530話「決着、そして次なる脅威の胎動」
「はぁぁぁぁぁああああああ」
体に内在する神気を腰だめに構えた両手に集中させる。まばゆい光を放ちながら、それがどんどんと大きく膨れ上がっていくのを感じる。
「ふん、小賢しい。そんなものねじ伏せてくれるわ!」
ゲルロボスが再び禍無威を使う態勢に入る。禍々しいオーラが増大していき、その大きさは俺の神気と同程度だ。
集中を途切れさせることなく、神気を高める。そして、最高潮に達した瞬間、俺はそれを解き放った。
「【神威】! 【神気解放 かみはめ波】!!」
それはまさに某有名漫画に登場する主人公の必殺技であり、まごうことなきか〇はめ波である。
漫画内の説明では、亀の甲羅を背負った仙人が半生をかけて生み出した技であり、体内にある気を一点に凝縮させ、それを一気に放出するという大技らしい。
俺が使った神気開放も原理は同じであり、違いがあるとすれば一点に凝縮させたものが気ではなく神気だったというだけである。
神々しいオーラを放ちながら、俺の手元から解き放たれたかみはめ波がゲルロボスに向かって襲い掛かる。しかし、それを黙って見ているほど敵も愚かではない。
「その程度の攻撃など飲み込んでくれるわ! 【禍無威】! 【朽果息吹 ディケインドデッドリーブレス】!!」
かみはめ波に対抗するように、ゲルロボスが朽果息吹を放出する。驚いたことに、その威力と勢いはかみはめ波と拮抗しており、力と力がぶつかり合う。
かみはめ波が押したかと思えば、朽果息吹が押し戻す。両者の放った攻撃は、まさに一進一退の攻防が繰り広げられていた。
「くっ、むぅー」
「馬鹿な。この俺の攻撃と拮抗しているだと!? だが、最後に勝つのはこの俺だ!!」
しばらく拮抗していた攻防であったが、徐々にその均衡が崩れてくる。かみはめ波が押され始めたのだ。
力は互角だが、技としての練度については相手の方が高く、その差は如何ともし難い。その差によって徐々に押し込まれている。
「くっ」
「ははははは、このまま俺の力に飲み込まれるがいい!!」
このままではいずれ相手の技に飲み込まれると焦りが生じる。だが、ここで焦りを見せては、今まで修行してきた時が無駄になりすべてが元の木阿弥である。
思い出せ。あの無限にも感じた修行の時を。思い出せ。できるまで幾度も繰り返した修行の日々を。
「な、なんだと!?」
人はなにか一つの目的のために集中力を高めた時、その目的を達成するため、本来持っている力以上の能力を発揮する時がある。俗に言う火事場の馬鹿力だったり、窮鼠猫を嚙むといった土壇場で秘めていた力が発揮されるという意味なのだが、まさにそれが解放された。
先ほどまで押されていたはずのかみはめ波だったが、徐々に中央へと押し戻され、今度はこちらが優勢の状態になる。形勢逆転だ。
「ば、馬鹿な! こんな。こんなことがあっていいはずがない!!」
「これで終わりだ! かぁ~みぃ~はぁ~めぇ~はぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」
ついにはゲルロボスの攻撃すら飲み込み、やつの体全体がかみはめ波に包まれる。その瞬間、ゲルロボスの体から煙のようなものが立ち込める。どうやら体が溶けているようだ。
「ぎゃあぁぁぁぁぁあああああああああ」
まるでこの世のものとは思えないおぞましい叫び声を上げながら、悶え苦しむゲルロボスを俺はただただ見つめることしかできなかった。
しばらくしてかみはめ波が消失すると、そこには見る影もないゲルロボスの姿があった。体の一部がごっそりと抉り取られたかのように欠損し、体全体に渡って爛れている。
「まさかこの俺が負けるとはな。運のいいやつだ。だが、俺を倒したくらいでいい気になるな! 俺の他にもオファリは存在する。俺が倒されたことは、すぐに他のオファリにも伝わるだろう。精々、首を洗って待っていることだな。ぶはは、ぶはははははははは」
そう言い残すと、ついに維持できなくなったゲルロボスの身体が塵となっていく、そしてそこになにもなかったかのように消失してしまったのである。
「はあ、はあ。くっ、まさかあれだけの修行をしてもぎりぎり勝てるくらいだったとは」
勝負が決した瞬間、気が抜けたのかその場にへたり込む。以前と比べると格段に強くなっていることは確かだが、それでも紙一重の勝負だった。
神気を使い果たした俺は、しばらくそのまま床にへたり込んだ。俺が動けるようになったのは、決着がついてから三十分後くらいだった。
~ Side ????? ~
「ゲルロボスがやられたようだ」
「なに? ……本当だ。やつの禍気が完全に消失している」
「一体何者だ? 神か?」
「わからない。だが、とにかく状況が動いたことは確実だ」
漆黒のなにもない世界、そこにいくつかの影があった。それは決まった形を維持しているわけでもなく、ただただそこに存在するだけのものだ。
ローランドがゲルロボスを倒した直後、その影たちはゲルロボスが倒されたことを鋭敏に感じ取っていた。
「我らオファリの中でも新参とはいえ、ゲルロボスがやられるとはな」
「ふんっ、やつは傲慢だ。大方相手を舐めてかかったのだろう。その光景がありありと浮かぶわ」
「どうする? 動くか?」
「動かざるをえまい。だが、下手に動けば神との抗争が激化するのは目に見えている」
「私が動こう」
深刻な話し合いの中、一つの影が立候補する。その影が正体を現すと、そこには妖艶な美女の姿あった。肩まで伸びた紫色の髪に黄色い瞳を持ち、通常白目であるはずの部分が黒色になっており、一見すると薄紫色の肌と相まって魔族のように見えなくもない。
その一方で、すらりとした体躯に似つかわしくないほどに実った双胸は、まさにスレンダー巨乳という表現がしっくりくる姿であった。
顔立ちも端正で、見る人が見れば絶世という言葉が相応しいほどの美女だが、それがこの世の存在でないことはその姿を見ればすぐに理解できる。
「オレリアシアか。いいだろう。だが、あまり目立った行動は取るな。まずは、ゲルロボスをやった者の正体を突き止めるのだ」
「承知した」
そう短く答えたオレリアシアの姿が闇の中へと消えていく。それを見届けると、誰にともなく口が開かれる。
「やつで大丈夫なのか?」
「やむをえまい。神の監視を掻い潜って現世での活動を秘密裏に行えるオファリとなれば、オレリアシアを除いて他にはいまい。それよりも、ガイアの動向はどうなっている?」
「相変わらずこちらを監視している。だが、我々が表立って動けば、向こうもなにかしらの行動を起こすだろう」
「やつらとのラグナロクが近づいている。なにはともあれ、まずはオレリアシアの成果に期待するとしよう」
そう言い終わると、影たちは漆黒の闇の中に溶け込んでいき、再びその場に静寂が訪れる。
ローランドのもとに再びオファリの魔の手が忍び寄ろうとしていたのであった。
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