住人に行き渡るくらいの量を生産しなければならない。一人一個と考えても、最低でも百万個は必要になる計算となる。国内全域となれば、その十倍以上の量が必要となるが、それだけの生産するための素材が確保できるかが問題だ。



「マンドラに言って、油の生産量を増やすか」



 石灰結晶についてはレオにも指示を出したので、必要な量は確保できる。だが、もう一つの材料である油の確保の目途が立っていない。



 油自体の生産量に関しては、主に食用に使う目的で生産しているため、それほど生産量が多いわけではない。石鹸の材料として些か生産量が心許なく、今のままだと油の方が先に底をついてしまうのは明白だ。



 であるならば、生産量自体を増やせばいいだけの話であり、うちにはそれを可能とする人材も揃っている。……この場合モンスターだから、モン材と言うべきなのか?



 まあ、そんなことはどうでもいいとして、さっそくマンドラに指示を出し、油の生産量を増やしてもらうことにした。



「とりあえずはこんなものか」



 各方面に指示を出し、元の世界である地球ではありえない速度で生産ラインが構築されていく光景に、なにやら複雑な思いがあるが、これで石鹸の確保は問題ないはずだ。



 となってくればだ。急に手持無沙汰となってしまった。これから、どうするべきだろう。



「そうだな。ここはひとつ。労働者に対する労いの意味でもいろいろと動くべきだな」



 そう呟くと、俺はある場所へと瞬間移動した。

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