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526話「サイド・ゴウニーヤコバーン」



 ~ Side ゴウニーヤコバーン ~


(ほう、初めてでここまでやるか)



 小僧が神気を押し留めることに成功した感想を吾輩は心の中で漏らす。まさか、一発で神気を自身の体内に取り込むことに成功するとは思っておらず、なかなかのものであると感心せざるを得なかった。



 もともと読んで字の如く神の気と書いて“神気”と呼ばれるそれは、生物が持つ肉体的なエネルギーでもなければ、魔法を使う際に消費する魔力でもない言わば第三の力の根源だ。



 独学でそれを体得できた者は神以外ではごく僅かであり、その希少性から小僧のもといた世界では“超人”や“仙人”などという奇怪な呼ばれ方をしていた。



 神気を使ってできることは使い手によってそれぞれ異なり、一つとして同じ能力はないとすら言われている。実際、吾輩と同じ能力を持っている存在に出会ったことはない。



 そして、神気を使って行使する能力……我らはそれを【神威カムイ】と呼んでおり、神が戦闘で使用する能力はこの神威だけである。理由として、神によっては魔法や物理的な攻撃を無効化してしまう者もおり、例えば火を司る神に火魔法が通用しないといった場合だ。



 そういった存在にダメージを与えるためには、苦手な属性をぶつけてやればいいのだが、都合よくそういった能力を持っていないことが多く、そういった意味でも神威は有効な攻撃手段なのだ。



 神威の属性は使い手の持つ神気を消費して行使されるのだが、その属性は神の属性……差し詰め“神属性”といったものであり、ありとあらゆる属性に対して優位に働く。



 そして、いくら特定の属性に偏っているといっても神であることに変わりはなく、仮に苦手な属性をぶつけられたとしても有効なダメージを与えることができるかは怪しい。



 しかし、神属性である神威ならば属性に左右されることなくダメージを与えることができ、神威を防ぐには同じ神属性の能力で防ぐか神気を使った防御術で対抗するしかない。



(さて、神気を押し留めることには成功したが、本当に大変なのはここからだ)



 目の前の小僧を見据えながら、これからやつが越えねばならない壁について思案する。



 神威に至るための最初の入り口として重要なのは、神気を意のままに操る術を学ぶということだ。



 剣や槍を使いこなすにはそれらを自在に操るための体力が必要であり、魔法を行使するには魔力が必要だ。それと同じように神威を行使するには、神気が必要なのである。



 小僧はまだ神気を体内に押し留めることに成功しただけであり、それを自在に操れるかどうかはこれからの訓練次第ということになる。果たして、小僧にそれだけの才があるかどうかだが、こればかりはやってみなければわからない。



「では、次だ。体内に押し留めた神気を感じ取り、それを動かしてみろ」



 まだ小僧は、神威を習得するための入り口に立ったに過ぎぬ。苦労するのはこれからなのだ。



 まずは、神気をある程度操れるようになる必要がある。そのため、吾輩は体内に留めた神気を動かす訓練を小僧に課した。さあ、一体どのくらいでものにできるか。










 あれから、幾ばくかの時が流れた。小僧は未だに神気を動かせないでいる様子だ。別段小僧が悪いというわけではない。もともと、神気というものがそういった性質を持っているというだけなのだ。



 神気は我ら神が、人間が何代も代替わりする時をかけようやく習得に至った秘術と呼ばれるべきものだ。それ故、そう簡単に体得することはできないものであり、ほんの数十年程度でどうこうできる代物ではない。



 最初の入り口となる神気のコントロールですら数百年レベルの時が必要であり、吾輩とてそれに数千年の時がかかったことを記憶している。



「……」



 小僧と言葉を交わさなくなってしばらく経つ。しかし、体内に押し留めた神気を動かすに至ってはいないようだ。まだ今しばらくの時がかかることだろう。



(それにしても、存外に続くじゃないか。最初の数年で音を上げるかと思ったが)



 我ら神と異なり、有限の時を小僧は生きている。それ故、些か早い段階での結果を求め過ぎる傾向にある。だというのに、今の小僧はただただひたすらに神気と向き合っており、諦めた様子を見せない。



 内心でその様子に感嘆しながらも、それくらいの覚悟がなければ神威は体得できないと思い直し、集中する小僧を見守り続ける。



 さらに時が経過する。すでに数百年の時が経過しており、これが下界であれば小僧はとうの昔に寿命で死んでいることだろう。しかし、この神界には小僧の精神のみ引っ張り出している。そのため、腹も減らぬし肉体の劣化による寿命などの心配がないのだ。



(ん? あれは)



 そして、小僧が神気を操作する鍛錬を始めてから千年の時が経過した。そのとき、小僧の神気に僅かながら変化が生じる。



(馬鹿な。まだ鍛錬を始めてたった千年だぞ。そんな短期間で神気を動かせるわけが――)



 吾輩の心の声を遮るかのように、小僧の体内にある神気が動き始める。これは、小僧の意思によって動かされているものであると明らかにわかるほど、その動きは顕著なものであった。



 まさかこれほどの短期間で神気をどうこうできるとは思わず、吾輩が内心で動揺していると、久方ぶりに小僧が口を開いた。



「一応動かせたが、このあとはどうすればいい?」



 さて、どうしたものか。予想以上に小僧が神気を動かせるようになったため驚きはした。だが、神気を動かせるようになったくらいではまだまだ神威に至ることはできない。



「もうしばらくスムーズに動かせるようになれ。それから次の指示を出す」



 何事も基礎は重要だ。遠回りに思えて実は一番の近道だったりするということはままあることであり、今回においても神威体得の一番の近道は神気を操る基礎を学ぶことである。



 まあ、そう焦ることはない。時間をかけてじっくりとやればいいと小僧に助言し、さらなる神気の鍛錬を積ませた。



 それから、追加で千年の時を費やさせ神気の練度を上げさせた結果、体内における神気の操作については問題なく行えるようになったようだ。



「では次は、神気を一定の場所に集める鍛錬を行う。やり方は、どこでもいいから意識を集中できる場所に自分の神気を集めるのだ。例えば、指先とか掌の上とかだな」


「わかった」



 そう一言告げると、小僧は淡々と鍛錬に勤しむ。こんな普通の人間のどこにそこまでの集中力があるのか知れんが、与えられた指示を確実にこなしていく姿は感嘆に値する。



 其の姿を見ているうちに、吾輩はある可能性に行き着いた。



(いや、まだ推測の域を脱していない。それに、現時点での小僧を見て判断するのは時期尚早か……)



 いずれにせよ、今後の小僧の成長次第では無視できない推測だが、今は吾輩の胸の内に留めておくことにする。



 そんなことを考えつつ、吾輩は小僧の集中する姿を眺めるのであった。

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