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531話「眷属になった弊害」



「ふう、やれやれだな」



 ゲルロボスとの死闘を繰り広げたあと、そう独り言ちながら俺は立ち上がる。消耗が激しかったためしばらく動けずにいたが、ようやく動けるようになった。



 あれほどまでに神気と神威の修行をしたにもかかわらず、ゲルロボスとの決着はぎりぎりの瀬戸際だった。まさに辛勝だが、勝ちは勝ちである。



「まだまだ修行が足りんな。ゲルロボスを余裕で仕留められるようになるには、さらに十万年の時間がかかりそうだ」



 ゲルロボスの死に際に放った一言……「俺の他にもオファリは存在する」という言葉が気になっていた。



 やつの口調から自分などオファリの中では下っ端もいいところだという風に聞こえた。



「まるでラデ〇ッツを倒したときの孫〇空の気分だな」



 某有名少年漫画の登場人物の状況を例えに出しながら、俺は眉間にしわを寄せる。ゲルロボスの言葉では、すでにゲルロボスが倒されたという情報は、他のオファリに伝わっているとのことらしい。



 オファリという存在がどういったものなのかというのは未だわからない部分がある。仲間がやられた際にどういった動きを見せるのか、こちらを警戒することは想像に難くないが、やつらが義理堅い精神を持っていた場合、報復に出るということも考えられる。



 もっとも、仲間がやられている以上、軽率に攻撃を仕掛けてくるとは思えない。だが、連中の行動パターンを理解していない現状では、その可能性も捨てきれない。



「とにかく、早急なレベルアップが必要だ」



 神気を習得したことで確実に強くなっていることは確実だ。だが、それでもオファリという未知なる存在に対抗するには、さらなるレベルアップが必要であると感じざるを得ない。



 ひとまずは今後の課題をこなしつつ来る戦いに備えると決め、俺はその場をあとにした。



 後日談だが、ゲルロボスとの死闘から数日後、目を覚ました貴族たちが自身の犯した罪を清算するべく、王城にやってきたことで騒ぎになっていたが、そのことをあらかじめ国王をはじめとする上層部には伝えていたため、その騒ぎはすぐに終息に向かっていくのだった。






 ――――――――――――





「ふう、なんかここに戻ってくるのも久々な気がする」



 精神体のみであったが、ゴウニーヤコバーンのいる神域で十万年も修行していた弊害なのか、王都の屋敷がとても懐かしいという気分になる。実質的にそれほど時間が経過しているわけではないし、体自体にも変化はないのだが、やはりというべきか十万年という時の経過にはそれなりに影響があったようだ。



「ローランド様、おかえりなさいま――」


「ん? どうしたソバス?」



 いつも不思議だが、俺が屋敷に戻ると、間を置かずにソバスが部屋へとやってくる。あまりに早すぎるタイミングにずっと待機しているのではないかと疑いなくなるほどであった。



 ところが、今回予想だにしない出来事が起こった。いつも通りやってきたソバスだったが、俺を視界に捉えた瞬間固まってしまい、そのまま床へと倒れ込んだのだ。



「ソバス! おい、どうしたんだ!? なにがあった」


「……」



 慌てて駆け寄り体を揺すってみたが、反応はない。息をしていることから死んではいないものの、いきなり気絶した原因がわからない。



 それから、誰か人を呼んで対処をさせようとしたのだが、新たにやってきたメイドも同じく倒れてしまったのだ。



「一体なにが、どうなっている?」



 状況が理解できなかった俺は、慌ててゴウニーヤコバーンに連絡を取った。やつの眷属となったことで、やつに直接連絡する手段を手に入れたのだ。



「……という状況なんだが、これって俺が原因だよな?」


『そうだ。吾輩の眷属になったことで、おまえの神気にあてられた結果によるものだ。まあ、命に別状はない。しばらく休ませればまた起きてくるだろう』


「どうすればいい。これじゃあ、人に会うことができないんだが?」


『神気をコントロールして、普段から体内に押し留めるようにするしかあるまい。これでも吾輩は最高神なのだ。その吾輩の眷属ともなれば、普通の人間にとっては神に等しき存在ぞ。それで対処するしかない』



 というお言葉をいただき、俺はすぐさま垂れ流しになっていた神気を体内に押し留めるよう意識する。すると、体周辺の神気が消え、一見すると普通の人間に見えなくもない状態になった。



 さらに詳しくやつの話を聞いたところ、やつの持つ神格は最高位であり、やつ自身最高神という位置づけにあるらしい。そのため、眷属とはいえその存在は神格を持った存在……すなわち神と変わらない存在へと昇華してしまったということらしい。



『まあ、そういうわけでだ。あとのことはまかせたぞ。吾輩が掴んだ情報では、ゲルロボスが消失したことで他のオファリも調査に動き始めている。近いうちにおまえの前に姿を現すだろう』


「またあんな強いやつらと戦うことになるのか」


『それもまた定めじゃ』


「うまいこと言ったつもりだろうか、全然うまくないぞ?」


『とにかく、神気は習得できたのだ。あとはそちらでなんとかするしかあるまい。じゃあの』


「待て、話はまだ終わって――切りやがった」



 まだ追及したいことがあったが、それ以上話すことはないとばかりに通信を切断されてしまった。



 やつにはやつの事情があるとはいえ、あまりに一方的な態度に若干の苛立ちを覚える。



 だが、どれだけ憤慨しようとも近いうちに再びオファリが襲ってくることは確実であり、それに対処しなければならない。事前にそのことを知っているだけでも大きなアドバンテージだが、それにしたってもう少し言い方というものがあるだろう。



「はあ」



 とりあえず、気絶した使用人をベッドへと運び終えた俺は、そのまま彼らと同じようにしばらく不貞寝をすることにしたのであった。

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