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529話「修行の完了とゲルロボス再び」



「はっ、やっ、ていっ、とうっ」


「ほう、なかなか様になってきたではないか! いいぞ、その調子だ」



 そう言いながら、ゴウニーヤコバーンは俺の猛攻を涼しい顔で受け止める。こちらは全力を出しているにもかかわらずだ。



 あれからさらに数万年という時が経過し、俺は練度を上げるためにひたすら神気を鍛えまくった。なかなか地味な作業が続いたが、その成果は無駄ではなく、今ではこうしてゴウニーヤコバーンとまともな打ち合いができるようになる程度には神気の扱いが上手くなったと自負している。



 それでもこの神に勝てる気がしない。最初からなんとなく察してはいたが、やはりこいつはナガルティーニャ以上の化け物だ。



 まあ、神を自称している存在が人の子程度でしかない俺に倒されたとあっては、神としての矜持が保てないのは道理であり、勝てないくらいがちょうどいい。



 ここでこいつに勝ってしまったら、それはそれでいろいろと面倒なことになりそうなので、これ以降はやつとの手合わせは控えるつもりだ。面倒事は避けるに限るのである。



「うむ、よくぞここまで神気を鍛え上げた。僅か十万年程度でここまでになろうとは、思ってもみなかったぞ」


「十万年は“程度”という言葉で片づけていい年月ではないとも思うのだが……」



 人生が八十年として、それを千二百五十回も繰り返せる時間……それが十万年である。



 そんな途方もない時間を程度という言葉で言えるあたり、やはり神という存在は人と違った考え方を持つ別の生き物なのだと痛感する。



 それはともかくとしてだ。ゴウニーヤコバーンのもとで十万年という時を訓練に充てた結果、ある程度神気を操ることができるようになった。



 それだけの時間訓練していれば、どんなものだろうと嫌でも身につくと思われるだろうが、そこは神の気と称されるだけあってそう簡単にはいかなかった。



 練度を一段階上昇させるだけでも地獄のような特訓を行い、段階的に強くしていくしかなく、その期間も千年や二千年という長期にわたって行われることもあった。



 いろいろと時間的な尺度がおかしかったりもするが、とにかく俺はある程度の神気を使いこなすことができたため、ゴウニーヤコバーンの太鼓判をもらうことができたのである。



「これでオファリに対抗できるようにはなった。だが、やつらの力は我ら神に比肩する。神気が使えるようになったとて油断しないことだ」


「わかっている」



 ゴウニーヤコバーンの忠告を俺は素直に聞き入れる。オファリの強さは、実際に戦った俺自身が理解しており、神気を手に入れた今の俺ならば、相手の強さがより鮮明に感じ取れる。



「では、これで神気の修行は終わりだ。元の場所に戻そう」


「今まで世話になった。感謝する」


「ふんっ、せっかく神気を手に入れたのだ。精々簡単にやられないようにすることだ」


「ふっ、気をつけるとしよう」



 そう短い挨拶をすると、ゴウニーヤコバーンは元の場所へと俺を送り届けてくれた。これにて、神気の体得するための修行が終わり、俺は元の下界へと戻ることになった。






 下界へと戻った俺が抱いた最初の感想といえば、どこか懐かしいと感じる執務室の一室だったが、目の前に広がる光景はあまり清々しいものではないというものだった。



 人気はなく、周囲には物言わぬ肉塊と化した死体が散乱しており、凄惨な状態となっている。



「さて、この状況。国王にどう説明したものやら」



 俺にとっては十万年前の出来事だが、下界にいた人間からすれば最近のことなのだ。この状況を説明しなければならない。特に貴族と密接に関わっている国王たちには。



 そんな頭の痛い状況に思い悩んでいたそのとき、予期せぬ出来事が起きる。なんと突如として空間が切り裂かれ、そこから忘れるはずもない存在が姿を現す。



「はははは、ゴウニーヤコバーンの馬鹿め。この俺が、以前の俺だと思い上がったな」


「ゲルロボス」



 空間から現れたのは、ゴウニーヤコバーンが追い返したはずのオファリ……ゲルロボスであった。相も変わらず禍々しいオーラを身に纏っており、その存在は決していいものではない。



