524話「絶体絶命」
「ぐっ」
片腕を食いちぎられたことに気づいた瞬間、全身に激痛が走る。咄嗟に残った片腕で傷口を押さえ、出血を魔力で押し留める。
「ほう、これはなかなかの美味。小僧、どうやらそれなりの強さを持っているようだな」
「おまえは一体なんだ!?」
「俺か? 俺は世界と世界の狭間に生きる存在。神どもは俺たちのことをこう呼ぶ……【オファリ】と」
「オファリだと?」
聞いたことがない名前に困惑していると、オファリという存在がさらに説明してくる。
「俺は【オファリ】ゲルロボス。もともと、我らオファリは世界に属する存在だった。だが、我らが神に取って代わる存在になり得ることを知った神々は、我らの存在を抹消するため、世界と世界の狭間に我らを閉じ込めた」
「そんなことが」
「当然そんな理不尽を黙って受け入れるつもりはない。我らは神々に敵対し、自由を求めてやつらに戦争を仕掛けた。だが敗北し、こうして世界と世界の狭間に封じ込められることとなったのだ」
いきなりの展開に困惑していると、ふんと鼻を鳴らしてゲルロボスが言葉を続ける。
「どうやら、おまえも人の道を外しかけているようだ。もう少しすれば、こちら側の存在として神に排除されることだろう。どうだ? 俺の部下にならないか?」
「断る」
ゲルロボスからそんな提案があったが、俺はやつの提案を拒否する。やつの言っていることが本当かどうかも怪しく、仮に俺をだますための狂言の可能性もあったからだ。
しかしながら、圧倒的に鍛えた俺の体をいとも容易く食いちぎるとは。少なくとも、俺よりも遥かに強いことは確かである。
「残念だ。もう少し賢いかと思ったが、部下にならぬのならば死んでもらおう」
「ぐあああああ」
俺が部下にならないと知ると、ゲルロボスは俺を殺そうと襲い掛かってくる。その動きを見切ることすらできず、やつの接近を許してしまい、今度は左の膝から下がなくなる。
その激痛に悶え苦しんでいると、興味なさげにふんと鼻を鳴らし、ながらやつが口を開く。
「今の俺は機嫌がいい。久々にこちらの世界に出られたんでな。いつもの俺なら嬲り殺しにしてやるところだが、苦痛や絶望を感じさせず一思いに殺してやろう」
「くっ。絶対防御【アイギスキューブ】!」
「無駄だ」
大ピンチである。相手の動きが見えず、こちらの攻撃を当てようにも、相手がどう動いているかすらわからない状態だ。ひとまずは結界でこの場を凌ごうとした。だが、その結界はいとも簡単に打ち砕かれた。
「では、さらばだ」
もはやこれまでかと思われたそのとき、やつの巨体を掴むほどの巨大な手が出現し、その動きを拘束する。その突然の出来事に呆然としていると、ゲルロボスの口から舌打ちが聞こえてくる。
「ちぃ、もう勘づきやがったか」
「どうやら間に合ったようだ」
それは聞き覚えのある声で、おそらくはこの世界の神ゴウニーヤコバーンのものだろう。
「こちら側に出てこられては困るのである。大人しく元の場所に戻るのだ」
「なにを言う! 我らの力を恐れ、あちら側に追いやったのはおまえたち神々ではないか!!」
「否定はせぬ。だが、おまえたちは世界の均衡を保とうとはせず、あまつさえ世界を破滅に追いやろうとした。だから、神の権限を持って排除したまで。つべこべ言わずに元の場所へ戻れ」
「放せ! 放しやがれ!!」
ゲルロボスが抵抗するも巨大な手はやつを完全に拘束しており、そのまま床へと引きずり込もうとしていた。よく見ると、そこは奈落のような暗い空間が広がっており、最終的にゲルロボスの体はその奈落に埋まっていった。
「小僧、無事だったようだな」
「この状態を無事と言えるのか? まあ、すぐに再生できるが」
そう言うと、食いちぎられたはずの右腕と左足がにょきにょきと生えて元通りになった。【超再生】の力によるものだ。
「あれは一体なんなんだ?」
「あれは、我々神々と敵対する存在。彼奴らは自身のことをオファリと称し、再びこの世界に混沌をもたらそうとしている」
「まったく動きが見えなかった」
「あのような禍々しい姿をしておるが、その力は我ら神に届き得る。今のお主では、歯が立たんのは道理だ」
なんということだ。まさか、ここにきてロリババア以外に俺より強い存在が現れるとは。
一体どうすればいいのか考えていると、神がある提案をしてきた。
「ところでだ。お主、吾輩の眷属になる気はないか?」
「はあ? 眷属だと?」
「吾輩の眷属になれば、神の御業を教えることができる。その力があればやつに後れを取ることもないだろう。どうだ?」
「要するに弟子入りということか?」
「……まあ、似たようなものだが」
俺の例えに曖昧に頷く神だが、おおよそのところは間違っていないため、否定しないといったところだろう。さて、俺がどうするのかといえば、答えは一つだ。
「ならば、その神の御業とやら教えてもらうとしよう」
このまま独自に修行を積んでもいいが、ゲルロボスと今の俺の力の差は隔絶しており、例え数百年修行をしたとしてもその差を埋めることはできないという感覚があった。
であるのならば、ここは確実に強くなれる方法を取るべきであり、その方法が提示されている以上、それを断るのは下策である。
「いいだろう。では、今からお前の精神を吾輩のいる神界に引っ張り上げるぞ」
そう言うと、気が遠くなっていく感覚があったと思えば、気がつくとそこにはなにもない空間が広がっていた。
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