440話「ピンク色の夜襲」
「うふふ、いい子ねぇ~。何も怖いことはないのよ~。今からお姉さんが気持ちいいことしてあ・げ・る。気持ち良すぎて、干乾びちゃうかもね」
(なんだこれは? 夢か?)
目の前には、現実なのか夢なのか認識しづらい光景が広がっている。そこにいたのは、一人の女だ。見た目は妙齢でありながら纏っている雰囲気は妖艶であり、まさに魔性という存在を体現しているかのような姿をしている。
紫色の艶やかな髪とすべてを見通すかのような黄色い瞳もまたその妖艶さを加速させており、その体つきもまた豊満という言葉が相応しい程の魅惑を放っている。さらに本人は狙ってやっているのか、それともそういう姿を好んでいるのかはわからないが、表面積の少ないボンテージのようなのもを身に着けており、胸に至ってはその大きさ故に今にもこぼれ落ちそうだった。
これが現実であるとするのであれば、目の前にいる女はおそらく情報収集の途中で耳にした夢魔と呼ばれる存在であり、人間の生気を吸って生きているとされるモンスターである。
しかも、夢魔は人の姿に近い知性あるモンスターであるが故に少なくともSランクに分類されるモンスターとされており、そのステータスもかなりの能力を持っているため、並の人間が相手では抵抗することすらできない。
【名前】:イリネベラ
【年齢】:636歳
【性別】:♀
【種族】:サキュバス族・サキュバスクイーン
【職業】:なし(SSランク)
体力:820000
魔力:1320000
筋力:SA+
耐久力:SB+
素早さ:SA-
器用さ:SC+
精神力:SD+
抵抗力:SB+
幸運:SA-
【スキル】
魔道の心得Lv2、共通魔法Lv1、自然魔法Lv1、漆黒魔法Lv8、時空魔法Lv6、
格闘術Lv4、並列思考Lv2、威圧Lv2、家事全般Lv1、錬金術Lv2、パラメータ上限突破Lv1、幻惑耐性Lv9、
幻惑Lv9、生気吸引LvMAX、
【状態】:発情(大)
相手の情報を入手するべく、超解析のスキルで調べた結果がこれだ。どうやらサキュバスの中でも王族クラスのサキュバスさんらしい。
持っている能力もかなりバランスが取れており、意外にも家事全般や錬金術といった能力も持っている。……こいつは、使えるかもしれない。
だが、サキュバスのくせに状態が発情とはどういうことだと思うが、いかに性的なものに慣れているとはいえ、興奮するものは興奮するのだろうかというこの状況で考えるべきことではないような取り留めのないことを考えているが、思考を真面目な方向に戻すべく、続いて自分の状態を確認するとやはりというべきか【状態】の一覧に幻惑(大)という状態異常が認められた。
今でも目の前にいるサキュバスにその情熱をぶつけてしまいたい衝動と戦っているが、幸いなのか俺の高い魔力や精神力や抵抗力などといった状態異常に対して効果を発揮するパラメータが仕事をしているらしく、理性を失うほど取り乱してはいない。例えるなら、トイレを我慢している状態に近い。
「うふふ、いいのよ~。お姉さんのこの柔らかくて大きなおっぱいを好きにして」
(実に魅力的な提案だが、状況としては芳しくないなこれは。奴の吸引で体力と魔力が減り出している)
俺が理性と抗っていることを理解しているのか、自身の胸を押し上げアピールしてくる。元々大きく膨らんだ形のいい胸がさらに盛り上がり、こちらを誘っているかのように上下に揺れる。俺とて男であるからして、そんなものを見せられて平静でいられるかといえば、困難であると言わざるを得ない。ましてや、今は奴の幻惑によって普段押さえ込んでいる理性のタガが外れ掛かっている。そんな状態で、目の前にいる女体に触れるなというのが不可能に等しい行為だった。
自分の意志とは無関係に、俺の手が彼女の胸に伸びる。それを見た彼女が、口の端をにやりと歪め、さらに追い打ちとばかりに誘惑する。
「ほらほら~。我慢は体に悪いわよ~。私は人じゃないんだから、欲望をぶつける道具と思って思い切り来てちょうだい」
「なら、そうさせてもらうとしようか。 ふんっ」
「え? ちょっ、痛い痛い痛い痛い痛い! ちょ、ちょっとぉー、ど、どこを抓ってるのよ!?」
そうこうしている間も、奴の能力によって確実に体力と魔力を吸われ続けている。いくら俺が体力と魔力が多い化け物といってもその量は有限であるため、早く何とかしないと取り返しがつかなくなる。それに加えて、傲慢だがやはり初めては好きな相手とするべきだと俺は思う。そう、初めては好きな相手と……。故に、いくら目の前の女が魅力的でも、好きでもない相手とこういった行為はするべきではないのだ。
そう考えていると、自然と冷静さが戻ってくるのを感じる。気付けば、俺のスキル欄に【幻惑耐性】が発現し、さらに耐性レベルがぐんぐんと上昇していく。あれよあれよという間にレベルが9まで上昇し、すでに奴が使う幻惑スキルが効かない状態となった。
そうなってくると、馬乗りになっているこいつが邪魔だ。俺は未だに発情状態にあることを装い、奴の胸に手を持っていく。そして、奴の胸を触る振りをしてその先端部分に存在するピンク色の突起物を抓ってやったのだ。
ただでさえ柔らかい脂肪が集中している部分であるため、筋肉などの硬い部分がない。それに加え、局部ということでそこにはあらゆる感覚を感じ取る神経が通っている。そんな場所を思いっきりではないとはいえ抓り上げられたらどうなるのかは想像に難くない。
そのあまりの痛みに、馬乗りになっていた奴が俺の身体から降りて抓られた部分をさすっている。そんな姿もエロいといえばエロいが、既に耐性スキルを獲得した俺からすれば不快極まりない光景であるため、呆れた表情を浮かべている。
「はあ、はあ。よ、よくもやってくれたわね! 餌の分際でこの私に楯突いたこと、後悔しなさい! 【ダークランス】!!」
俺のやった小さな反撃がお気に召さなかったようで、俺を殺そうと攻撃魔法をぶっ放してくる。しかし、夜のアレコレであれば不慣れだが、こと戦闘となれば話は変わってくる。
襲い来る闇の槍を蚊でも叩き落すかのように手を払い落とすと、反撃とばかりにこちらも魔法を使う。
「シャイニングチェーンバインド」
「ぐっ、こ、これは!?」
「さて、散々好き勝手やってきたみたいだからな。少しばかり、お仕置きが必要なようだ」
「な、なにをするつもり!?」
「すぐにわかる」
そのあと何が起こったのか、具体的なことは言うまい。ただ、一つだけ言及することがあるとすれば、今まで頭の片隅に追いやっていた【拷問】というスキルのレベルがかなり上がる羽目になったということだけだ。解析の結果でも表示されなかった内容だが、スキルが空気を読んだのか知りたい情報だけを表示して、知りたくない情報は自動で秘匿していたらしい。
そして、俺のお仕置きを受けたサキュバスクイーンのイリネベラはというと……。
「もっとぉ、もっとくださいませぇ~。ごしゅじんしゃまぁ~」
どうやら、何かに目覚めてしまったようで、俺の拷問によっておかしなことになっていた。俺としては反省を促す意味で行っただけなのだが、何故か別の意味でご褒美となってしまったようだ。
こうして、一連のミイラ騒動を起こしていた犯人のサキュバスを懲らしめることには成功したが、俺を待っていたのは予想通りというか、望んでいない結末であった。
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