 俺の姿を認めたゲルロボスだったが、すぐに俺が以前の俺とは違うということに気づいたようで、雰囲気が一変する。



「ほう。どうやら、あのクソ神から神気の手ほどきを受けたようだな。以前とは比べ物にならないほどの力を感じるぞ」


「おまえに負けたのが少々悔しかったのでな」


「ふっ、神気を身に着けたところで、今のおまえでもこの俺には勝てぬ」


「やってみればわかることだ。領〇展開……」



 激しい戦いになることが予想されたため、辺り一帯を亜空間へと変換させ、一時的に別次元にする。亜空間は、神界のように遮蔽物などの類は一切ない虚空の世界であり、どれだけ暴れても壊れる物体がないため問題はない。



 だが、ゲルロボスが言ったように、それはやつに勝って生き残れればの話であり、敗北すれば今度こそ殺されてしまうだろう。



「小細工は済んだか? では、今度こそ死ねぇい!!」



 そして、ゲルロボスとの第二ラウンドの火蓋が切って落とされる。やつはいきなり勝負を決めようと間合いを詰めてきた。そうはさせまいと、俺はすかさず神気を身に纏って回避する。



 以前には見えなかったやつの動きがはっきりと視認できたことで、容易に回避が可能になった。神気を得たことで、改めて強くなったことを実感する。



「今のを避けるか。だが、避けてばかりでは勝てぬぞ」



 まったくもってその通りである。攻撃は最大の防御であり、勝負に勝つにはどこかのタイミングで攻撃に転じなければならない。



 しかしながら、ゲルロボスの猛攻は激しく、反撃する隙がない。回避に専念することがやっとであり、現時点ではやつの方が押していると言える。



「おのれ、ちょこまかと」



 だが、やつの攻撃は一撃たりとも当たっておらず、クリーンヒットどころから掠りもしない。それだけ、やつの動きが鮮明に見えるようになったということだ。



 それでも、油断すれば以前戦った時のように腕や脚を食いちぎられることは想像に難くなく、決して気を抜いていい戦いではない。



「もういい、お遊びはここまでだ! 圧倒的力の前に朽ち果てるがいい!! 【禍無威かむい】!! 【朽果息吹くちはてのいぶき ディケインドデッドリーブレス】!!!!!!!」



 痺れを切らしたゲルロボスは、ここで切り札を投入する。なにかといえば【禍無威】である。



 なぜ、オファリという存在が神に比肩する存在なのか。その所以は、やつらが使う【禍気かき】と【禍無威かむい】にある。



 読んで字の如く、わざわいの気と呼ばれているそれは、この世のすべての負の力を集約したものであり、神が使う神気と相反するものでもある。



 だが、その力は絶大であり、例え神であったとしても直撃すればただでは済まない代物であるとはゴウニーヤコバーンの言だ。



 そして、その禍気を使用した最大の攻撃が【禍無威】であり、偶然だが神の使う神威と読み方が同じだ。



 さらには、その威力も神威と引けを取らないほど強力であり、だからこそ神々はオファリという存在を危険視している。



 とにかく、ゲルロボスが使った【禍無威】……【朽果息吹 ディケインドデッドリーブレス】が迫りくる。名前からしてかなり凶悪な攻撃であることは容易に想像でき、直撃をもらうわけにはいかない。



 それに対処するべく、俺は神気を全力で開放し、回避を試みる。その結果、直撃を避けることには成功したが、僅かにやつのブレスが掠っていたようで、髪の毛と衣服の一部がまるで朽ちたように崩れていった。



 まさに朽ち果てるといった様相で、まともにくらっていれば、それこそ全身が朽ち果て形を保って入れなかっただろう。



「ふふふふ、辛うじて躱したか。だが、いつまでも躱し続けられるものでもないぞ」


「ちっ」



 ゲルロボスの言葉を肯定するように、俺は舌打ちをする。確かに、このままやつの攻撃を避け続けることは難しい。であれば、攻撃される前に倒してしまえばいいだけの話だ。



「なら、今度はこちらの攻撃を受けてみろ」



 そう言葉を切って、俺はある構えを取り、体中の神気を高め始めた。

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