521話「ヴァストール伯爵とベラモス侯爵」
「あばべらっ」
「何事か!?」
ヴァストール伯爵のいる執務室の扉を守っていた護衛を吹き飛ばし、護衛ごと扉を破壊する。正面にある執務机に座っていた人物が何事かと叫ぶ。おそらく、こいつがヴァストール伯爵だろう。
「ヴァストール伯爵か?」
「貴様は……貴様、一体なんのつもりだ? こんなことをしてタダで済むと思っているのか?」
襲撃者が俺であることを知った伯爵が高圧的な態度を取る。まあ、今更ただの人間の威圧に俺がビビるはずもなく、淡々と事実を述べる。
「国王の許可は得ている。大人しく俺の更生を受け入れろ」
「ふんっ、こうなればむしろ好都合よ。おい、仕事だ」
そう言いながら、伯爵がぱちりと指を鳴らす。すると、どこからともなく黑い装束に身を包んだ刺客が姿を見せた。おそらくは、伯爵家で雇われている暗殺者だろう。
「やれやれ、面倒なことだ」
「形勢逆転だな。貴様こそ大人しくここで死ね」
「【パラライズ】」
なにを勘違いしたのか、伯爵が勝ち誇ったような顔で宣っている。俺は内心で呆れつつも、相手を麻痺させる魔法を使う。すると、まるで糸の切れた人形のように刺客たちがバタバタと倒れた。
「ほう、抵抗したか」
「やれダコルテ! やってしまえ!!」
「ネームドか。いいだろう。最後のあがきを見せてみろ」
俺の魔法に抵抗した最後の一人が、伯爵の激に応えて果敢に攻撃を仕掛けてくる。その動きは確かに洗練された動きで、常人にしては素早い動きであった。そう、常人にしてはである。
「なにをやっているのだダコルテ!」
(あ、当たらない。否、紙一重のところで躱されている?)
ダコルテと呼ばれた刺客の攻撃をぎりぎりのところで躱していく。当然俺の意図にダコルテは気づいており、その顔からは焦りが伝わってくる。しばらくダコルテの攻撃を躱し続けたところで、声をかけてやる。
「もう気が済んだだろ。大人しく諦めたらどうだ?」
「……」
「例え百年俺に攻撃し続けたところで、おまえの攻撃が当たることはない」
それでも、攻撃をやめることをしないダコルテ。仕方がないので、やつの攻撃と同時に懐に飛び込み、精一杯手加減をしたカウンターパンチをお見舞いする。手加減したとはいえ、それでも人ひとりを吹き飛ばすには十二分な威力を持っており、ダコルテの体が宙を舞い、そのまま壁に激突する。
普通ならばそれで終わりのはずだが、頑丈な体なのか、腹を押さえつつもなんとか立ち上がったようだ。ふーん、なかなか根性あるじゃない。
「【シャドウバインド】。さて、伯爵改めてだ。大人しく俺の更生を受け入れろ」
「馬鹿な。ダコルテが手も足も出ないだと……」
「【オーディールナイトメア】」
呆然と立ち尽くす伯爵を魔法で眠らせる。これで目的は達成したが、まだ残っていることがあった。
「さて、ダコルテとか言ったか?」
「殺せ」
「ふっ、暗殺者はそればっかりだな。捕まえた途端に「殺せ殺せ」と要求する」
「任務に失敗したんだ。その咎を受けるのは当然だ」
「まあ、そう逝き急ぐな。どうだ、俺に雇われる気はないか?」
「雇われるだと?」
俺の突拍子もない提案に、訝しげな顔をするダコルテ。だが、次の瞬間には呆れたような表情を浮かべる。
「敵対していた暗殺者を雇うなどあり得ん。裏切るのが目に見えていると思わんのか?」
「それはあくまでも雇おうとしている人材が優秀だった場合だな。今回の場合、それほど優秀じゃないから問題ない」
「……」
俺の言葉に、ダコルテは眉を寄せる。どうやら、プライドを傷つけてしまったらしい。だが、事実であることに変わりはなく、どうせ雇われれば真実を知ることになるため、今のうちから本当のことを言っておくことにしたのだ。
「伯爵が目を覚ませば、すべての罪を償おうとするはずだ。当然、それに加担したお前も処刑されることになる」
「あんたに雇われれば、そうならずに済むっていうことか?」
「そうだな、少なくとも死ぬことはなくなる。それは、俺が保証しよう」
俺が命の保証をすると口にすると、俯いて考えているようだ。そして、しばらくして口を開いた。
「わかった。あんたに雇われよう」
「懸命な判断だ。それと、おまえの部下についてだが、一緒に雇われるかどこかに逃げるかそれとも自首するか、好きな選択をすればいい。今回必要な人材は、おまえだけだ。最初の仕事としてその説明はおまえに任せよう」
ダコルテとの交渉を終えた俺は、あとのことを彼に任せ、その足で次の貴族のもとへと向かった。
「こうなったら、切り札じゃ!!」
いろいろとすっ飛ばしてしまったが、次に俺がやってきたのはベラモス侯爵家だ。現当主のベラモス公爵は細い体型をしたつるっぱげの老人で、一見すると人畜無害の人物に見えた。
伯爵家同様魔法が効かなかったため、直接護衛を倒して回り、これまた同じく侯爵と一対一で対峙することになったのだが、追い詰められた侯爵がなにかを投入しようとしていた。
侯爵が魔力を解き放つと、足元に魔法陣が形成される。そこに現れたのは、禍々しい雰囲気を身に纏った巨大なモンスターであった。即座に能力を調べると、そいつはSSランクに分類されるモンスターであった。
「どうじゃ、禁術によって生み出された化け物! その名も【ギガントサイクロプス】じゃ!! もはやこいつを止めることは誰にもでき――」
「【気〇斬】」
なにやらベラモス侯爵が勝ち誇った顔で講釈を垂れていたが、そんなものに付き合ってやる意味はないので、やつの言葉を遮るように某漫画のキャラクターが使う切れ味の鋭い円盤を投げつける攻撃を行った。
すると、ギガントサイクロプスの首から上が吹き飛び、ちょうど侯爵と目が合うような構図になった。
「ひっ、ひぃー、わしの最強のギガントサイクロプスがぁー」
「もう気が済んだだろう。大人しく眠れ」
ギガントサイクロプスが一瞬にしてやられたことで動揺する侯爵だったが、やつが落ち着くのを待ってやる義理はない。混乱しているやつに目掛け【オーディールナイトメア】を使って止めを刺した。
それから、伯爵のときと同じように侯爵に雇われていた暗部も引き抜き、なかなか諜報部門の人材の確保については順調に進んでいる。
「さて、残りはクローマク公爵か」
そう呟くと、俺は最後の貴族となるクローマク公爵の屋敷へと移動を開始した。
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