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535話「石灰結晶を手に入れる」



「これはどういう状況だ?」



 そこには、数百体という数のモンスターが平伏し、まるで神がやってきたかのような異様な光景に包まれていた。一体全体どうしたものかと考えていると、ちょうどそこにこの農園の運営を任せている俺の召喚獣エルダークイーンアルラウネのマンドラとサキュバスクイーンのイリネベラが片膝をついていたので、どういうことか聞いてみた。



「神格を得て神の末席へと加えられたこと、おめでとうございます」


「……」



 どうやら、俺との繋がりがある召喚獣たちは俺があの神の眷属になったことが伝わっているらしい。召喚獣たちのステータスを確認してみると、以前よりも桁違いに強くなっており、さすがにこれはいくらなんでもごまかしきれないレベルだ。



「まあ、成り行きでそうなってしまったが、そういうことだ」


「ご主人様ならいずれ神格を得られるとは思っておりましたが、まさかこれほど早く神になられるとは……。さすがですわ!」


「まったくです」


「ところで、レオはいるか?」



 もういっそのこと神の眷属になったことをバラしてしまってもいいとは思うが、召喚獣たちにとって神になったことが重要みたいらしく、特に眷属云々については話さないでおいた。



 それよりも、今石鹸の材料となる石灰結晶を手に入れるべく動くことにする。確か、西側の山脈すべてが鉱床だとプロトが言っていたな。さっそく、そこに向かうことにする。



「主、神になったのか?」


「まあ、成り行きでな」


「ふっ、主ならそうなると思っていた。ところで、なにかあったか」


「ああ、ここらの山に石灰結晶というものが眠っているらしいのだが、聞いたことはあるか?」


「ふむ、おそらくはあの白い結晶のことだろう。ついてこい」



 先ほどのマンドラたちと似たやり取りを行ったあと、レオの案内で石灰結晶があるという山脈へと向かう。



 そこには切り立った大きな崖のような巨大な岩の塊のような壁があり、至るところに白い石が混ざっている。おそらくは石灰結晶の断層のようなもので、一定の層が石灰結晶になっている様子だ。



 解析してみると、やはりその白い断層の部分が石灰結晶であるらしく、本日の目的の品物がすぐに見つかった。



「うん、これだ」



 俺はすぐさま石灰結晶の断層部分を魔法で切り取り、余分な岩部分を取り除いてストレージにぶち込んでいく。軽く見積もっても、それだけで数トンという重さがあり、さらにはその周辺一帯が鉱床となっていることを考えれば、山まるごとが石灰結晶ということになり、その量は途方もない。



 どれだけの量があるのかはわからないが、最低でも数千億トン。下手をすれば数兆トンという規模の石灰結晶が埋まっているだろう。掘り出すだけでもかなりの時間がかかる。



「その石が欲しいのか?」


「ああ、できれば定期的に手に入れたい」


「承知した。部下たちを使って掘り起こさせよう」



 こうして、その日のうちに石灰結晶を手に入れることができ、その後の入手ルートについてもレオが請け負ってくれると言ってくれたため、任せることにした。



 ひとまずは、石鹸の試作品を作るべくオラルガンドの工房に向かおうとしたのだが、ここでレオの待ったがかかった。



「主。主が忙しいのはわかっているが、神となった姿をクラークにも見せてやってはくれないだろうか?」


「……わかった」



 そういえば、海側を担当しているオクトパスのクラークに会っていなかったな。そのことをレオから指摘されたため、用はなかったがクラークにも神になったことを報告した。



「さすがは主。いずれそうなるとは思っていましたが、意外に神になるのが早かったですね」


「……」



 なぜ、うちの召喚獣たちは口を揃えて俺が神になるということが既定路線のように話すのだろうか? ……解せぬ。



 俺が神になってしまったのは、この世界の神から神気を学ぶために必要に駆られて致し方なくであり、決して俺に神としての資格や器があったからではない。



 そもそも、神気などという謎めいた力があること自体が初耳だったし、あの神の口ぶりからして眷属になるというのも必要だからという理由ではなく、神気を扱うための表面上の理由付けのようなものだ。実際、やつの眷属にならなくとも神気自体を会得することはできただろう。



 とにかくだ。俺が神になったのは事故のようなものであり、最初からそうなることが決まっていたわけではないということだけは声を大にして言いたい。



 そんなわけでだ。石鹸を作るための材料である石灰結晶を手に入れた俺は、モンスター農園をあとにし、オラルガンドの自宅にある工房へと移動した。

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