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523話「突然の出来事」



「ちぃ、まさか強制転移させられるとは」



 そう舌打ちしながら、俺は周囲の状況を確認する。公爵家ともなればとんでもない秘密を隠し持っているとは予想していたが、まさか転移の魔法陣で飛ばされるとは思ってもみなかった。



 幸いというべきか、前回飛ばされたときのように時空魔法が使えないなどということはないようだが、はてさて一体どこに飛ばされたのやら……。



「なぜ、おまえがここにいる?」


「魔王? それから、おしぼりの」


「おさぼりよ!」



 声のした方を振り返ると、そこにいたのは、魔王ベリアルと七魔将の一人であるおしぼりのヘラだった。相変わらず騒がしい女だ。



「逆になぜおまえたちがここにいる?」


「……? 魔界に魔王がいてはおかしいというのか?」


「魔界? ここは魔界なのか?」


「そうだが」



 なんと、俺が飛ばされた場所は魔界だったようで、あろうことか魔王のいる玉座の間に飛ばされたようだ。



 一体どうしてこんなところに飛ばされたのかは謎であるが、おそらくはかつて魔族と人間が争っていたとき、魔族が人間を攻める際に使用した魔法陣がそのまま残っていたのだと推察される。



 長い年月を経て、それがクローマク公爵家の手に渡り、今の今まで残り続けていたというわけだ。



「なるほどな。大体のことは把握した」


「こちらは困惑しているのだが」


「そうよ、ちゃんと説明しなさい」


「実は、かくかくしかじかでな」


「なにを言ってるのかさっぱりわからん」



 結局説明することになったが、俺の説明でようやく納得してくれたらしく、俺が出した結論と同じ答えに辿り着いたようだ。



「まさか、数百年前にあった戦争の遺産がまだ残っていようとは」


「まあ、あの頃はいろいろと無茶をした時代だったから無理もありませんわ」


「というわけで、俺はこれにて失礼する」



 しみじみと昔のことを語る魔王とヘラだが、そんな昔のことになど興味はなく、俺は早々に元の場所へと戻るべく転移を使った。



「や、やめてくれぇー」


「た、たすけ、助け――」


「な、なんだこれは?」



 魔王たちと別れてクローマク公爵の執務室に戻ってみると、そこにはいろいろと阿鼻叫喚な状況が待っていた。まるで嵐の中にいるような凄まじい風が吹き荒れ、それが一つの生き物のように執務室を支配している。



 それに巻き込まれた人間は、体を引き裂かれ物言わぬ肉塊へと姿を変貌させている。一体なにがあったんだ?



「クローマク公爵は? ……死んでいる」



 状況を把握する間もなく、クローマク公爵の姿を探すと、執務机の傍らにすでに事切れた公爵の姿があった。その物言わぬ死体となった彼の体は上半身と下半身が綺麗に切断されており、まるでそこから綺麗に一刀両断されたかのような切り口だ。



「これは、まさか魔法陣が暴走したのか?」



 吹き荒れる風の出所がどこなのか探すと、それは鈍く光り輝く魔法陣から出ていることが見て取れる。数百年という長い年月の間、なんのメンテナンスもされず放置され続けていた結果、暴走を起こしてしまったらしい。そういう意味では、最初の起動で俺が飛ばされて無事だったのは運が良かったと言うほかない。



「っ!? シールド展開! あぶね」



 そう思いながら魔法陣を見ていると、そこから斬撃を孕んだ突風が俺に襲い掛かってくる。咄嗟にシールドを張って防御したが、直撃していればクローマク公爵のように体が真っ二つになっていたのは想像に難くない。



「とりあえず、魔法陣をどうにかしないとな。このままっていうわけにはいかないだろうし」



 そうぼやきつつも、魔法陣を取り囲むように結界を張る。すると、吹き荒れていた風が止んだ。しかし、これは一時的な応急処置でしかなく、どうにかするためには、魔法陣自体をどうにかしなければならない。



「ずっと結界を張り続けることもできなくはないが、そのためには定期的なメンテナンスが必要になってくるだろうし。はてさて、どうしたものか」



 そう考えていたそのとき、突如として結界に亀裂が入り封じ込めていた風が再び吹き荒れる。あの風圧がまたくるかと思ったが、予想に反して何事もなかったかのように風が掻き消える。



 それで終わりかと思われたが、鈍く光る魔法陣は健在で、そこから紫がかったどす黒い巨大な手が出現する。



「なんだあれは?」



 それは魔法陣から出てこようとしているようで、まるで地中から這い出ようとするゾンビのような挙動をしていた。そして、魔法陣から這い出てきたのは巨大な化け物だった。



 その様相はおぞましいの一言に尽き、全身が禍々しい紫色をしており、どう考えてもこの世のものとは思えない異形ものだ。姿形は二足歩行の巨人のようにも見えるが、巨人でないことは明らかであり、どう見てもこの世の生物ではない。



「ふう、ようやく抜け出せたぜ。あのクソ神野郎。この俺をこんなところに封じ込めるとは。いずれ目にものを見せてくれる」


「クソ神? あいつのことか」



 さらに驚くべきことに、そんな異様なものが人の言葉を話しており、その内容がまたなんとも不穏なものだった。



 とりあえず、見た目以外の相手の情報を探るべく、俺は解析を試みた。しかし、その結果は俺の予想したものとは大きく異なっていた。






【名前】:****************


【年齢】:****************


【性別】:****************


【種族】:****************


【職業】:****************



体力:****************


魔力:****************


筋力:****************


耐久力:****************


素早さ:****************


器用さ:****************


精神力:****************


抵抗力:****************


幸運:****************



【スキル】:****************





 な、なんだこれは? こいつのステータスはおかしい。名前からスキルにいたるまですべての情報の詳細が不明となっている。こんなことは初めてだ。



 仮に相手が格上の存在だった場合、詳細を知ることができないという意味で“?”で表記されるはずなのだ。だというのに、今回は“*”で表記されている。



 可能性としては、こいつがこの世界の生物ではなく、どこか別の世界での理で存在しているという可能性だ。だからこの世界のステータスの規格に合致しないため、詳細なステータスが表示されないのかもしれない。



「っ!?」



 そんなことを考えていると、右腕にちくりとした痛みが生じる。その痛みが右腕を食いちぎられたものだったと理解するのに数秒を要した。

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