528話「神威創造」
「神威……神威か。うーん」
俺は悩んでいた。俺に見合った神威とは一体どんなものなのか、決めあぐねていたのだ。
ゴウニーヤコバーンに助言を求めたが、こればかりは自分の手で見つけ出さなければならないの一点張りであり、明確な回答を得ることはできなかった。
ちなみに、彼の神威は神気を重力に変化しそれを相手にぶつけるという強力なもので、その名も【重力圧殺 グラビティクラッシャー】というらしい。
ちょっと中二病臭いなと思いつつも、とりあえずやるだけやってみるしかないということでしばらくの間考えてみたのだが、なかなかこれというものが思い浮かばない。
そもそも神気というものは、火や氷などといった属性に捉われない神属性という属性を持ち、それと合わせてすべての属性に通じる属性でもある。
つまりは、神属性を火に変換することもできれば氷に変換することもできる。ゴウニーヤコバーンはそれを重力に変換して使っており、その威力は絶大の一言に尽きる。
しかし、いくら強力な神威とはいっても、ゴウニーヤコバーンの神威を真似たところで、彼の神威とぶつかり合いになれば、まず間違いなく力負けしてしまう。それでは意味がない。
重要なのは、他の誰もが持たない神威であり、かつ他の神威に対抗しうるものであること。結局のところものを言うのは、自身の持つ神気の絶対量であり、神気が尽きれば神威を出すこともできなくなってしまう。
そういった点から、仮に神威を体得できてもしばらくは神気の絶対量を増やす訓練が必要であり、神威は言わばここぞという時に決める必殺技のようなものだ。某格闘ゲームでいうところの波〇拳やソニ〇クブーム的なものである。……ヨ〇ファイヤー!
まあ、とにかくだ。神威というのは神気を用いて戦う際の必殺技的な秘術であり、神気を操る者にとってはとっておきのようなものらしい。
「ふむ、こういうのはどうだ」
神威の構想を考えていると、ある一つの着眼点に辿り着く。それは俺の基本的な戦闘スタイルに関係していた。
俺は基本的に相手と直接的な戦闘を避けるため、相手を無力化することを前提とした戦いを行う傾向にある。例えば、モンスターを狩るときも相手が肺呼吸をしているのならば、水の魔法で窒息死させたり、肺呼吸をしないモンスターや相手を殺さないようにしたい場合は結界魔法を使って相手を結界に閉じ込めたりしている。
そこで俺は、神威についても攻撃や防御に特化したものではなく、相手に好きにさせないということを追求した妨害系の神威を使えればいいのではと考えたのだ。
攻撃は最大の防御という言葉があるように、この言葉は相手に攻撃をさせないという点において、防御よりも攻撃の方が優れているということを表した言葉である。
裏を返せば、こちらが攻撃をすることによって相手の攻撃の機会を妨害しているということと同義であり、そういった意味では自身の攻撃は相手に防御を強いて攻撃を妨害している行為であると言えなくもない。
そう結論に至った俺は、さっそく神気を使ってそれを表現しようと試みる。だが、そう簡単に上手くはいかない。
まだ自由自在とはいかないが、神気自体を操れるようになるまで数千年という膨大な時がかかってしまっている。神気を使った必殺技である神威を使えるには、さらなる鍛錬が必要なのは明白であった。
それでも、一筋の光明が見えた俺は、それに向かってただただ愚直に神気を操り続けた。
さて、一体どれほどの時が流れたのだろう。俺が神威を得るために神気を使い続けてから感覚に変化が起こった。
それはまるで、足りなかったパズルの一ピースがかちりと嵌り込むような、痒いところに手が届いたという漠然とした感覚に陥る。そして、その感覚に襲われてすぐにゴウニーヤコバーンが口を開く。
「ついに神威にまで至ったか」
「これが神威を得た感覚か」
「どれ、どんな神威を得たのか、見せてもらおうか?」
それから、神威の発動のやり方を教えてもらい、ゴウニーヤコバーンと模擬戦を行うことになった。
「ゆくぞ小僧! 【神威】!! 【重力圧殺 グラビティクラッシャー】!!!!!!」
突き上げられた掌から禍々しい漆黒の球が出現し、それが俺に向かって投げ放たれた。直撃すればただでは済まない攻撃であることは明らかであった。だが、不思議とどこか心が落ち着いていることに気づく。
それが、長年の時を経過したことによって得た心の余裕なのか、それともゴウニーヤコバーンの攻撃に対処できるという自信の表れなのかはわからないが、俺も覚えたばかりの神威を展開する。
「【神威】!! 【神威殺し ディヴァインドサイレンシア】!!!!!!」
迫りくる攻撃に対処するべく、俺の神威が発動する。俺が覚えた神威は、相手の神威そのものを無効化してしまうというものであった。
禍々しい漆黒の波動を放つゴウニーヤコバーンのグラビティクラッシャーに対し、まるで正反対の神聖な白い結界が展開される。白い結界に包み込まれた黑い球は徐々にその力を失い、まるで白い結界に吸収されるように消失する。まさに、神威そのものを無力化したのである。
「ほう、吾輩の神威を完全に無力化してしまうとは。今までになかった神威だ。だがしかし、その能力には致命的な欠点が存在する」
「わかっている。神威を使わないやつには通用しないってことだろ? それについては……【神威】!! 【絶対時間 エンペラータイム】!!!!!!」
「ほう」
いくら無力化できる能力を使ったところで、それは神威の能力そのものに働くものであり、純粋な戦闘力の向上には繋がらない。戦いというものは、勝つことが重要であり、勝利をおさめるにはやはり攻撃手段が必要となってくる。
そこで俺はもう一つの神威を思いつく。なにかといえば、自身の戦闘力を向上させる能力だ。
言葉で説明すると案外大したことはないような気もするが、実のところはかなりの強化となる。
もともと、自身を強化して戦う手法は、身体強化魔法を駆使して今まで行ってきた。それの延長線上として、神気を使った大幅な強化を行うという発想に至るのは、ごく自然なことである。
「神気を使った強化は基本中の基本。それをあえて神威として落とし込むとはな。我ら神にはない発想だ」
「まだ練度が足りない。実戦投入できるのはまだまだ先になるだろう」
それから、ゴウニーヤコバーンと実戦的な訓練を行った。やはり神威の練度が足りず、ゴウニーヤコバーンに押し切られることが多かった。
これからさらに練度を上げ強くなるべく、俺は修行に打ち込んだ。
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